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過去20年間の太平洋貿易風の加速に対する硫酸性エアロゾルの重要な役割

2016年4月26日

渡部雅浩(東京大学大気海洋研究所 准教授)
高橋千陽(東京大学大気海洋研究所 特任研究員)

発表のポイント:

◆ 全球気候モデル(注1)のシミュレーションから、過去80年間の熱帯西部太平洋の海面水温に見られる数十年規模気候変動が火山噴火および工業活動による硫酸性エアロゾル(注2)の変化によって生じていたことを明らかにしました。
◆ 過去20年の赤道太平洋の貿易風(注3)は20世紀に観測されたことのないレベルで強まっており、エアロゾルがもたらす西太平洋の海面水温上昇に伴う赤道太平洋の貿易風加速はその約34%を説明すると見積もられました。
◆ 今後、大規模な噴火や工業活動による硫酸ガスの排出増が起きた場合、貿易風の変化を通じて太平洋地域の海水準や降水に大きな影響があると示唆されます。

発表概要:

2000年頃から地球全体の地表気温上昇が鈍化しており、この温暖化の停滞現象(ハイエイタスとも呼ばれます)の大きな要因として、気候システムの自然変動である太平洋数十年規模変動(Interdecadal Pacific Oscillation、以下IPO、注4)に伴う赤道貿易風の強化と熱帯中東部太平洋の海面水温(sea surface temperature、以下SST)の低下が指摘されています。一方で、近年の赤道貿易風の強化は20世紀には観測されなかったレベルであり、IPOだけでは説明できません。ハイエイタスの問題から離れても、赤道貿易風の長期変動は太平洋域の海水準や降水分布に大きな影響を及ぼすため、最近20年ほどの貿易風加速の原因究明は重要な課題です。

東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩准教授と高橋千陽研究員は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)でも引用されている日本の全球気候モデルを用いて、1921~2014年の期間で温室効果ガスやエアロゾルなどの外部強制データを与えたシミュレーションを実施し、過去80年の熱帯北西域太平洋(WNP、注5)のSST数十年規模変動を再現することに成功しました。その上で、硫酸性エアロゾルの変化を固定するとSST数十年規模変動の再現性が失われることから、硫酸エアロゾルの排出量変化が、その要因として最も重要であることをつきとめました。WNP域のSSTは過去20年顕著な上昇傾向を示しており、それに伴って赤道貿易風の一部が加速されています。西部太平洋域で近年観測されている、高い海水準やインドネシア周辺の降水量の増加も、この貿易風の強化により説明できます。エアロゾルによる貿易風の強化はハイエイタスに対しては影響が認められませんが、これがIPOの負位相に伴う貿易風の変化に重なったために、観測史上例のないレベルで貿易風が強化されたと考えられます。

本研究成果は、硫酸性エアロゾルによる放射強制が太平洋の気候変化に重要であることを世界に先駆けて示したもので、過去および将来の気候における十年規模の変化の要因を理解する上で非常に重要な知見を提供しています。

上記の成果は、4月25日付でNature 姉妹紙のNature Climate Change(ネイチャー・クライメット・チェンジ)誌に掲載されます。

図1: 本研究の成果を表す模式図。過去20年間(1991~2010年)の海面水温の変化傾向およびそれに付随する熱帯域の気候変化を示す。赤道太平洋の貿易風強化がインドネシア周辺の多雨や西太平洋の高い海水準をもたらしているが、この貿易風の加速は従来考えられていたような負のIPO(東部太平洋の海面水温の低下)によるもの(ピンクの矢印)だけでなく、硫酸性エアロゾルの変化が強制した西太平洋の水温上昇により生じていた(赤の矢印)ことが分かりました。

発表内容:

[背景]
熱帯太平洋では、SSTの東西コントラスト(西で高く東で低い)と強い赤道貿易風が密接に作用しあっていますが、それらは過去20年ほど、互いに強い状態を維持していることが知られています。特に、東太平洋の低温化は、大気循環の変化を介して地球全体の気温上昇を抑制するように働き、近年の地球温暖化停滞の直接的な原因となっています。こうした熱帯太平洋の状態は、自然の数十年規模変動の一つであるIPOが負の位相にあるためであると説明されてきましたが、貿易風の強化は20世紀には見られなかったレベルであり、IPOだけでは説明できません。過去20年ほどの貿易風の加速は、いわゆる温暖化時の風の応答とは逆向きで、またCO2などの温室効果ガスは継続的な増加傾向を示しているため、近年の貿易風の強化は温暖化の応答とは別物であると考えられますが、その要因はよく分かっていませんでした。

