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最も強い雨は最も高い雨雲からは降らない 〜衛星搭載降雨レーダが明らかにした極端降雨の姿〜

2015年2月25日

濱田 篤(東京大学大気海洋研究所)
高薮 縁(東京大学大気海洋研究所/宇宙航空研究開発機構)

発表のポイント: ◆これまで、高さが極端に高い積乱雲は極端に強い雨をもたらすと考えられていました。 ◆衛星に搭載された降雨レーダの立体降水観測データから南北緯度35度内の雨の特性を地域別に調査した結果、最も強い雨は最も背の高い雨雲から降らないことを発見しました。 ◆日本では暖候期に豪雨をもたらす雲降水システムの特徴の精確な理解は、災害に対して社会が適切に備えるために役立つと期待されます。

発表者:

濱田 篤(東京大学大気海洋研究所 特任研究員)
高薮 縁(東京大学大気海洋研究所 教授、宇宙航空研究開発機構 [JAXA] 招聘研究員)

発表概要

活発な積乱雲は強い雨を降らせます。従来、積乱雲の高さは雨の強さの指標になると考えられてきました。一方で、激しい上昇気流や雷を伴わない雨雲から鉄砲水をもたらすような強い雨が降った例もあり、雨雲の高さがいつでも極端に強い雨の目安になるかは、これまで統計的に分かっていませんでした。

東京大学大気海洋研究所の濱田 篤 特任研究員と高薮 縁 教授らは、JAXA降雨観測ミッションの委託研究において、雨を立体観測できる降雨レーダを搭載した熱帯降雨観測(TRMM)衛星(注1)による長期間観測データを利用し、南北緯度35度内(北はちょうど東京を含む)で短時間に極端に降る雨の構造の特徴を約300q四方の地域毎に調べました。その結果、最も激しい上昇流を伴う積乱雲システムから最も強い雨が降るのではないこと、しかもこれは地域によらない普遍的な特徴であることを発見しました。

さらに雨雲の構造と大気の状態から、極端に強い雨をもたらす雲では「暖かい雨(注2)」の生成プロセスが効果的に働いていることを示唆しました。

本研究の成果は、日本では主に暖候期に豪雨をもたらす雲降水システムの特徴を精確に理解し、社会が豪雨災害に備えるための知識として役立たせることができます。また、高解像度数値天気予報モデルの降雨表現の検証・改良への貢献も期待されます。

発表内容

(1) 研究の背景

短時間に降る極端降雨は、鉄砲水を引き起こすなど、社会の安全に大きな影響を与えます。一般に、雨の瞬間的な強さは、その雨をもたらす積乱雲の活発さに比例します。従来、この考え方は極端に強い雨(極端降雨)についても当てはまるとされ、激しい上昇気流や雷を伴う積乱雲の全球的な分布や特徴を調べた研究が数多く行われてきました。一方で、鉄砲水をもたらした雨雲が必ずしも激しい上昇気流や雷を伴わなかったという観測例も報告されています。また、地形の影響を受けて発達し強い雨をもたらす雨雲の高さは、比較的低いことも知られています。これらの事実は、雨雲の高さが雨の強さの指標になるという従来の常識が、極端降雨には当てはまらないという可能性を示しています。

しかし、雨の強さを直接指標とした極端降雨がどのような雨雲と関わっているのかを調べたこれまでの研究は地上レーダなどのある限られた地域のものしかありません。雨の特徴についての研究を全球で行うためには人工衛星が取得したデータを解析する必要があります。しかし、雲の高さや雷の多さなどに比べて、雨の立体構造を観測できる人工衛星は限られています。また、十分なデータの蓄積なくしては、強い雨がその地域にとって本当に「極端な」ものかどうかを見極めることもできません。

熱帯降雨観測計画(TRMM)衛星(注1)は世界初の降雨レーダ(注3)を搭載し、1997年12月から17年間、降雨の立体構造を観測してきました。この長期間の降雨データの蓄積を利用することによって、各地域での極端降雨の特徴を調べられる可能性があります。

