東京大学海洋研究所

全国共同利用・共同研究拠点

ナビゲーションを飛ばす

go to english page

facebook_AORI facebook_AORI

  • ホーム
  • 研究所概要
  • 教員&スタッフ
  • 研究活動
  • 共同利用
  • 進学希望の方へ
  • アクセスマップ

スーパーエルニーニョの急激な終息の引き金を引いたのは 赤道を旅する巨大な雲群マッデン・ジュリアン振動(MJO) ~スーパーコンピュータ「京」× 新型超精密気象-海洋モデル~

2017年9月20日

東京大学大気海洋研究所
理化学研究所
海洋研究開発機構

発表のポイント

◆観測史上最大のエルニーニョ現象の急激な終息の原因が、熱帯域を周回する巨大な雲活動「マッデン-ジュリアン振動 (MJO)」にあることを数値シミュレーションにより実証した。
◆新開発の超精密気象—海洋モデルを用いることでエルニーニョとMJOの振る舞いを同時に精度良く再現することが可能になり、相互作用を直接調べられるようになった。
◆地球全体の気象・気候に大きな影響をもたらすMJOとエルニーニョの再現精度が向上したことにより、気温・降水傾向や台風発生に関する季節予測の改善に繋がることも期待される。

発表者

宮川知己(東京大学大気海洋研究所 特任助教)
八代尚(理化学研究所計算科学研究機構 研究員)
鈴木立郎(海洋研究開発機構 技術研究員)
建部洋晶(海洋研究開発機構 主任技術研究員)
佐藤正樹(東京大学大気海洋研究所 教授)

発表概要

東京大学大気海洋研究所の宮川知己特任助教、佐藤正樹教授、理化学研究所計算科学研究機構の八代尚研究員、海洋研究開発機構の鈴木立郎技術研究員、建部洋晶主任技術研究員からなる共同研究チームは、雲の生成・消滅を詳細に計算できる全球大気モデルNICAM(注1)に、日本の代表的な全球気候モデルMIROC(注2)の海洋部分を連結させた超精密気象—海洋モデル「NICAM-COCO (NICOCO)」を開発し、熱帯域を東進する巨大な雲群マッデン=ジュリアン振動(MJO, 注3)と、東太平洋の海面温度が通常より高くなるエルニーニョ現象との相互作用の再現を可能にしました。これにより海洋の変動が活発な状況でのMJOの予測精度が向上した他、観測史上最大のスーパーエルニーニョ(1997年—1998年)が急激に終息した原因がインドネシア多島海付近のMJOにあったことを実証しました。

本研究の成果はMJOとエルニーニョが引き起こす地球規模の大気変動の動向の早期把握に繋がるため、日本付近の季節予報や台風発生予測の精度向上に貢献することが期待されます。

発表内容

[背景]
東太平洋の海面温度が通常よりも高くなるエルニーニョ現象には、ときとして極端に強まった「スーパーエルニーニョ」と呼ばれる状態のものがあり、継続的な観測が始まって以来、1981-1982年, 1997-1998年, 2015-2016年の3度現れています。特に、1997-1998年のスーパーエルニーニョは急激に終息し、場所によっては1ヶ月に8℃も海面温度が低下しました。

この急激な海水温の低下は、強まった東風と地球の回転の影響を受けて東太平洋赤道域の海水が極向きに輸送されることによって、入れ替わりに冷たい海水が下から上がってきたこと(赤道湧昇)が主な原因と考えられています。しかし、東風が強まった原因が何であったかについては、スーパーエルニーニョの存在によって通常と様相の違った季節進行など、複数の説がありました。熱帯域を東進する巨大な雲群マッデン=ジュリアン振動(MJO)とおぼしき降水域がスーパーエルニーニョの終息期に太平洋を通過する様子が衛星観測から指摘されていたことから、この降水域に伴う東風の影響も議論されました。しかしMJOは数値シミュレーションでの再現が難しく、十分な裏付けは得られていませんでした。

