東京大学海洋研究所

全国共同利用・共同研究拠点

ナビゲーションを飛ばす

go to english page

facebook_AORI facebook_AORI

  • ホーム
  • 研究所概要
  • 教員&スタッフ
  • 研究活動
  • 共同利用
  • 進学希望の方へ
  • アクセスマップ

南海トラフ津波地震を巨大化する新たな仕組みの解明

2014年11月12日

朴 進午(東京大学 大気海洋研究所)

発表のポイント: ◆南海トラフ沈み込み帯の浅部プレート境界断層(デコルマ)内部に存在する流体の分布が異なることが明らかになった。 ◆デコルマの異なる流体分布とそれに伴う間隙水圧(注1)の変化は南海トラフの津波地震を巨大化する可能性がある。 ◆この成果は、南海トラフ巨大地震・津波発生モデルの構築や、防災・減災対策に貢献するものである。

発表概要

2011年の東北地方太平洋沖地震と津波災害以降、西南日本の南海トラフにおいてもデコルマの地震性滑りによる大津波の発生が懸念されている。しかしながら、南海トラフ津波地震の発生に重要な役割を果たすとされているデコルマの実態と挙動はほとんど分かっていない。

東京大学大気海洋研究所の朴進午准教授らの研究グループは、南海トラフの反射法探査(注2)データを調べ、南海トラフの西部から東部にかけてデコルマの反射極性(注3)が負と正を繰り返していること(図1)を発見した。この結果に深海掘削データを加えた詳しい分析で、デコルマの内部に存在する流体の分布が異なることが明らかになった。デコルマの異なる流体分布とそれに伴う間隙水圧の変化は南海トラフの津波波源域を大きく拡大する可能性があり、流体が津波地震の巨大化を招く新たな仕組みとして示唆される。

今回の成果は、南海トラフ巨大地震・津波発生モデルの構築や、防災・減災対策に貢献すると期待される。また、次の南海地震・津波災害に備える上でデコルマに沿う流体変動のモニタリングは重要な課題となることを示唆している。

発表内容

(1) 背景

2011年の東北地方太平洋沖地震では、地震に伴う断層滑りがデコルマに沿って海溝軸近傍まで至り、結果として大きな津波が発生した。一方、西南日本の南海トラフにおいても歴史的に繰り返し大地震が発生し、沿岸域に甚大な津波災害を招いてきた。自らの地震エネルギーに比べて異常に大きい津波を励起する『津波地震』の際に、地震性滑りがデコルマに沿って海溝軸付近まで達すると、津波の規模が大きくなると考えられている。実際に1605年の慶長地震(注4)は南海トラフのデコルマが引き起こした典型的な津波地震として知られ、次の南海地震でデコルマの挙動(デコルマが滑るかどうか、滑るならどのように滑るか)は津波防災上の最大の関心事である。しかしながら、南海トラフ津波地震の発生に重要な役割を果たすとされているデコルマの実態と挙動はほとんど分かっていない。

本研究グループは、津波地震を引き起こせるデコルマの実態と挙動を解明するため、南海トラフのほぼ全域を覆う反射法探査データに深海掘削データを加え、デコルマの構造と物性を総合的に調べた。

(2) 成果と考察

反射法探査データの反射極性を調べた結果、デコルマの反射極性が南海トラフの西部から東部にかけて負と正の繰り返し(図1)を示すことが判明した。これによって、南海トラフ東西500km以上のデコルマ発達域は5つの異なる領域に区分されることが明らかになった:?四国沖A領域(負;図2)、?紀伊水道沖B領域(正)、?潮岬沖C領域(負)、?熊野沖D領域(正;図3)、?熊野沖東部E領域(負)。深海掘削データを加えた詳しい解析で、負の極性は、流体に富むデコルマが高間隙水圧の状態で、正の極性は、流体に乏しいデコルマが低間隙水圧の状態であることを示唆した。

断層に流体が濃縮され、高間隙水圧を維持すると、断層面に対する垂直応力が低下し、デコルマは地震性滑りの挙動を示すと知られている。プレート沈み込み帯の深部で励起される超巨大地震性滑りがデコルマに沿って浅部の海溝軸近傍まで達する場合(例:2011年東北地方太平洋沖地震)、南海トラフのほとんどのデコルマは破壊され、巨大津波が発生する可能性が高い。一方、浅部のデコルマが自ら地震破壊核となる場合(例:1605年慶長地震)、低間隙水圧のデコルマ(強い剪断強度)が地震の初期破壊核となり、その地震性滑りがほぼ同時に周辺の高間隙水圧のデコルマ(弱い剪断強度)へ伝播することで、津波の規模が更に大きくなる可能性がある(図4)。実際に、四国沖や紀伊半島沖を主な波源域とする1605年に発生した慶長地震の場合、狭いB領域(低間隙水圧のデコルマ)で津波地震の初期破壊が起こり、その地震性滑りが周辺の広いA領域やC領域(高間隙水圧のデコルマ)へ伝播することで結果的に巨大津波が発生したと推察される。