(2) 研究方法の概要

今回、東京大学大気海洋研究所の濱田 篤 特任研究員と高薮 縁 教授らはTRMMの降雨レーダにより11年間の降雨の立体観測データを用い、南北緯度35度内(北はちょうど東京を含む)を約300km四方の格子状に分割した各地域において雨の強さが最も強い極端降雨の発生(以下極端降雨)および雨雲の高さが最も高い極端対流の発生(以下極端対流)を観測データから抽出しました(図1)。観測された雨域の数は地域によって異なり数千〜数万個ですが、そのうち最大降雨強度が上位0.1パーセント(1000分の1)以内である雨域を「極端降雨」、レーダ反射強度(注4)40dBZ最高到達高度が上位0.1パーセント以内である雨域を「極端対流」と定義し、それぞれに当てはまる雨域の立体構造とその環境の特徴を調べました。

(3) 結果

極端降雨と極端対流の構造には明瞭な違いが見られました(図2a, b)。極端降雨は相対的に低い雨雲に伴っていることが分かります。また、0℃高度(右軸沿いの破線、4.5km付近)よりも下では、極端降雨のレーダ反射強度は地表に向かって増大するのに対し、極端対流では一定もしくはやや減少しています。この特徴は、陸上に比べて積乱雲の活発度が平均的に低い海上にも明瞭に現れています(図略)。さらに、いくつかの地域に限って比較を行った結果、この特徴は陸上・海上、熱帯・亜熱帯の地域に依らず、普遍的なものであることが分かりました(図3)。例えば赤道アフリカや米国中部(図3b, c)といった、多量の霰や雹を降らせるような非常に激しい積乱雲が極端気象現象の代表とされるような地域においてさえ、その地域で最も強い雨は、比較的背の低い雨雲からもたらされるのです。

極端降雨と極端対流の雨域が一致する割合を調べると(図4)、熱帯・亜熱帯のほとんど全ての地域で30%未満となっています。特に熱帯の陸上においては、10%未満です。この結果は、積乱雲の高さで雨の強さを推定する慣例が、極端降雨には当てはまらないことを意味します。また、極端降雨と極端対流の現れやすい季節が異なることも効いています。例えば日本付近では(図5)、極端降雨の月別数(青線)とその地域の平均降雨量(黒線)とはほぼ同じ時期にピークを持つのに対し、極端対流の月別数(赤線)は、雨季の狭間の盛夏に最も多くなっています。

極端降雨と極端対流の起きる際の大気の状態にも大きな違いが見られます。極端降雨は、極端対流に比べ、大気が相対的に安定で、対流圏全体にわたって湿潤な時に起きていることが特徴的です(図6a, b)。また、下部対流圏で水蒸気が潤沢に供給されている(図6c)ことも特徴的です。大気の状態に現れる違いは、各地域における季節差と似ており、極端降雨と極端対流の月別数の違いと整合しています。

上記の結果は、極端降雨をもたらすには「暖かい雨(注2)」の生成プロセスが重要であることを示唆しています。暖かい雨が効果的に生成されるには、大気が対流圏全体にわたって湿潤であり、雲底から0℃高度までが厚く、かつ上昇気流が比較的弱いことが必要です。極端降雨に関わる大気の状態はこれらの条件を満たしています。さらに、極端降雨に見られる、レーダ反射強度が地表に向かって増大するという特徴は、降水粒子が落下中に衝突しながら成長していることを反映しており、暖かい雨の特徴とも一致します。

(4) 研究の意義

本研究の第一の意義は、積乱雲の高さが雨の強さに関係しているという従来の常識的な指標が極端降雨には当てはまらないことを、観測に基づいて実証し、かつそれがTRMM観測域の範囲(東京を含む熱帯亜熱帯域)で地域によらず普遍的であることを示したことにあります。第二の意義は、極端に強い降雨をもたらすには、暖かい雨の生成プロセスが効果的に働くことが重要であることを示唆した点です。これらの知見は、極端降雨に関わる物理の精確な理解を通して、豪雨に対する社会の備えのためによりよい情報を発出すると共に、雲や雨を直接予報する高性能な天気予報モデルにおける降雨特性の検証改良にも重要な貢献が期待されます。

(5) 今後の展望

TRMMの降雨レーダでは、降水粒子のサイズ分布や固体・液体の区別といった情報を得ることが難しいため、極端降雨の生成プロセスを特定するのには限界があります。雪や氷と雨粒を区別できる性能を持った地上レーダや、2014年に観測を開始した全球降水計画(GPM)主衛星(注5)による観測などを活用することで、極端降雨の生成プロセスに関する定量的な理解が進むと期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Weak linkage between the heaviest rainfall and tallest storms
著者:Hamada, A.*, Y. N. Takayabu, C. Liu, and E. J. Zipser
DOI番号:10.1038/ncomms7213
アブストラクトURL:http://www.nature.com/ncomms/2015/150224/ncomms7213/full/ncomms7213.html

