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最古の「首長竜」を発見 −中生代に繁栄した海生爬虫類の起源を解明−

2017年12月19日

Tanja Wintrich(ボン大学)
林 昭次(岡山理科大学)
Alexandra Houssaye(パリ国立自然史博物館)
中島保寿(東京大学大気海洋研究所 学振特別研究員)
P. Martin Sander(ボン大学)

発表のポイント

◆ドイツの約2.05億年前の地層から、中生代に繁栄した海の爬虫類である首長竜(プレシオサウルス類)の最古の化石を発見し、新属新種として命名した。
◆本研究により、首長竜は三畳紀に登場し、三畳紀—ジュラ紀境界の大量絶滅を生き延びていたことが初めて示された。さらに骨組織の特徴から、首長竜は三畳紀の時点で内温性を獲得しており、速く成長できるようになっていたことが判明した。
◆今後の研究において、大量絶滅での生物の存亡を決定づける要因として成長速度などの生理学的側面に注目することで、現在の生態系の成り立ちをより深く理解することができる。

発表概要

絶滅した「プレシオサウルス類」は、中生代に繁栄した海の爬虫類で、多くの種類は長い首を持っているため「首長竜」とも呼ばれている。本研究では、ドイツ三畳紀最末期(約2.05億年前)の地層から、首長竜としては最古となる骨格化石を発見し、新属新種ラエティコサウルス・メルテンシ(Rhaeticosaurus mertensi)と命名した。これまで首長竜は中生代のジュラ紀に出現したと考えられてきたが、今回の発見により、首長竜の起源がジュラ紀より古い三畳紀まで遡ること、また首長竜が三畳紀・ジュラ紀境界(約2.01億年前)に起きた大量絶滅を生き延びていたことを明らかにした。ラエティコサウルスを含む首長竜は、ずんぐりした体幹と4枚の翼状のひれを持ち、外洋で効率的に泳ぐことに適していたと考えられる。さらに骨組織の解析から、ラエティコサウルスを含む首長竜が爬虫類としては例外的に、体温を高く保つことによって早く成長していたこともわかった。このような生活・成長のスタイルは、三畳紀末の海洋生態系において首長竜が生存するために重要な役割を果たしたと考えられる。

発表内容

首長竜(プレシオサウルス類)は、中生代に繁栄した海生爬虫類(注1)の1グループである。首長竜は一般的に、その名の通り首が長く、翼状に発達した4枚のひれあしを持ち、羽ばたくように泳いでいたと考えられている。首長竜の中には体長10mを超えるものや、頭だけで2mを超える捕食者などがいたとされ、それらはジュラ紀(2.01億年前~1.45億年前)から白亜紀(1.45億年前~6600万年前)にかけて、海の食物網の上位に君臨していた。

これまで首長竜は、三畳紀(約2.52億年前~約2.01億年前)の末に起きた大量絶滅事件の後、ジュラ紀に入ってから現れたものと考えられてきた。今回我々の研究グループは、ドイツ中央部の都市ボネンブルグ(Bonenburg)の採石場に露出していた三畳紀の最末期(約2.05億年前)の地層から発掘された新たな海生爬虫類の骨格化石を報告した。この爬虫類の推定体長は約2.4mで、ジュラ紀の首長竜であるプレシオサウルスと同様、1)柔軟性の低い首、2)翼状の四肢、3)ずんぐりとした体幹部、4)短い尾を持っていた(図1)。このような特徴を併せ持った三畳紀の海生爬虫類は他に見つかっておらず、新発見の化石標本は正真正銘の最古の首長竜であると結論付けられた。これらの形態学的特徴は、首長竜の分類学的特徴となるだけでなく、外洋において効率よく遊泳することに適応していたことを示している。

