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海鳥は野生の風速計 ~滑空する海鳥の飛行から海上の風向・風速を観測する~

2016年7月26日

米原善成・後藤佑介・佐藤克文(東京大学大気海洋研究所)

発表のポイント:

◆海鳥の飛行データを用いて、気象衛星による観測を補間するような高解像度の海上風データを取得することに成功した。
◆海鳥が飛行中に風に押されたり押し戻されたりする効果を利用して、海鳥の飛翔行動データから海上風を推定した。
◆海鳥を用いた低コスト・長時間・広範囲の海上風観測は、従来の観測を補間するような新しい観測プラットフォームになることが期待できる。

発表者:

米原 善成(東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻|東京大学大気海洋研究所行動生態計測分野 博士課程3年)
後藤 佑介(東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻|東京大学大気海洋研究所行動生態計測分野 博士課程3年)
佐藤 克文(東京大学大気海洋研究所 教授)

発表概要:

海上の風情報は大気と海洋の相互作用を理解する上で欠かせない要素の一つです。近年ではリモートセンシング技術の発達により、気象衛星を用いて全地球規模の海上風を推定できます。しかし、気象衛星による風観測は1日最大2回という時間解像度のため、風環境の細かい時間変化を捉えられない可能性があります。さらに、沿岸域では陸地の影響で衛星による海上風の推定が困難です。

東京大学大気海洋研究所の米原善成大学院生、後藤佑介大学院生、佐藤克文教授と名古屋大学、北海道大学、フランス、米国との合同チームは、滑空するミズナギドリやアホウドリの飛行から、これらの海鳥が経験した海上風を推定することで、従来の気象衛星による観測の空白を補間できる可能性を示しました。

本合同チームはオオミズナギドリ、コアホウドリ、ワタリアホウドリといった海鳥に小型のGPS記録計を装着し、飛行経路を記録しました。これらの海鳥の飛行速度が追い風に押されて加速し、向かい風に押し戻されて減速する効果を利用して、海鳥が経験した海上風の風向・風速を5分・約5kmという詳細な時空間スケールで推定することができました。海鳥の飛行から推定した風向・風速は気象衛星で推定した風情報と強い相関を示していました。

海鳥の飛行から推定した海上風は気象衛星による風観測の時空間的な空白を補間するように得られていました。特に東北地方の三陸沿岸で繁殖するオオミズナギドリからは、気象衛星では観測できない三陸沿岸域を広くカバーする海上風データが得られました。また、この海鳥を用いた海上風データでは1日数回の気象衛星による風観測では捉えられない風向・風速の時間変化を捉えることができました。

これらの結果から、従来の気象衛星による風観測を補間する手法として、滑空する海鳥が新たな海洋観測プラットフォームになることが期待されます。

発表内容:

【背景】
大気と海洋の境界である海表面付近の風は、大気海洋相互作用の理解に欠かすことができない要素のひとつです。海洋表面の風は、気象衛星に搭載されたマイクロ波散乱計によって、地球上の海の広範囲で1日2回観測されているほか、まばらに設置された海洋観測ブイによって毎時間観測されています。これらの海上風データは気象予報や海洋モデルの構築に利用されており、大気や海洋の現象を把握するのに役立っています。しかし、衛星による1日2回の観測や、まばらに設置されている数少ない海上ブイによる観測では、より詳細な時間・空間スケールで刻々と変化する海上の風環境を捉えることは困難です。さらに、複雑な地形の影響により、気象衛星によって沿岸域の海上風を推定することができません。このように、従来の海上風の観測手法では、時間・空間的な観測空白域が生じていました。このような観測空白域で船舶などを用いた観測により大気・海洋に関する高解像度の観測データを取得すると、大気海洋モデルが改善され、大気・海洋の詳細な挙動を解明できることが知られており、現場での観測の重要性が示されています。

動物に小型の記録計を搭載し、動物の行動を記録するバイオロギング研究が発展したことによって、動物を用いて環境モニタリングを行う試みが盛んに行われてきました。これらの研究では、人間による観測が困難な地域・海域で生活する動物に記録計を装着することで、その場所の環境情報を得られる点が注目されています。これまで、アザラシや海鳥に搭載した記録計により、広範囲での気温、水温、深度、塩分濃度などの環境情報が測定されてきました。また、動物の移動経路は海流に流される影響を強く受けており、海鳥の移動経路を解析することで海洋表層流を推定する試みもなされてきました。

