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宮城県牡鹿町泊浜(牡鹿半島東岸)の岩礁藻場における潜水調査(速報)

2011年6月20日

海洋生物資源部門 河村知彦

6月8日から10日に、宮城県牡鹿町泊浜(牡鹿半島東岸)の岩礁藻場において、東北水研と共同で震災後初めて潜水調査を行ったので、その調査の概要と結果(速報)を紹介する。

 

宮城県牡鹿町泊浜のボーダ浜では、過去20年間ほど、東北水研が中心となって断続的にエゾアワビやウニ類などのベントス分布調査を実施しており、特にここ10年ほどは定期的に連続した調査を行なっている。震災前の2月にも調査に入っている。調査範囲は水深4mほどから8mほどまでで、水深4~5mあたりにはアラメ(多年生の大型褐藻)が群落を形成している。それより沖側は無節サンゴモに一面覆われた転石・岩盤帯となっている。集落には直接面しておらず、河川の流入もない岩礁帯である。

海はやや濁っており(これは震災後ずっと続いているそうである)、透明度は数メートルほどであったが、目立ったがれき等は見られなかった。アラメは根元からの切られたように無くなっているものも見られたが、7~8割くらいは残っており(正確には計測結果を過去のデータと比較して見る必要がある、以下の記述でも全て同じ、採集サンプルの計測はまだ行なっていない)群落全体が無くなったということはなかった。エゾアワビの天然成貝(殻長5 cm以上程度)はアラメの群落内に主に生息しているが、これらは予想以上に残っていた。おそらく津波以前の5割程度は残っていると思われた。アラメの群落内ではその他の小型巻貝類なども比較的多く見られた。それに対して沖の無節サンゴモ帯では、大きな転石や岩盤が割れていたり、上下が逆転していたりするものもあり、この場所に多かったキタムラサキウニの密度はおそらく2割あるいは1割程度に減少していた。この無節サンゴモ帯はエゾアワビ浮遊幼生の着底場になっており、おもに殻長3 cm以下の稚貝の生息場になっているが、これらの密度も大きく減少しているようであった。アラメ群落とサンゴモ群落の境界域にあったテングサ類などの背丈の低い海藻群落はかなり縮小しており、そこに多かったカニ類なども大半が見えなくなっていた。強力なグレーザーであるウニの密度が下がった結果と思われるが、無節サンゴモ帯には海藻幼芽の芽生えが早くも見られた。

津波の影響については、今回の調査結果を詳しく解析してみないと何とも言えない。しかし、潜水してざっと見たかぎりではあまり大きな変化はないような印象を受けたものの、実際にベントスの採集を行なってみると、密度や組成にはかなり大きな変化があることが判明した。透明度や動物相の変化が今後どのような影響をもたらすのか、継続的な詳しい調査が必要である。また、今回は比較的波があったため調査できなかったが、さらに浅場のエゾノネジモクという大型褐藻が群落を作っている場所には放流したアワビが非常に多く生息している。これらがどうなっているのかは不明である。エゾノネジモクはアラメよりは付着力が弱いと考えられ、しかも浅場にあるので影響は大きいかも知れない。一般に、放流アワビは天然個体よりも付着力が弱いため、これらは大きな影響を受けた可能性がある。

今回調査を行なった場所では、多年生で非常に強く岩盤に固着するアラメが群落を形成しており、その群落内にいた動物の多くが残ったように見受けられる。牡鹿半島はアラメの分布北限に近く、我々がやはり震災以前から調査を行なっている岩手県大槌などではこれに代わって一年生のコンブ類などが群落を作っており、アワビの成貝はやはりこのコンブ群落内に多く生息している。このような場所ではどうなっているのか、近々調査を行なう予定である。

今回の1箇所の1回だけの調査で言えることは限られ、津波の影響は海底地形などによっても大きく異なるかも知れない。しかし、陸上の変わり果てた光景に比べ、海の中では生物が力強く生き残っており、とりあえず安心した。津波の影響は人間による乱獲の影響などよりもずっと小さいかも知れない。しかし、エゾアワビに関していえば、3歳以下程度の若齢個体が少なくなっていること、成貝も半減していること、放流個体が減っているかも知れないこと、今後の再生産に対する影響がわからないことなどから、これまでと同じような漁獲圧を加えることはさらに資源を減少させる原因となり、非常に危険である。科学的な根拠にも基づく資源管理がいっそう重要になったと思われる。

長年我々の調査に協力していただいている泊浜漁協では、保有していた約50艘の小型船外機船のうち現在残っているのは津波時に大型船に曳航して沖出しをした4艘のみだそうである。そのうちの1艘をお借りし、漁業者の方に船頭をお願いして、震災前と同様の調査を行なった。泊漁港の防波堤は大破し、港の桟橋は沈下して満潮時には水没するようになり、まだとても漁を再開できる様な状態ではなさそうであった。泊浜の港ばかりでなく、ここへ向かう途中の道沿いでは、家々が基礎部分を残してほとんど跡形もなく全て持ち去られ、一面焼け野原のような状況になった悲惨な光景が続いており、言葉も出なかった。震災の犠牲になった皆様のご冥福を心よりお祈りするとともに、被災した町や漁村が一刻も早く復興することを心から願っている。我々研究者は、調査・観測を通じて、津波が沿岸海洋生態系にどのような影響をもたらし、今後それがどのように変化するのかを詳細に解明するとともに、生態系の変化に応じた漁業や養殖業のあり方を示すことで、東北地方の漁業復興に少しでも役立ちたいと考えている。

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