さらにこの新発見の首長竜骨格には、脊椎骨の背側部分と腹側部分の接触面がV字状に深く切れ込む点や、前腕部・下腿部の長さがそれぞれ上腕部・大腿部と比べて極端に短い点など、これまで知られている首長竜類にはない特徴も確認され、新属・新種として記載することが妥当であると判断された。化石が発見された三畳紀末の時代区分「レート階」と化石発見者の「マイケル・メルテンス氏」にちなみ、ラエティコサウルス・メルテンシ(Rhaeticosaurus mertensi:ラテン語で「メルテンス氏のレート階の爬虫類」)と命名された。

また本研究では、ラエティコサウルスの骨を切断し、成長記録となる骨組織を顕微鏡で観察した。その結果、同個体の骨内部には、ぎっしりと放射状に発達した血管の痕跡など、現存する動物の中でも成長速度の早い動物(哺乳類・鳥類など)に見られる特徴が確認された(図2)。このことから、ラエティコサウルスも急速に成長していったことがわかる。ドイツ・イギリス産のジュラ紀の首長竜や、香川県から発見された白亜紀の首長竜にも同様の骨組織が確認され、急速成長はジュラ紀以降の首長竜にも受け継がれていたこともわかった。急速な成長は内温性動物(注2)だけに見られるため、首長竜は内温性を三畳紀のうちに獲得していたともいえる。

さらに本研究では、ラエティコサウルスとその他の首長竜、近縁の爬虫類などの形態学的な特徴をもとに進化系統樹を導出した。その結果、ラエティコサウルスが生息していた三畳紀最末期の時点ではすでに首長竜の主要な2系統群が登場するなど多様化が進んでおり、首長竜の起源はさらに遡るであろうことも明らかになった。

三畳紀とジュラ紀の境界直前には、首長竜類以外の海生爬虫類の多くは絶滅してしまった(図3)。しかし今回の発見により、ジュラ紀以降繁栄した首長竜類は三畳紀の末にはすでに存在しており、三畳紀—ジュラ紀境界を生き延びたことが明らかとなった。首長竜類がこの絶滅境界を生き延びた要因は定かではないが、ラエティコサウルスに見られるような、外洋で遊泳生活を行うという生態学的特徴と、短期間で成長するという生理学的特徴のいずれか、もしくは両方が重要な要素であった可能性も十分に考えられる。

本研究の成果は、現在の生態系の成り立ちを理解する上で、大量絶滅事件と生物の生理学的・生態学的な側面との関係が重要であることを改めて示すものである。

発表雑誌

雑誌名:「Science Advances」(American Association for the Advancement of Science)
論文タイトル:A Triassic plesiosaurian skeleton and bone histology inform on evolution of a unique body plan
著者:Tanja Wintrich, Shoji Hayashi, Alexandra Houssaye, Yasuhisa Nakajima, P. Martin Sander*
DOI番号:10.1126/sciadv.1701144
アブストラクトURL: http://advances.sciencemag.org/content/3/12/e1701144このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学 大気海洋研究所
学振特別研究員 中島 保寿(なかじま やすひさ)
メールアドレス:ynakajimaaori.u-tokyo.ac.jp     ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

(注1)海生爬虫類
海に生息する爬虫類。三畳紀には首長竜のほかに、首長竜に近縁な板歯類、別系統とされるタラットサウルス類、魚のような体型をした魚竜類など様々な海生爬虫類がいたが、そのうち魚竜類と首長竜類だけがジュラ紀へと生き延びた。
(注2)内温性動物
水温や気温によって体温が決定される魚類・両生類などの「外温性動物」とは違い、体内で発生した熱によって体温を調節できる哺乳類・鳥類などの動物。類似した言葉に体温を一定に保つことができる動物を指す「恒温性動物」があるが、首長竜が恒温性であったことが、歯の酸素安定同位体比などからわかっている。

添付資料

図1 三畳紀後期の首長竜Rhaeticosaurus mertensi(新属新種)の化石(上)および全身骨格復元図(下、小田隆・画)

図2 ラエティコサウルスの大腿骨の組織切片。中心から表面にかけて血管が高密度に発達しており、この動物が急速に成長した証拠となった。

図3 三畳紀後期に絶滅した海生爬虫類の主要グループと、首長竜類(ラエティコサウルス)の出現の前後関係。

プレスリリース