温室効果ガス以外に気候に影響を与える外部要因として、大気中の微粒子であるエアロゾルが挙げられます。特に、火山噴火や工業活動の結果排出される硫酸性エアロゾルは、太陽光線を散乱・吸収したり、雲と相互作用したりすることで地表を冷却する効果があることが知られています。工業活動による硫酸性エアロゾルの排出量変化は地域ごとに異なりますが、1960~1990年代には大きな火山噴火が3度観測されており、それらが北大西洋のSST数十年規模変動を引き起こしているという報告もあります。一方で、熱帯太平洋域で硫酸性エアロゾルによる気候変動はこれまで検出されていませんでした。

そこで、渡部雅浩准教授と高橋千陽研究員は、まず気候モデルを用いた過去約100年間の気候再現シミュレーションを実施し、観測された太平洋域の数十年規模変動をモデルがどこまで再現できるかを検証しました。その後、モデルに与える硫酸性エアロゾルの条件を変えてシミュレーションを繰り返すことで、熱帯太平洋のSSTおよび貿易風の近年の変化に対する硫酸性エアロゾルの役割を明らかにすることを試みました。

[研究方法の概要]
全球気候モデルMIROC5.2(注6)を用いて、1921~2014年の94年間のアンサンブルシミュレーション(注7)を行いました。2005年までは、過去の温室効果ガス、エアロゾル、太陽活動、土地利用など全ての強制データを歴史的に与え、2006年以降はCMIP5(注8)のRCP4.5シナリオに基づく将来の推定値を与えて、少しずつ異なる初期値から開始した5メンバーのアンサンブルを生成しました。この全強制を与えた実験(全強制実験)は、CMIP5の歴史気候再現実験およびRCP4.5実験と同じ設定です。一方、硫酸性エアロゾルの効果を切り分けるために、人為起源および火山性硫酸エアロゾルの排出を産業革命前の1850年の状態で固定した実験(SO2固定実験)および、火山性硫酸エアロゾルのみ1850年で固定した実験(火山性SO2固定実験)を同様に実施しました。

観測値、モデルシミュレーションともに、年平均偏差(長期気候平均からのずれ)を解析しました。十年規模気候変動の特徴を取り出すために、1931~2010年の期間で線形傾向(トレンド)および10年より短い気候変動成分を除去した上で、観測とシミュレーションの比較解析を行いました。また、シミュレーションにおける気候の内部変動(注9)の位相はアンサンブルの各メンバーでばらばらなので、アンサンブル平均することでほぼ相殺されて、温室効果ガスやエアロゾルなどの放射強制による気候応答が得られます。逆に、各メンバーの結果からアンサンブル平均を除き、そのばらつきを標準偏差(スプレッドと呼びます)で定量化することで、モデルにおける内部変動の大きさを推定できます。

[結果]
観測されたSST長周期変動成分に、経験的直交関数(empirical orthogonal function、EOF)という解析を施すと、熱帯太平洋に卓越する2種類の変動パターンが得られます(図2aと2b)。EOF1は、赤道域から亜熱帯東部で負偏差、中緯度太平洋の西側で正偏差(あるいはその逆)というパターンを示し、これはIPOに対応します。一方、EOF2は変動の大きさはEOF1の半分程度ですが、熱帯西部太平洋、インド洋、大西洋で同じ正偏差を示すようなパターンとなり、これは近年、熱帯海盆間変動(trans-basin variability、TBV)と呼ばれることもあります。これらの変動の時間変化を見ると、過去20年ほどはどちらも上昇する傾向を示しており(図2eと2fの黒線)、このことは、熱帯太平洋西部で高温、東部で低温という最近のSSTのトレンド(図1)はこれら2つの変動パターンが重なったためであるということを意味しています。MIROC5.2の全強制実験で同じ解析を行うと、やはり2つの観測とよく似た変動パターンが得られます(図2cと2d)。しかし、IPOの時間変化は、モデルのアンサンブル平均が観測と有意な相関を示さず、スプレッドが大きいことから、IPOの振幅や位相は放射強制によらない気候の内部変動として決まっていることが示唆されます(図2e)。一方、TBVの数十年規模変動はモデルのアンサンブル平均でよく再現されており、スプレッドも小さいことから、放射強制に対する応答であると考えられます(図2f)。