(3) 研究の意義と今後の展望

今回明らかになった南海トラフ全域におけるデコルマ反射極性(負・正)の繰り返しは、デコルマの流体分布および間隙水圧が変動している証拠となる。本研究の成果は、流体分布の異なるデコルマ同士で間隙水圧が異なることによって津波地震が拡大する可能性を示唆した。また、南海トラフ全域の空間においてデコルマの流体が変動していることを明らかにしたのは、本研究が初めてである。

今後、デコルマの流体分布と間隙水圧の異常を地震発生モデルに取り入れ、南海トラフ巨大地震・津波発生モデルを再構築することで、防災・減災対策への貢献が期待される。次の南海地震・津波災害に備える上でデコルマの流体変動をモニタリングすることは重要な課題となる。

発表雑誌

雑誌名:米国地球物理学連合の学術誌「 Geophysical Research Letters 」
   (11月17日発行予定の第41巻第20号電子版に掲載される)
論文タイトル:Along-strike variations in the Nankai shallow décollement properties and their implications for tsunami earthquake generation
著者:朴進午1,、成瀬元2、Nathan L. Bangs3
   1.東京大学大気海洋研究所、2.京都大学、3. 米国テキサス大学オースチン校
DOI番号:10.1002/2014GL061096
アブストラクトURL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2014GL061096/abstract

問い合わせ先

国立大学法人 東京大学 大気海洋研究所
准教授 朴 進午(ぱく じんお)
E-mail: jopark◎aori.u-tokyo.ac.jp      *アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

用語解説

注1 間隙水圧
断層の内部に存在する流体の圧力。
注2 反射法探査
海水面の近くで人工的に放出させた振動(弾性波)が下方に進行し、速度と密度が変化する海底下地層境界面で反射して、再び海水面へ戻ってきた反射波を受振器(ハイドロフォン)で捉え、 収録された記録を処理・解析することにより、海底下地下構造を解明する手法である。
注3 反射極性
反射法探査で捉えられた反射波のピーク(正)とトラフ(負)を指す。通常、音響インピーダンス(速度×密度)の増加する地層境界面からの反射波は正の極性を、音響インピーダンスの減少する地層境界面からの反射波は負の極性を示す。
注4 慶長地震
1605年2月3日に南海トラフで発生した巨大地震で、マグニチュード7.9前後と推定される。地震による陸地の揺れが津波被害に比べて小さいのが特徴であり、典型的な津波地震として知られている。

添付資料

図1 南海トラフの反射法探査測線(灰色)。
測線2と5の反射法探査断面図(黄色)は、図2と図3にそれぞれ示す。負と正の反射極性を持つデコルマは、それぞれ青線と赤線で示す。反射極性により、南海トラフのデコルマ発達域は5つの異なる領域に区分できる:?四国沖A領域(負)、?紀伊水道沖B領域(正)、?潮岬沖C領域(負)、?熊野沖D領域(正)、?熊野沖東部E領域(負)。

図2 流体に富むデコルマを示す反射法探査断面図の例(測線2)。
デコルマ(青点線)を境界面として海洋性地殻が南海トラフ付加体の下面に沈み込んでいる。
(図右上)デコルマと海底面の反射波を拡大して表示。海底面(赤-黒-赤)に比べ、デコルマ(黒-赤-黒)は負の反射極性を示す。

図3 流体に乏しいデコルマを示す反射法探査断面図の例(測線5)。
デコルマ(青点線)を境界面として海洋性地殻が南海トラフ付加体の下面に沈み込んでいる。
(図右上)デコルマと海底面の反射波を拡大して表示。海底面(赤-黒-赤)に比べ、デコルマ(赤-黒-赤)は正の反射極性を示す。

図4 津波地震において津波波源域が巨大化する仕組みの概念図。
低間隙水圧のデコルマ域で津波地震の初期破壊が起こった場合、その地震性滑りがほぼ同時に周辺の高間隙水圧のデコルマ域へ伝播することで、津波の規模が更に大きくなる。

プレスリリース