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クラゲの大発生を食い止めろ ~プラズマ処理技術を応用してクラゲ幼生の着底を制御~

2014年2月14日

都丸 亜希子(東京大学大気海洋研究所 元特任研究員)
浜崎 恒二(東京大学大気海洋研究所)
沖野 晃俊(東京工業大学大学院総合理工学研究科)

クラゲは、大発生をおこし経済的・生態的なダメージを与えることが知られています。ミズクラゲも例外ではなく、発電所の取水口を塞ぐことによる発電停止をひきおこす、漁業の妨げになるなど社会問題となっています。しかしミズクラゲは世界中に分布しているにもかかわらず、大発生の予測や制御には至っていません。卵から孵化したクラゲの幼生(プラヌラ)は、しばらく海水中を浮遊した後、貝殻や岩などの自然由来のものだけでなく、海岸部のフロートや桟橋などの人工構造物にもくっつきます(着底)。着底後、ポリプと呼ばれるイソギンチャク様の形に変態し、このポリプは分裂によって増加し、それらがクラゲへと成長するため、プラヌラの着底を防ぐことによってクラゲの大発生を制御できると期待されます。
今回、東京大学大気海洋研究所の都丸亜希子元特任研究員と浜崎恒二准教授らは、東京工業大学の沖野晃俊准教授らとの共同で、海洋構造物や漂流・漂着後にゴミとして知られているプラスチック(ポリカーボネート)をモデル材料としてプラヌラの着底実験を行い、温度制御が可能な大気圧プラズマ装置を用いてプラスチック表面を親水化することにより、プラヌラのプラスチック表面への着底率が大きく低下することを見出しました。
プラズマ処理によるプラスチック表面の親水化は、物理的な構造変化や薬品処理を必要としない利点があり、簡単かつ効果的な抑制法としてクラゲ大発生のメカニズム解明や新たな防除技術の開発につながると期待されます。

図のダウンロード(zipファイル、7921KB)

発表者

都丸 亜希子(東京大学大気海洋研究所 元特任研究員)
浜崎 恒二(東京大学大気海洋研究所 准教授)
沖野 晃俊(東京工業大学大学院総合理工学研究科 准教授)

発表のポイント

◆ミズクラゲ幼生の着底を効果的かつ簡単に抑制する方法を見つけました。
◆温度制御が可能な大気圧プラズマ装置を用いて、ミズクラゲ幼生がくっつく基質の表面を物理的な構造変化や薬品処理することなく、親水性に変えることが本方法のポイントです。
◆クラゲ大発生のメカニズム解明や防除技術の開発につながると期待されます。

発表内容

研究の内容:
クラゲは、大発生をおこし経済的・生態的なダメージを与えることが知られています。ミズクラゲも例外ではなく、発電所の取水口を塞ぐことによる発電停止をひきおこしたり、漁業の妨げになったりするなどして社会問題となっています。しかしミズクラゲは世界中に分布しているにもかかわらず、大発生の予測や制御には至っていません。ミズクラゲは、卵からかえった幼生(プラヌラ)が浮遊生活をし、まもなく貝殻や岩などの自然由来のものだけでなく、海岸部のフロートや桟橋などの人工構造物に着底しイソギンチャク様の形のポリプに変態します。このポリプは無性生殖をするため、どんどん数を増やしその後子クラゲ(エフィラ)を海水中に放出します。このエフィラが成熟したものが海でよく見かける成体のクラゲです。したがって、プラヌラの着底を防ぐことによってクラゲの大発生を制御できると期待されます。

これまでに、ポリプは漂流・漂着ゴミとして知られ、また海洋構造物などにも使われているプラスチックにくっついていることが報告されていました。また、物質表面の親水性の有無がプラヌラの着底基質の選択に関係するという報告はありましたが、親水性の程度を変えるために異なる素材を使っていたり、物質表面の物理的な構造変化をさせたりしていたため、結果が一定せずその効果は不明でした。