全強制実験におけるSST十年規模変動の再現性は、TBVの卓越する西太平洋や熱帯大西洋で観測とモデルのSST変動が高い相関を示すことで確認できます(図3a)。ここで、WNP域に注目して領域平均のSST時系列を観測値、全強制実験、SO2固定実験で比較すると、観測と全強制実験では明らかな数十年変動がある一方、SO2固定実験では変動が非常に小さくなっていることが分かります(図3b-d)。これは、WNP域のSST数十年規模変動に対して硫酸性エアロゾルが決定的な役割を果たしていたことを示すものです。最近の20年間では、この領域のSSTは上昇傾向を示しており、SO2固定実験および火山性SO2固定実験を組み合わせた要因分析の結果、その主要因は火山性エアロゾルであることが分かりました。特に、1991年のピナツボ火山噴火による寒冷化からの「春の戻り」が、1990年代の水温上昇傾向を説明します。ただし、噴火により成層圏に注入されるエアロゾルは早くに広がるため、SSTの応答パターンそのものは決定しません。また、「春の戻り」は数年で終了するため、2000年代にさらに水温が上昇する理由は火山に対する応答では説明できません。エアロゾルの放射効果や海面熱フラックスなどを詳細に解析にした結果、2000年代のWNPの昇温は熱帯大西洋の昇温(こちらには人為起源のエアロゾルも影響しています)が大気海洋相互作用を通じてもたらしたことが示唆されます。この結果は、最近発表された別の研究とも整合する結果となっています。

上記の結果を簡潔にまとめますと、熱帯太平洋東側の低温化は内部変動(すわなちIPO)によるもので、西側の高温化はエアロゾルに対する気候の応答として説明できます。全強制実験のアンサンブル平均は後者のみを再現しますので、1991~2010年の気候の変化傾向を観測と比較すると、エアロゾルにより生じた部分がどこか分かります(図4)。具体的には、インドネシア周辺の多雨傾向、日付変更線より西での貿易風加速、西太平洋の海洋上昇蓄熱量(海水準に比例します)の増大などです。観測された変化傾向のうち、残りの部分(東側の低温化と貿易風の強化)はモデルでは再現さてれておらず、IPOがたまたまこの期間に負の位相にあったことで生じたと考えられます。

過去80年間の貿易風の変化を見るために、赤道中部太平洋(図4cの黄色い枠)で平均した地表東西風速の時系列を図5aに示します。十年未満の変動はありますが、1991~2010年で貿易風は10年あたり0.76~0.87 m/s強まっています。図4に示した通り、貿易風の強化はWNPの昇温や西太平洋の蓄熱量増大と連動しており、それらの近年の変化傾向は20世紀初頭から現在までの期間で最も顕著であったことが各種の観測データからわかります(図5d、丸を付けた値が図5aに示す1991~2010年の貿易風トレンドに相当)。こうした傾向は、絶対値は弱いものの全強制実験にも同様に見られる一方、SO2固定実験では見られません。これは図3の結果と同様、硫酸性エアロゾルによる放射強制が、西太平洋域の十年規模気候変動に大きな役割を果たしていたことを示すものです。全強制実験における1991~2010年の貿易風トレンドは10年あたり0.28 m/sの加速で、これは再解析データから見積もられた観測値の34±18%に当たります。残りはIPOのような内部変動によると考えられますが、硫酸性エアロゾルによる強化がなければ、近年の貿易風の加速はこれほど記録的なものになっていなかったということがこの結果から分かります。

[研究の意義]
本研究の意義の第一は、過去80年にわたる熱帯太平洋域の数十年規模気候変動が、部分的であれ、硫酸性エアロゾルの放射強制により引き起こされていたことを明らかにした点にあります。このことは、太平洋の数十年規模気候変動には自然の内部変動(すなわちIPO)が卓越しているという従来の見方に反するものではありませんが、西太平洋における十年規模の地域的な気候の変化が火山活動あるいは人間活動により説明できるという本研究の結果は、気候システムに対する理解を深める上で非常に有意義です。第二は、上記の結果に基づいて、将来の西太平洋の気候変化の可能性を指摘した点です。2014~2015年になって、赤道貿易風が弱まり始めています。その主要因は強いエルニーニョの発生ですが、IPOの符号も負から正に転じつつあるという可能性が指摘されています。一方、全てのRCPシナリオで東アジアの硫酸性エアロゾル排出は2020年代まで増加傾向と予測されています。もしこの予測が正しく、さらに近未来に大きな火山噴火があれば、本研究で示したメカニズムに従って再び貿易風の減速と加速が起こる可能性があります。本研究が示したように、将来の熱帯太平洋の気候変化は、自然の変動と温室効果ガスやエアロゾルにより強制される気候の応答が複雑に重なって決まります。従って、その予測には、各国で推進している(気候の内部変動を予測する)近未来気候変動予測計算に加えて、信頼できるエアロゾルの排出予測が重要であることを意味しています。

