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海底火山活動を迅速に見つけて化学的に観測する

2016年9月27日

東京大学大気海洋研究所
九州大学大学院理学府
熊本大学大学院先端科学研究部
名古屋大学大学院環境学研究科

発表のポイント:

◆トカラ列島近海の火山活動を音響探査で発見しました。化学観測でヘリウム・メタンのフラックスと起源を調べ、鹿児島湾の若尊カルデラとの地殻構造と微生物活動の違いを示しました。
◆船上から音響探査で熱水噴出孔の位置を特定することで、確実性が高く効率的な熱水採取を実施し、それにより発見した熱水の海洋化学データを提供しています。
◆トカラ列島近海など浅海で火山活動がある地域では、噴火による船舶事故などの影響が懸念されます。浅海火山調査は防災面で重要であり、定期観測に本研究手法が役立つと期待されます。

発表者:

Hsinyi Wen (東京大学 大気海洋研究所 元大学院生)
佐野 有司 (東京大学 大気海洋研究所 教授)
高畑 直人 (東京大学 大気海洋研究所 助教)
Yama Tomonaga (東京大学 大気海洋研究所 元博士研究員)
石田 章純 (東京大学 大気海洋研究所 元博士研究員)
田中 健太郎 (東京大学 大気海洋研究所 学振特別研究員)
鹿児島 渉悟 (東京大学 大気海洋研究所 特任助教)
白井 厚太朗 (東京大学 大気海洋研究所 助教)
石橋 純一郎 (九州大学大学院 理学府 地球惑星科学専攻 准教授)
横瀬 久芳 (熊本大学大学院 先端科学研究部(理学系)地球環境科学分野 准教授)
角皆 潤 (名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)
Tsanyao F. Yang (国立台湾大学 理学院 地球科学専攻 教授)

発表概要:

浅海の火山からの熱流体の放出は海洋環境を支配する重要な役割を持つ一方で、海上の船舶に被害を与える可能性があります。九州地方南西に位置するトカラ列島近海では海底火山活動の存在が指摘されてきましたが、熱水噴出孔の詳細な海洋化学については知見がありませんでした。東京大学、台湾大学、九州大学、熊本大学、名古屋大学からなる研究グループは、2014年6月28日から7月5日にかけて学術研究船「新青丸」のKS-14-10次航海Leg2で海底地形調査を実施し、新たな熱水噴出孔を発見して海水試料を採取しました。実験室で分析したデータはトカラ列島と鹿児島湾におけるヘリウム・メタンのフラックスと起源の違いを示し、それらは地殻構造と熱水周辺の微生物活動に起因することを明らかにしました。本研究は音響測深器によるウォーターカラム画像(注1)で効率的に熱水噴出孔の位置を特定し、そこへ向かって採水器を投下することで確実性の高い熱水採取を行った最初の例であり、浅海の火山調査に有用な新規手法を提唱しています。地球化学的観測による火山活動の評価は防災の側面で重要性が高く、本研究成果はトカラ列島をはじめとする浅海の火山地域における観測体制の整備に対して大きく貢献すると期待されます。

発表内容:

海底火山噴火による熱水の放出は、海洋に不可欠な元素を供給して地球表層環境を形成する役割を持ちます。また熱水の化学組成とそこから得られる地球内部に関する情報は、地球の進化を紐解く糸口となるグローバル物質循環を解明する上で必要不可欠なデータであり、基礎研究の側面からも重要と言えます。一方で、海底火山が浅い場所にある場合には、上昇した熱水プルーム(注2)が船舶事故を引き起こすことがあります。また、津波を起こして陸上火山が噴火するときと同じように周辺住民の生活に影響を及ぼす可能性もあります。九州地方南西に位置するトカラ列島(図1)では、第一奄美海丘など近海における海底火山活動の存在(注3)が指摘されてきましたが、熱水噴出孔の詳細な場所については殆ど知見が無く十分な観測が行われてきませんでした。そのため、当該地域においては物質循環に関わる海底熱水活動の地球化学的な記載と、噴火の可能性がある火山活動を評価するために必要なデータが不足していました。