そこで、東京大学大気海洋研究所の都丸 亜希子元特任研究員と浜崎 恒二准教授らは、プラヌラの着底基質としてプラスチックとその表面の親水性に着目しました。同一素材でかつ物理的な構造を変えることなくポリカーボネート(PC)板表面の親水性の程度を変える方法として、大気圧プラズマの技術を用いました。表面処理に用いた装置(大気圧ダメージフリープラズマ,リニア,(株)プラズマコンセプト東京)は、−90から150ºCまで温度を制御できるためプラズマ特有の熱のダメージをPC板に与えません。実験の結果、二酸化炭素、窒素、酸素のいずれの気体を用いたプラズマ処理でも、PC板の表面の物理的な構造を変化させることなく、親水性の程度を変えることに成功しました。なお、親水化の程度は接触角(JIS R 3257)を測定することによって決定しました。

このプラズマ処理をしたPC板を用いてプラヌラの着底実験を行なった結果、処理前のPC板には1m2あたり40万個体の着底が見られたのに対し、親水化したPC板表面への着底はその半分から最大で5万個体にまで抑制されることがわかりました(図1)。プラズマ処理前後のPC板の表面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した結果、処理前後で表面構造の物理的な変化が無いことが確認できました(図2)。したがって、今回得られた着底実験の結果は、「プラヌラは親水性の低い基質により着底しやすい」ことを初めて明確に示したものとなります。さらに、プラヌラの着底がなぜ親水化の程度によって左右されるのか、そのメカニズムを知る手掛かりを得るため、走査型X線光電子分光(XPS)分析装置によってPC板表面の元素分析も行ないました。その結果、いずれのプラズマ処理においても、大気中の窒素のプラズマ化がPC板表面の物性変化に寄与していることがわかりました(図3)。

今後の展望
本研究の成果は、クラゲ大発生のメカニズム解明やクラゲ大発生を防ぐための新たな技術開発につながると期待されます。現状の着底数は親水化の程度に比例しないため、他の要因を含めた条件の最適化やプラヌラの着底基質の選択のしくみも考慮して抑制率をさらに高めることが今後の課題です。また、今回用いたプラズマ処理によるPC板の親水化技術は、微生物バイオフィルムを制御する手法としても有効なため、海洋構造物や船舶への付着生物の防止技術開発にも寄与すると期待されます。

なお、本研究は農林水産技術会議「環境変動に伴う海洋生物大発生の予測・制御技術の開発(2007-2012)」のうち「クラゲ類の大発生 予測・制御技術の開発プロジェクト(STOPJELLY)」の助成を受けたものです。

発表雑誌

雑誌名:PLOS ONE (プロスワン)、オンライン版:2014年1月20日 (月)
論文タイトル:Settlement of Planulae of the Moon Jellyfish Aurelia aurita onto Hydrophilic Polycarbonate Plates Modified by Atmospheric Plasma Treatment
大気圧プラズマを用いて親水化したプレートへのミズクラゲ幼生の着底の実験
著者:Akiko Tomaru*, Ryota Sasaki, Hidekazu Miyahara, Akitoshi Okino, Nobuhiro Ogawa, Koji Hamasaki
DOI番号:10.1371/journal.pone.0085569
アブストラクト:http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0085569

問い合わせ先

都丸 亜希子 akotoma★gmail.com
浜崎 恒二 hamasaki★aori.u-tokyo.ac.jp

E-mailはアドレスの「★」を「@」に変えてお送り下さい

添付資料

図1.PC板表面の処理前(Cont85)と処理後(CO55, CO35, O55, O35, N55, N35)のPC板へのプラヌラの着底数。尚、Contは未処理であり、CO、O、Nは、それぞれCO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、N2(窒素)を混合した処理である。85, 55, 35などの数値は接触角(º)を示している。*: Ar (アルゴン、30 L min-1 [リットル毎分] ) と O2 (0.02 L min-1 )の混合気体。処理には通常Ar (30 L min-1 ) に対して0.1L min-1の気体(O2,CO2,N2のいずれか)を混合。

図2. PC板表面の処理前(A)と処理後(B-D)の電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真。(A) Cont85, (B) CO35, (C) O35*, (D) N35。略語は図1と同様である。
バー = 5μm。

図3. PC板表面の処理前(A)と処理後(B-D)の走査型X線光電子分光(XPS)分析によるワイドスキャンの結果。
(A) Cont85, (B) CO35, (C) O35, (D) N35。略語は図1と同様である。
 

参考写真:

大量に発生したミズクラゲの集群

浮き桟橋に設置されたフロートの裏面に着底、増殖したポリプ。拡大写真の白く見える部分がポリプのかたまり

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