[今後の展望]
本研究では、最近20年間の気候変化傾向に対する硫酸性エアロゾルの影響を中心に解析を行いましたが、西太平洋SSTの数十年規模変動は、太平洋高気圧の強弱や台風の統計にも作用すると考えられます。従って、さらに解析の対象を広げることで、硫酸性エアロゾルの変化が太平洋域の気候に及ぼす影響を包括的に理解することが可能です。また、エアロゾルと放射の相互作用は、気候モデルにおいて不確実性の大きな過程の一つです。今後数年で利用可能になる予定の、改善された気候モデルを用いた次期相互比較プロジェクトCMIP6の結果を利用して、本研究の成果を追試することも重要です。

本研究は、文部科学省「気候変動リスク情報創生プログラム」および科研費基盤研究A「熱帯大気海洋系変動と日本の異常天候に関する数値的研究」の補助を受けて行われました。

発表雑誌:

雑誌名:
   Nature Climate Change
論文タイトル:
   Pacific trade winds accelerated by aerosol forcing over the past two decadesこのリンクは別ウィンドウで開きます
著者:Takahashi, C. and Watanabe, M.*
   [*は責任著者]
DOI番号:10.1038/nclimate2996

問い合わせ先:

東京大学大気海洋研究所
准教授 渡部雅浩
E-mail:  hiroaori.u-tokyo.ac.jp        ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

用語解説:

注1: 全球気候モデル(general circulation model、GCM)
気候システムを構成する様々な要素(大気、海洋、陸面、雪氷等)及びそれらの相互作用を物理法則に従って定式化し、温室効果ガス等の変動も考慮しながら気候の長期的変動を計算するプログラム。通常、世界全体または領域で大気及び海洋を格子状に分割し、各格子で気温や風速、水蒸気等の時間変化を計算します。気候シミュレーションでは計算期間が長期にわたるため、多くの場合スーパーコンピュータが用いられます。
注2: 硫酸性エアロゾル
硫酸(SO2)は工業活動や火山噴火に伴ってガスとして排出され、大気中で硫酸性エアロゾルの微粒子になります。硫酸性エアロゾルは日射を遮ることで地表面を冷やす効果があることが知られており、地球全体では温室効果ガスの増加による温暖化を部分的に打ち消していると考えられています。1960~1990年代には、3つの大きな火山噴火とともに欧米からのエアロゾル排出が多かったことが分かっています(下図)。一方、東アジアからの排出は最近になっても増加傾向をたどっています。

過去80年間の火山性および工業活動起源の硫酸性エアロゾルの排出量推移

注3: 赤道貿易風(equatorial trade winds)
赤道近傍では、地球自転の効果により東から西へ西向きの地表風が吹いています。これを貿易風と呼び、特に太平洋と大西洋で年間を通じて明瞭に見られます。太平洋では、貿易風は暖かい海水を西へ運ぶことでインドネシア周辺の高い海面水温を維持し、そこでの活発な積雲対流活動を助けています。
注4: 太平洋数十年規模振動(Interdecadal Pacific Oscillation、IPO)
太平洋全域で海面水温が数十年の規模で緩やかに上昇・下降を繰り返すような変動で、太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation、PDO)とも呼ばれます。IPOは太平洋で最も卓越する長期気候変動で、下図のように熱帯域と中緯度で逆符号の海面水温偏差を示します。2000年代はIPOが負位相にあり、熱帯の海面水温が低い傾向を続けていました。
参考:http://www.nature.com/nclimate/journal/v4/n10/full/nclimate2341.htmlこのリンクは別ウィンドウで開きます

IPOの海面水温パターン(負位相時)