本研究の主著者である東京大学大気海洋研究所のHsinyi Wen大学院生(当時)は、2014年6月28日から7月5日の学術研究船「新青丸」KS-14-10次航海Leg2でトカラ列島の第一奄美海丘・小宝島近海および鹿児島湾の若尊カルデラにおいて、同航海の首席研究者で東京大学大気海洋研究所の佐野有司教授らとともに海底地形の調査、熱水噴出孔の探索および海水サンプリングを行いました。具体的には精密な熱水噴出孔の位置特定を、移動しながら音響測深器によるウォーターカラム画像(図2)を用いて熱水プルームの形状を観察することで達成し、発見した熱水噴出孔の直上からCTD-RMS(注4)を投下することで確実性の高い熱水採取を実施しました。熱水噴出孔探査には潜水調査船を用いるのが主流であり、洋上から熱水噴出孔の位置特定を試みた研究例は殆どありませんでした。しかしながら潜水調査船による海底探査に対し、洋上からの音響探査である本研究手法は面積比で1000倍以上の高い探査効率(注5)を持ち、これからの海底火山調査で大いに役立つことが期待される新規手法であると言えます。調査の結果、本航海では存在が指摘されていた第一奄美海丘の熱水噴出孔の確認に成功し、小宝島周辺でもガスプルームを発見しました。

サンプリングはCTD-RMSのセンサーで濁度・pH・水温といった物理化学的指標を測定しながら実施しました。底層では濁度やpHの異常が観測され、当該サイトにおける熱水の存在が確認されました。採水して装置を揚収した後、空気に汚染されないように船上で銅管やガラス瓶に移し替えて研究室まで持ち帰り、ヘリウム・メタンの濃度・同位体組成を質量分析計(注6)で測定しました。ヘリウム同位体比(3He/4He比)とメタンの炭素同位体比(13C/12C比)、メタンとヘリウムの濃度比(CH4/3He比)は、それらが地球深部のマントルから供給されたか、あるいは微生物活動によって生成・消費されたかなどの起源に関する情報を与えてくれるため、海洋環境を形成する物質循環を紐解く上で有用です。得られたヘリウムのデータは、若尊カルデラのマグマではマントル物質の寄与が比較的大きく、トカラ列島のマグマではマントルだけでなく地殻から供給された物質がよく混合していることを示しました。この違いは地殻構造によるもので、トカラ列島は島弧-背弧海盆(注7)の境界に位置するため若尊カルデラと比べてマントル成分の寄与が小さいと考えられます。また、メタンとヘリウムのデータを組み合わせることでメタンのフラックスと起源を推定しました。トカラ列島近海・若尊カルデラにおけるメタンのフラックスは、例えば台湾に見られるメタンハイドレート地帯で見られるものよりも大きく、浅海の火山活動はメタンの供給源として無視できない寄与を持つことが分かりました。メタンの起源については、トカラ列島近海では熱水による高温環境で生成されるメタンが支配的であったのに対し、若尊カルデラでは炭素同位体分別が顕著であることから、微生物活動によって熱水起源の軽いメタン(注8)が優先的かつ大量に消費されている過程が明らかになりました(図3)。

本研究はウォーターカラム画像で熱水噴出孔の位置を効率的に特定し、そこに向かってCTD-RMSを投下することで確実性の高い熱水採取を行った最初の例であり、得られたデータは海底火山活動を評価するために重要となるマントル物質の寄与と地殻構造を明らかにする上で有用であり、また熱水周辺の微生物活動の違いといった海洋環境そのものを観察する上でも役立つものでした。トカラ列島の住民、そこへ往来する人々にとって船による交通手段の確保は必須であり、海底火山噴火による船舶事故が起きた場合の人身・ライフラインへの影響が懸念されます。海洋化学的観測による火山活動評価は防災の側面で重要性が高く、トカラ列島だけでなく伊豆-小笠原諸島などの浅海火山地域における継続的な観測体制の整備に対して、大きく貢献すると期待されます。

発表雑誌:

