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約8000年前から現代までの北米大陸の大気循環の変化 ~洞窟の岩石や湖の沈殿物から明らかに

2014年4月17日

芳村圭(東京大学大気海洋研究所)
劉忠方(天津師範大学)

北太平洋・カナダ西部・北米東海岸付近でのシーソーのような大気状態(太平洋北米パターン、注1)は、そのパターンによって北米の天候が大きく影響を受けるため多くの研究がされてきました。しかし、太平洋北米パターンそのものが数百年や数千年といった長い時間スケールにおいてどのように変動してきたのかはあまりわかっていませんでした。
東京大学大気海洋研究所の芳村圭准教授と劉忠方 元 日本学術振興会外国人特別研究員(現中国天津師範大学准教授)らは、北米大陸の東側と西側のそれぞれで、洞窟の天井から落下する水滴に含まれた炭酸カルシウムが結晶化したタケノコ状の岩石(石筍、注2)と湖で採取された炭酸カルシウムなどの沈殿物(湖底堆積物、注3)の酸素安定同位体比のデータ(注4)を組み合わせ、コンピュータシミュレーションにより、過去8000年の間に太平洋北米パターンが北米東海岸で高温、カナダ西側で低温となる負の状態(注5)から北米東海岸で低温、カナダ西側で高温となる正の状態(注6)に移り変わってきたことを新しく発見しました。また、約200年の周期で東側と西側の差が有意に大きく変動していることがわかり、この周期は、ほぼ同じ周期で見られる太陽の活動(ド・ヴィリエ周期;注7)と関連性があることを初めて示唆しました。
このような太平洋北米パターンの長期的な変動を明らかにしようとする研究は、過去の大きな気候変動によって大気循環が大陸スケールでどのように変動したのかを解明する手掛かりとなります。加えて、太平洋北米パターンは北米だけではなく日本の天候にも大きな影響を与えるため、地球温暖化とも関連して、暖冬や厳冬の中長期的予測の改良に資することができると期待されます。

発表者:

芳村圭(東京大学大気海洋研究所 准教授)
劉忠方(天津師範大学 准教授/元 日本学術振興会外国人特別研究員)

発表のポイント:

 ◆約8000年前の北米大陸の大気は東海岸で高温、カナダ西側で低温となる負の状態が強かったことを、明らかにした。
 ◆洞窟の岩石や湖の沈殿物の解析とコンピュータシミュレーションによって発見した。
 ◆北米大陸の大気循環のパターンは、日本の天候にも大きな影響を与えるため、特に地球温暖化とも関連して、暖冬や厳冬の中長期的予測の改良に資すると期待される。

発表内容:

太平洋北米パターン(PNAパターン)は、北太平洋・カナダ西部・北米東海岸付近に東西のむきに列を作るように現れ、数日から数週間程度で変化する気温や気圧の偏差のパターンのことです。この現れ方によって北米の天候が大きく影響を受けるため、多くの研究がされてきました。その結果、エルニーニョ・ラニーニャ現象によって引き起こされる、地球大気が持つ固有振動であるというような理解が得られてきましたが、PNAパターンそのものが、数十年や数百年、数千年といった長い時間スケールにおいてどのような変動をしてきたのかはあまりわかっていませんでした。

東京大学大気海洋研究所の芳村圭准教授と劉忠方 元 日本学術振興会外国人特別研究員(現中国天津師範大学准教授)らは、米国西バージニア州バックアイクリーク洞とオレゴン州オレゴン洞ナショナルモニュメントで採取された石筍とニュージャージー州グリネル湖およびカナダユーコン州ジェリービーン湖で採取された湖底堆積物の酸素安定同位体比データを、北米の東側のデータと西側のデータのペアとして組み合わせて用いるとPNAパターンの良い代替指標となることを見出しました。そして、石筍と湖底堆積物の両方のデータから、過去8000年の間にPNAパターンが北米東海岸で高温、カナダ西側で低温となる負の状態から北米東海岸で低温、カナダ西側で高温となる正の状態に移り変わってきたことを発見しました(図1)。

この移り変わりを芳村准教授が開発したモデルによるコンピュータシミュレーションにより確かめました。このモデルは水の酸素同位体比の物理的な変動メカニズムを組み込んだ気候モデルで、同位体大循環モデル(注8)と呼ばれているものです。大気海洋結合モデル(注9)によって再現された完新世中期(約8000年前;注10)と現在の海面水面分布を境界条件として用いたシミュレーションの結果、二つの時代の降水の酸素安定同位体比の差が、確かに現代の負のPNAパターンと正のPNAパターンの差とよく似ていることが判明しました(図2)。

さらに、それら石筍と湖底堆積物の酸素安定同位体比データの変動をクロススペクトル解析すると、いずれのペアでも約200年の周期で変動が同期していることがわかりました。そしてこの東西の差の大きな周期変動は、ほぼ同じ周期の太陽活動(ド・ヴィリエ周期)と良く同調していることが示唆されました(図3)。これらの結果から、PNAパターンは現実的には大気循環の数か月スケールの変動を表す指標であるにもかかわらず、それが数百年から数千年スケールでも、地球規模の気候変化の影響を受けて、大きく変化していることを明らかにしました。