[実験の概要]
研究チームは今回、雲の生成・消滅を詳細に計算することによって世界有数のMJO再現性能を誇る全球大気モデルNICAMに、気候変動に関する政府間パネルの第5次評価報告書でも引用されている代表的な気候モデルであるMIROCの海洋部分を連結させた超精密気象—海洋モデルNICAM-COCO (NICOCO)を新たに開発し(図1)、スーパーコンピュータ「京」(注4)上で動作させることで、1998年5月に起きたスーパーエルニーニョの急激な終息とMJOとを同時に再現することを試みました。実験開始日を4月20日から4月28日まで1日ずつずらした9本の実験を行い、MJOに伴う東風の強弱と海面水温低下との関係を調べました。

また、モデルごとに固有の気候平均場の誤差を見積もるため、および、先行研究で示したNICAMとの性能比較のため、先行研究と同じく2003年−2012年に検出された19のMJO事例について、MJO中心の初期位置が異なる3つの予測開始日を設定した54本の実験を行いました(初期位置が1つないし2つしか決定されない事例をひとつずつ含む)。さらに、1998年5月事例について従来のNICAMを用いて前述の9本に対応する同等の実験を行いました。

[結果]
・モデル性能
実験期間中の海洋の変動が大きい事例での再現性向上と、海洋の気候平均場の誤差が存在することに起因する性能低下とが相殺した結果、新モデルNICOCOは、従来モデルNICAMとほぼ同等の優れたMJO予測スコアを有していることが2003年—2012年の実験データの解析により明らかになりました(図2a)。また、2003年—2012年の実験データより見積もられた平均場の誤差を差し引いて1998年5月事例の実験データを解析した結果、NICOCOはスーパーエルニーニョの急激な終息を良く再現していました(図2c)。1998年5月事例のMJOについてNICOCOと従来のNICAMを比較した結果、両モデルとも実験開始後一週間程度経過した頃にMJOが発達する様子が良く再現されていることを反映してスコアが高まる一方で、海洋の変動による影響が大きくなる実験後半では性能差が明確に現れました。NICAMでは実験開始後25日以降急激に予測スコアが低下しているのに対して、NICOCOは有効な予測の目安となる0.6を実験開始後40日程度まで維持していました(図2b)。

・スーパーエルニーニョの終息におけるMJOの影響
1998年5月事例の実験データでは、MJOの雲活動の中心位置がインドネシア多島海付近にあって勢力の強かった5月半ば頃に、東太平洋赤道域において東風の強まりとともに冷たい水が海面へ上昇してくる様子がよく再現されていました(図3)。また、9本の実験それぞれにおいて再現されたMJOは東進などのおおまかな性質は一致している一方で、その振幅には実験間でばらつきが見られました(図4a)。このことを利用して、スーパーエルニーニョ終息の際に冷水塊が現れる東太平洋赤道域の大気下層東風のうち、MJO由来の成分(雲活動の中心に向かって東西から吹き込む)と海面水温の変化との関係を調べました。その結果、MJO由来の東風が強いほど海面水温の低下が大きく、スーパーエルニーニョの終息を早めていることが明らかになりました(図4b,c)。

[社会的意義・今後の展望]
本研究の成果はMJOとエルニーニョが引き起こす地球規模の大気変動の動向の早期把握に繋がるため、直接的な影響下にある熱帯域における降水予測や台風などの熱帯低気圧発生予測はもちろんのこと、日本付近など中・高緯度の地域における季節予測の精度向上にも貢献することが期待されます。

今後は上記の実現のために必要となるモデル固有の気候平均場の誤差分を補正する機能を追加すると共に、先行研究で知られているエルニーニョ発生の引き金となる事例など様々な状況における大気—海洋の相互作用の検証を進めて行きます。
 

* 本研究は、文部科学省によるポスト「京」重点課題4「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境予測の高度化」の一環として実施し、また、科研費若手研究B「全球雲解像モデルが再現するマッデン・ジュリアン振動の時空間構造分析」(15K17757) の補助を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名:「Geophysical Research Letters」
論文タイトル:A Madden-Julian Oscillation event remotely accelerates ocean upwelling to abruptly terminate the 1997/1998 super El Niño
著者:Tomoki Miyakawa*, Hisashi Yashiro, Tatsuo Suzuki, Hiroaki Tatebe, Masaki Satoh
DOI番号:10.1002/2017GL074683
アブストラクトURL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2017GL074683/abstractこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所
特任助教 宮川 知己(みやかわ ともき)
E-mail: miyakawaaori.u-tokyo.ac.jp    ※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