雑誌名:Scientific Reports(オンライン版:9月27日)
論文タイトル:Helium and methane sources and fluxes of shallow submarine hydrothermal plumes near the Tokara Islands, Southern Japan
著者:Hsinyi Wen*, Yuji Sano, Naoto Takahata, Yama Tomonaga, Akizumi Ishida, Kentaro Tanaka, Takanori Kagoshima, Kotaro Shirai, Jun-ichiro Ishibashi, Hisayoshi Yokose, Urumu Tsunogai, Tsanyao F. Yang
DOI番号:10.1038/srep34126
アブストラクトURL:http://www.nature.com/articles/srep34126このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先:

東京大学 大気海洋研究所
特任助教 鹿児島 渉悟
E-mail: kagoshimaaori.u-tokyo.ac.jp

東京大学 大気海洋研究所
教授 佐野 有司
E-mail: ysanoaori.u-tokyo.ac.jp

※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説:

(注1)ウォーターカラム画像
船から超音波を発射して反射波を受けることで、海底面や海水の密度変化を探知し視覚化するシステム。魚群探知機のようなもので、海底からの湧出物を観測するのに適しており浅海のガスハイドレート探査などに用いられてきました。
(注2)プルーム
熱水噴出孔から放出される熱水・ガスは周辺の海水と密度が異なるため、すぐにそれらと混じり合わず柱状に上昇していきます。この熱水・ガスの柱をプルームと呼びます。
(注3)第一奄美海丘における海底火山活動の存在
海上保安庁(2013)は自律型潜水調査機器を用いて第一奄美海丘の詳細な海底地形調査を実施し、頂部にカルデラなどの火山性とみられる地形を発見しました。さらに熱水・ガスと思われる物質の湧出および水温異常を発見し、火山活動が存在する可能性を示しました。
(注4)CTD-RMS
採水システムと濁度・pH・水温などの化学センサーが一体化した装置。採水器の蓋を開けた状態で投下し、船上から信号を送信して採水器の蓋を閉じることで熱水・海水を採取することができます。
(注5)海底探査の効率
1時間あたりに観測可能な海底面積を「観測可能幅×船速」とすることで探査効率を比較してみます。洋上から音響測深機を用いれば「幅数百メートル×船速5ノット」の観測が可能である一方、潜水調査船では視野・速度ともに洋上と比較して制約が厳しく「幅数メートル×船速0.5ノット」程度のため、ウォーターカラム画像による海底探査の効率は潜水調査船のおおよそ1000倍以上であると言えます。潜水調査船は熱水噴出孔まで接近することにより、高精度の探索と柔軟な調査・サンプリングを実施可能な点で優れています。
(注6)質量分析計
原子・分子をイオン化し、電荷あたりの質量で区別して測定する装置で、対象試料・元素に応じたさまざまな種類が運用されています。たとえば本研究のヘリウム同位体比測定には、希ガス分析用に調整された大気海洋研究所の磁場型質量分析計を使用しており、これは一様磁場によってイオンに電荷・質量依存の飛行軌道を与えることで同位体の分離を行うタイプです。またメタンの濃度と炭素同位体比測定には、名古屋大学大学院環境学研究科の磁場型質量分析計を使用しています。
(注7)島弧-背弧海盆
沈み込むプレートから水分が放出され岩石の融点が下がりマグマができると、それが上昇して固まる、噴火が起こるなどして日本列島のような地形が形成されます。これを島弧と呼びます。一方、背弧海盆は沈み込むプレートから見て島弧の後ろ側に位置する海底が裂開・拡大することで形成される地形です。
(注8)軽いメタン
ここでは炭素同位体比が低いメタンのこと。微生物によるメタン酸化作用では軽いメタンが優先的に消費されることが知られており、この作用が強い地域では結果として海水中に重い(炭素同位体比が高い)メタンが残留します。

添付資料:

図1. トカラ列島:丸印が本研究のサンプリングサイト。

図2. ウォーターカラム画像:左が第一奄美海丘、右が小宝島のガスプルームの様子。両方のサイトで100m以上の水深から海面付近まで追跡可能な巨大なプルームが見つかりました。

図3. 熱水試料中のメタンの炭素同位体比とCH4/3He比:トカラ列島では熱分解によるメタン生成が支配的であるのに対し、若尊カルデラでは微生物活動により軽いメタンが優先的に消費されることで炭素同位体比が高くなっていることが分かります。

プレスリリース