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所
特任研究員 濱田 篤 (はまだ あつし)  E-mail: a-hamadaaori.u-tokyo.ac.jp
教授    高薮 縁 (たかやぶ ゆかり)  E-mail: yukariaori.u-tokyo.ac.jp

※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

備考

本研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)降水観測ミッション(PMM)研究の一環として行われました。

用語解説

注1:熱帯降雨観測計画(TRMM)衛星
地球の大気循環の動力源である熱帯の降雨を観測することを目的として、1997年に打ち上げられた人工衛星。日米の協力体制のもとに衛星やアルゴリズムが開発されました。降雨レーダをはじめとした5つの観測機器により、緯度35度付近までの熱帯・亜熱帯をくまなく観測しています。
注2:暖かい雨
水蒸気は凝結して雲粒・雨粒となり、さらに上昇流で持ち上げられた場合には凍結・昇華して氷粒となりますが、凍結する前に雨粒が十分な大きさに成長して落下するような雨を「暖かい雨」と呼びます。逆に、固体の状態を経た降水を「冷たい雨」と呼びます。
注3:TRMM降雨レーダ
JAXAと独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)が共同開発した、世界初の衛星搭載型降雨レーダ。250kmの観測幅で水平分解能5km、鉛直分解能250mの観測を行っています。降雨の3次元構造を観測できることが最大の利点です。
注4: レーダ反射強度
レーダが観測した受信電力から計算されるパラメタで、対象点における降水粒子のサイズ分布に関係する量であるレーダ反射因子(Z)をデシベル表記(dBZ := 10log10Z)したものです。通常、指数関数的な関係を通して降水強度と正の比例関係にあります。
注5:全球降水計画(GPM)主衛星
TRMM衛星観測の成功を受けて、その拡大後継ミッションとなる全球降水計画の中心となるべく、2014年2月に打ち上げられた人工衛星。TRMMの降雨レーダを発展させた2周波降水レーダなどを搭載し、より弱い降水も含めた高精度の降水観測を行うことを目的としています。観測緯度帯は緯度65度付近まで拡大されています。

添付資料

図1:極端降雨イベントと極端対流イベントの概念図。

図2:地域別の極端降雨イベントおよび極端対流イベントの構造に見られる違いを示した図。陸上での、(a)は極端降雨イベント、(b)は極端対流イベントの結果を示しています。(c)は降雨も対流も極端なイベントの結果を示します。色は高度別の反射強度分布で、それぞれ雨域内の最大降雨強度、反射強度40dBZ高度最高点を観測した場所での反射強度を2次元ヒストグラムで示しています。各パネルの右軸沿いに、降雨頂高度(実線)と0℃高度(破線)の高度別ヒストグラムを示しています。各パネル右上の数値は、ヒストグラム作成に用いたイベントの数を示しています。

図3:図2と同様の図を、いくつかの地域に限定して示したもの。(a) アマゾン域、(b) 赤道西部アフリカ陸域、(c) 米国陸域、(d) 赤道西部太平洋域、(e) 日本近海域、および(f) 南西太平洋域について示しています。極端降雨(図1a)と極端対流(図1b)の結果のみを示しています。

図4:熱帯・亜熱帯各地域における、極端降雨と極端対流の一致度(パーセント)。赤いほど一致度が低く、値が100であれば両者が完全に一致していることを示します。

図5:日本周辺の海上での月別の極端降雨件数(青線)および極端対流件数(赤線)。黒破線は平均月降雨量で、月降雨量の縦軸は図が見やすいように調整されています。

図6:極端降雨と極端対流に関わる大気状態の差。 (a) 気温、(b) 相対湿度、(c) 水蒸気収束について、極端降雨の大気場−極端対流の大気場を示しています。赤線、青線はそれぞれ陸上、海上の結果を示し、エラーバーは平均値の99%信頼区間を示しています。気温差が下層ほど負に大きいことは、極端降雨の際の大気が相対的に安定であることを示しています。

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