【研究内容】
本合同チームは、海表面付近を飛行する海鳥の行動を解析することで、衛星やブイによる観測空白域を補間する風データが得られると考えました。そこで、三陸沿岸で繁殖するオオミズナギドリにGPS(全球測位システム)記録計を取り付け、1秒間隔の飛行経路を記録しました。この飛行経路データから、オオミズナギドリが蛇行しながら飛行する間に、飛行速度が変動していることがわかりました。この飛行速度の変動が、海鳥の進行方向に対する風の影響であると仮定すると、海鳥の飛行速度は追い風時に最大になり、向かい風時に最小になると考えられます(図1)。このような風向・風速と海鳥の飛行速度の関係を利用することで、海鳥の飛行経路から5分間隔、約5km以内の詳細なスケールでの海上風を推定することができました。

さらに、佐藤克文教授がフランスのHenri Weimerskirch博士らとともに取得したワタリアホウドリの飛行データや、後藤佑介大学院生が米国のLinday C. Young博士や北海道大学の綿貫豊教授とともに取得したコアホウドリの飛行データも用いて海上風の推定を行った結果、これらの推定値が気象衛星による海上風の観測値とよく相関していることがわかりました(図2) 。

このように長時間・長距離飛び続ける海鳥の飛行から推定した海上風データは、これまでの衛星やブイによる観測空白域を補間できる可能性があります。特に、三陸沿岸を飛行するオオミズナギドリからは、気象衛星では観測が困難だった沿岸の海上風データを高解像度で取得することができました(図3)。また、海鳥の飛行からは5分間隔という詳細なスケールで海上風を推定でき、1日2回の衛星による観測ではわからなかった、数時間から1日スケールの風向・風速の時間変化を捉えることができました。

【社会的意義・今後の課題】
本研究は、気象衛星などによる海上風観測データを補間するために、野生の海鳥を用いた新たな海上風観測プラットフォームを提唱しました。この手法により、低コストで長時間・広範囲の海上風を高い解像度で取得することができるようになります。これまでの研究で、動物を用いた海洋観測で得られたデータを大気・海洋モデルに同化することでモデルの予測精度が向上することが知られています。今回得られた海上風データが大気・海洋モデルを通じた予測にどのような影響を与えるかは、今後研究する必要があります。

さらに、記録計を搭載した海鳥によって観測できる気温、海面水温、気圧、海洋表層流などのパラメータを統合することで、海鳥が大気海洋境界層を観測する新しい観測基盤となることが期待されます。

発表雑誌:

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル:Flight paths of seabirds soaring over the ocean surface enable measurement of fine-scale wind speed and direction
著者:Yoshinari Yonehara*, Yusuke Goto*, Ken Yoda, Yutaka Watanuki, Lindsay C. Young, Henri Weimerskirch, Charles-André Bost, Katsufumi Sato

問い合わせ先:

東京大学大気海洋研究所
大学院生 米原 善成
E-mail:yoneharaaori.u-tokyo.ac.jp

東京大学大気海洋研究所
教授 佐藤 克文
E-mail:katsuaori.u-tokyo.ac.jp      ※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

添付資料:

図1. オオミズナギドリに装着したGPS記録計から得られた経路のうち5分間の経路を示しています(A)。飛行経路を見るとオオミズナギドリの飛行速度が増加するところと減少するところがあることがわかります(B)。この5分間の飛行での飛行速度と進行方向の関係から、風向・風速を推定しました(C)。ミズナギドリやアホウドリは一見直線的に飛んでいるような場合でも(D)、風からエネルギーを得るために蛇行しているため(E)、進行方向にばらつきができ、風向・風速を推定することができます(F)。

図2. 3種の海鳥から推定した風速と気象衛星の観測による風速を比較したところ、強い相関がみられました(A)。傾きが1からずれるのは、高度の違い(気象衛星は10m高度の風を推定するのに対して、海鳥はそれより低い2~5m程度の高度の風を推定している)や鳥の3次元的な飛行の影響だと考えられます。3種の海鳥から推定した風向と気象衛星の観測による風向を比較したところ、強い相関がみられました(B)

図3. 2014年8月29日(A)と9月2日(B)に放鳥したオオミズナギドリから得られた飛行経路から風向(黒棒)・風速(色)を推定しました。オオミズナギドリの繁殖地(赤星)がある三陸沿岸で高解像度の風情報が得られていることがわかります。海鳥の飛行経路から推定した風(赤矢印)と気象衛星の風(灰矢印)とを比較するとよく一致していることが分かります(Aのa, b, cとBのa, b, c, d, e, f)。

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