このようなPNAパターンの長期的な変動を明らかにしようとする研究は、過去の大きな気候変動によって大気循環が大陸スケールでどのように変動したのかを解明する大きな手掛かりとなります。また、現在の地球温暖化によってPNAパターンがどのように変化し、その結果降水量分布や気温分布がどのように変化するのかという予測に生かすことができます。PNAパターンは本質的にエルニーニョ現象と関連が深いため、PNAパターンに付随した天候の変化は北米だけではなく日本域にも影響を及ぼすことが知られており、暖冬や厳冬の一要因として捉えられています。今後は、北米とは別の地域で見られる天候パターン(たとえばより日本の近くに位置する西太平洋パターン)について同様の手法を用いるなどの応用が考えられています。

なおこの研究は文部科学省委託事業気候変動リスク情報創生プログラム 領域テーマC「気候変動リスク情報の基盤技術開発」の成果の一部です。

発表雑誌:

雑誌名:「Nature Communications」
論文タイトル:Paired oxygen isotope records reveal modern North American atmospheric dynamics during the Holocene
著者:Liu, Z., K. Yoshimura, G. J. Bowen*, N. H. Buenning, C. Risi, J. M. Welker, F. Yuan
DOI番号:10.1038/ncomms4701
アブストラクトURL:http://www.nature.com/ncomms/2014/140416/ncomms4701/abs/ncomms4701.html

問い合わせ先:

芳村 圭
東京大学大気海洋研究所気候システム研究系 准教授
E-mail: kei★aori.u-tokyo.ac.jp

E-mailはアドレスの「★」を「@」に変えてお送り下さい

用語解説:

(注1)太平洋北米(PNA)パターン:北半球冬季に特に顕著にみられる、北太平洋・カナダ西部・北米東海岸付近に交互に現れる気圧や気温の偏差。エルニーニョ・ラニーニャ現象に強く関係した、中緯度大気の固有現象である。日本列島の気候とも深く関連しており、日本が厳冬のときに北米東海岸(ニューヨーク・ボストンなど)でも厳冬となることがあるのはこのためである。

(注2)湖底堆積物:主に、湖に流入したカルシウムなどの陽イオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)が炭酸カルシウム(CaCO3)などの炭酸塩を作り沈殿したもの。湖内で撹拌がない場合は、年代とともに層状に積もっていくため、過去の良い記録となる。炭酸イオンの酸素安定同位体比は、溶媒の水の酸素安定同位体比に依存した値を持っているため、生成された炭酸塩の酸素同位体比は結果的に流入水(すなわち降水)の酸素同位体比を反映したものとなる。

(注3)石筍(せきじゅん):洞窟内で、地下水が天井面ににじみ出て落下する際に(主に)炭酸カルシウムが晶出し、表面から立ち上るタケノコのような形で生じたもの。地下水の酸素同位体比に依存した値を持つため、湖底堆積物と同様、降水の酸素同位体比を反映したものとなる。

(注4)酸素安定同位体比:酸素原子にはいくつかの安定同位体があり、16Oに対する18Oの存在比を酸素安定同位体比と呼ぶ。水分子にもH216OとH218Oがあるため、それらの比を水の酸素同位体比と呼ぶ(慣用的にH218Oは「重い水」と呼ばれる)。通常「重い水」は気体よりも液体に、液体よりも固体に含まれやすくなるため、降水の酸素同位体比は地球水循環における相変化の指標となりうる。

(注5)正の状態(正のPNAパターン):北米上のジェット気流の強い蛇行を伴い、北米東海岸において豪雪を誘発することが多い。

(注6)負の状態(負のPNAパターン):ジェット気流があまり蛇行せず、北米東海岸においては暖冬となるが、降水量が少なくなり渇水を引き起こすことが多い。北米西海岸やカナダ西部においては、厳冬となる。

(注7)ド・ヴィリエ周期:太陽そのものの活動(たとえば黒点数等)の周期性によって生じている周期の一つ。約210年程度で1周期。

(注8)同位体大循環モデル:地球の大気状態を予測するために開発されてきた大気大循環モデルに水の同位体(HDOとH218O)を導入したモデル。気候変動による同位体比への影響などをより正しく見積もることができる。

(注9)大気海洋結合モデル:IPCC第5次報告書に関するモデル実験などで世界各国によって用いられている、大気大循環モデルと海洋大循環モデルを結合させて作られた気候モデル。

(注10)完新世中期:直前の氷期が終わった約1万年前から現在までの時代を完新世と呼び、その中期(約8000年前)のこと。比較的温暖な時代ということで知られており、日本では縄文海進の時代に相当する。

添付資料:

以下の図はこちらからダウンロードできます。(pptxファイル)(1297KB)

図1:石筍と湖底堆積物の酸素同位体比変動。細かい変動があるとともに、約4000年前を境に共通した変化がみられる。

図2:同位体大循環モデルでシミュレーションした降水同位体比の変化

図3:石筍と湖底堆積物の同位体比データのクロススペクトル図

プレスリリース