注5: 熱帯北西太平洋域(western North Pacific、WNP)
図3aに赤枠で示した東経130°–180° E、北緯10°–25° の領域。本研究でエアロゾルのSST十年規模変動に対する影響が明瞭に見られるために注目しました。
注6: MIROC5.2
東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構で共同開発されている全球気候モデルの最新版の名称。IPCC AR5で引用された気候モデルMIROC5の後継版にあたり、既に様々な気候変動研究に用いられた実績があります。
注7: アンサンブルシミュレーション
同一の条件で、ただし異なる初期値から始めたシミュレーションの集合をアンサンブルと呼び、その中の個々の計算をメンバーと呼びます。気候システムは非線形なので、わずかな初期値の違いから内部変動の位相や振幅にばらつきが生じ始めます。一方、同じ外部強制を与えているので、アンサンブルで平均をとることで、内部変動の寄与を除外した強制に対する気候応答を取り出すことが可能です。アンサンブルシミュレーションは、統計的により確かな結論を得るためにしばしば行われます。
注8: CMIP5(Coupled Model Intercomparison Project Phase 5)
第5期結合モデル相互比較プロジェクトの略。世界気候研究計画(World Climate Research Programme, WCRP)のもとで行われている、共通の外部強制(温室効果ガスや太陽活動など)を与えて計算される全球気候モデルの比較プログラムで、IPCC AR5で引用された気候シミュレーションを統括したのがCMIP5です。CMIP5では、将来のシナリオとしてRepresentative Concentration Pathways (RCP)と呼ばれる4通りが用意されており、それぞれ今世紀末の温室効果ガスによる放射強制力が異なりますが、人為起源の硫酸ガス排出は共通して削減されるという推測が採用されています。
注9: 気候の内部変動
人間活動とは無関係に生じる自然の変動のうち、気候システムの外部要因(太陽活動や火山噴火など)によらない現象を内部変動と呼びます。偏西風の蛇行や台風などの気象擾乱、エルニーニョなどの気候変動がこれにあたります。これまでの多くの研究では、IPOはエルニーニョ同様に太平洋大気海洋結合系の内部変動によって生じていると考えられています。

添付資料:

図2: 1936~2009年の熱帯太平洋SSTに卓越する2つの変動モード。(a)-(b) 観測値、(c)-(d) MIROC5.2の全強制実験から得られた変動の空間パターン、(e)-(f) 変動の振幅と位相を表す時間変化。SSTデータはトレンドおよび10年以下の短周期変動を除去したものを用いました。(a)と(c)は観測とモデルにおけるIPOに相当し、(b)と(d)はTBVを表します。時間変化の黒線は観測、赤線はモデルのアンサンブル平均。陰影はアンサンブルのばらつきを表します。観測とモデルの相関係数を時系列の左上に示しました。全強制実験は観測されるTBVの数十年規模変動をよく再現する一方、IPOの再現性は低いことから、IPOはモデルに与えた強制で位相が決まらない自然の変動、TBVは強制が振幅と位相をかなりの部分支配する気候の応答を表していると分かります。

図3: 1931~2014年のSST長周期変動。(a) 観測と全強制実験のアンサンブル平均の相関係数(再現性の指標)を各地点で求めたもの。赤枠で示したWNP域および熱帯大西洋で特に再現性が高いことが分かります。(b)-(d) WNP域のSST変動の時系列。観測、モデル(全強制実験)、モデル(SO2固定実験)。灰色はトレンドを除去した年平均値、黒線は長周期変動を表します。アンサンブルのばらつきを灰色の縦棒で示します。1991~2010年の変化傾向の値を図中に記載しました。観測される近年の昇温傾向は、全強制実験ではよく再現されているが、SO2固定実験ではほとんど再現されていないことから、WNP域のSSTの十年規模変動に対して硫酸性エアロゾルが決定的な役割を果たしていたことが分かります。

図4: (a)、(c) 観測および(b)、(d) 全強制実験における1991~2010年の気候変化傾向(トレンド)。(a)-(b) SST(カラー)と降水量(オレンジ/緑の点)、(c)-(d) 地表東西風(カラー)、海洋上層300mの蓄熱量(等値線)および地表風(ベクトル)。モデルの結果はアンサンブル平均を用いました。(a)-(b)の点描は、トレンドが統計的有意水準95%を超える地点を表します。同様に、風ベクトルは95%で有意なトレンドのみを示します。シミュレーションは、西太平洋からインド洋の昇温、日付変更線以西の貿易風の強化、インドネシア周辺の多雨、西太平洋の蓄熱量(海水準に比例します)増加の傾向を再現していることが分かります。

図5: (a)-(c) 赤道中部太平洋(図4の黄色い枠の地域)における地表東西風の変化。2種類の再解析データ、全強制実験、およびSO2固定実験の結果(陰影はアンサンブルのばらつき)。1991~2010年のトレンドの数字を図中に示します。全強制実験では、再解析データに見られる貿易風トレンドの約34%が再現されている一方、SO2固定実験では貿易風はほとんど変化していないことが分かります。(d)-(f) 移動ウィンドウで求めた20年トレンドの時間変化。貿易風(青線)、WNP海面水温(黒線)、西太平洋(図4オレンジの枠)で平均した300m蓄熱量(赤線)。その他は(a)-(c)にならいました。丸で囲った点が1991~2010年のトレンドに対応します。近年の貿易風の加速は過去80年で見られなかったレベルであることが分かります。

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