用語解説

注1 NICAM
NonhydrostaticICosahedral Atmospheric Model の略。地球全体で雲を直接詳細に計算することを目的に開発された数値モデル。地球全体で極端な高解像度化を実現するために正20面体(icosahedron)をベースに生成された特殊な格子系を使用している。マッデン・ジュリアン振動の再現に長けていることで世界的に有名。海洋研究開発機構に当時世界最速の地球シミュレータが導入されるのに合わせて開発された。スーパーコンピュータ「京」の計算資源を活用している中心的なソフトウェアのひとつ。
注2 MIROC
Model for Interdisciplinary Research on Climateの略。地球温暖化などの気候変動を調べるために開発されたモデルで、未来に下って衆生を救うとされる弥勒菩薩に由来する。長期の計算に長けた、日本を代表する気候モデルのひとつ。
注3 マッデン・ジュリアン振動(MJO)
発見者のマッデン, ジュリアン両博士の名を冠して呼ばれる、東西数千キロもの幅を持った対流活発域が熱帯を東進する現象。MJOの積乱雲群が放出する熱による大気の波の影響で日本上空に高気圧/低気圧偏差が停滞し、高温傾向や低温傾向が持続する場合がある(例: 2011年11月にインド洋でMJOの活動度が増大した影響により、西日本で統計開始以降の最高気温記録を更新するなど全国的に異常高温が続いた)。また、MJOの位置と強度は台風の発生確率を左右する。MJO起源の低気圧が日本付近の前線や低気圧に水蒸気を供給することで大雨や大雪をもたらすこともある(例: 2013年成人の日の関東大雪。南岸低気圧が水蒸気供給を受けて急発達した)。さらに、梅雨もその一部である東アジアモンスーンの活動もMJOの影響を大きく受けていると考えられている。
注4 スーパーコンピュータ「京」
文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。

添付資料

図1. 新たに開発された超精密気象—海洋モデル。全球準一様の高解像度化に対応するために開発された正20面体をベースとした格子系の超高解像度の大気モデルと、海洋に特化した高解像度化に対応するために開発された3極構造格子の海洋モデルが、異なる格子系の間での情報のやり取りの整合性を保つシステム(カップラー)を介して接続されている。下図は、新モデルの再現した2011年11月27日の海面水温(カラー)、雲の高さに対応する赤外放射(グレー)、降水(青系)を示したもの。紫の枠に囲まれた領域にマッデン・ジュリアン振動の雲群が存在している。

図2. 数値モデルによる予測性能。(a) 新モデルNICOCOによる2003年−2012年の54本のMJO実験から見積もったMJO予測スコア。青い実線は54本全ての実験による結果。破線はそれぞれMJOの初期位相がPhase 8 (紫: 南アメリカ), Phase 1 (黄: 大西洋−アフリカ), Phase 2 (赤: インド洋西部) の場合の結果。(b) 1998年5月のMJO事例の9本の実験から見積もったNICOCO(青実線)と従来のNICAMによるMJO予測スコア。(c) エルニーニョ監視領域の海面水温編差により計算される1998年のNINO3.4インデックス。観測(黒線)とNICOCOによる予測結果(色線)。

図3.NICOCOで再現された、1998年5月に海面水温の偏差が現れてエルニーニョが終息する様子 (4月20日初期日)。左は海面水温偏差と975hPa高度の水平風。右は海水温と流速の東西鉛直断面および、大気下層(975hPaと850hPa)の水平風。流速の鉛直成分は100倍に拡大して表示している。

図4 (a) MJOの振幅と位相を示す図。図の中心から遠いほどMJOの振幅が大きく、活発であることを意味し、原点からの方向によって中心位置が表現されている(MJOの東進は反時計周りの進行に対応する)。黒線が観測、カラーが9本の実験結果。(b) MJOの成分として解析される850hPa東西風(左)と海面水温偏差(右)の東西時間断面。全部で9本ある実験結果のうち、上は4月20日初期日、下は4月25日初期日のもの。(c) b図で示している箱の範囲(東太平洋, 5月8日−19日)において、9本の実験におけるMJO由来の東西風とSSTの変化量との対応を描いた散布図。やや特異なサンプル(赤マーカー)を含めた場合の相関係数は0.91(回帰直線は実線)、除いた場合の相関係数は0.78(回帰直線は破線)。

プレスリリース