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大槌湾の物理化学環境およびプランクトン調査(速報)

2011年6月9日

海洋化学部門 永田 俊
国際沿岸海洋研究センター 福田 秀樹

調査に利用させていただいた漁船

所内プロジェクト「大槌湾を中心とした三陸沿岸復興研究」の一環として、漁船を傭船して、5月26~27日に大槌湾での観測を実施した。(写真 調査に利用させていただいた漁船 撮影 永田俊)

今回の調査では、大津波の巨大なエネルギーによって大きく破壊された鵜住居川河口付近での河川水の挙動の変化の有無を検討するとともに、湾内の栄養塩環境や有機物の分布、またプランクトンや微生物の生物量についての基礎的データを取得することを目的とした。具体的には、鵜住居川河口付近から湾中央部にかけて20のグリッド観測地点を設定し、CTD観測(海水の塩分・水温鉛直分布調査)と表層水の採取を実施した。また一部の測点ではプランクトンと堆積物の採取もあわせて行った。採取した海水は栄養塩類、クロロフィル、懸濁態有機炭素・窒素、溶存態有機炭素・窒素、プランクトン分析に供する予定である。詳細な分析結果はまだ得られていないが、以下に、本調査を通して気がついたことを、速報的に報告したい。

1.湾奥に位置し、湾に流入する三つの河川の中でも最も流量の大きな鵜住居川の河口付近が大きく破壊されていた。このことが、河川水の流入のパターンを変化させている可能性がある。また、観測に協力いただいた漁師さんの話では、魚探で見る限り震災前と比較して湾の中央部付近で水深がかなり深くなっているという。今後、河口域や湾内の地形を精査する必要があるだろう。ちなみに、震災前に行われたOtobe et al. (2009)の研究によれば、大槌湾では春から夏にかけて県の北部から流れて来る津軽暖流水が湾の北側から流入し、湾奥で河川水と混合した後に湾の南側から流出していく流れが卓越し、秋から冬にかけては西風により湾の表面水が東側に開いた湾口から湾外へと押し出されると共に湾奥部で湧昇流が生じるとされている。このような湾内の循環が、今回の津波による河口域の破壊や海底地形の変化によって、どのように変化し、また、それが生態系にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることは重要な課題であろう。

2.鵜住居川の河口部を形成していた砂州は流され、川の護岸も流失している状態が観察された。この河口付近の根浜海岸にはアマモ場が形成されていたが、津波により海岸の砂浜自体が消滅した状態である。震災までは、湾内には多くのアマモ場やガラモ場が形成され、カキ、ホタテ、ホヤ、ワカメ等の養殖筏などが浮かぶ三陸沿岸部によく見られる豊かな沿岸生態系を形成していた。津波による生息場所の破壊のあと、どのように生物多様性や水産資源が回復していくのかを克明に追跡し、そのメカニズムを明らかにしていくことは、生態系の再生や水産業の復興のうえで重要な研究課題である。

3.津波の際に様々な人工物が海に引き込まれていった一方で、町には多くの海底泥が打ち上げられた。大槌湾の周辺ではこれらの泥が乾燥し、風が吹くと激しく土埃が舞い上がる状態である。今後、この状況は当分の間続くと予想される。また被災地では瓦礫の撤去が急ピッチで進められているが、これらは分別されることなく海辺の空き地に積み上げられている。こういった瓦礫から化学物質等が沿岸域に流出することが懸念される。早急に化学物質の監視体制を確立するとともに、長期的な注視と監視を行うことが必要である。

大槌町では、6月8日の時点でまだ982名の方が行方不明であり、その捜索活動が続けられている状況である。最後になるが、震災の犠牲になった皆様のご冥福を心よりお祈りするとともに、町が一刻も早く復興することを願わずにいられない。我々は、今回採取した試料の分析を進めるとともに、さらに調査・観測を継続し、震災による沿岸海洋生態系への中長期にわたる影響の把握に努めるとともに、東北地方の豊かな沿岸生態系の復活に貢献すべく努めたいと考えている。

引用文献
Otobe H, Onishi H, Inada M, Michida Y and Terazaki, M (2009) Estimation of water circulation in Otsuchi Bay, Japan inferred from ADCP observation. Coastal Marine Science 33: 78-86.

 漁港付近に野積みされた瓦礫
漁港付近に野積みされた瓦礫

 センター脇の破壊された防潮堤
センター脇の破壊された防潮堤

 津波前の大槌湾の全景.写真下部が鵜住居川河口部
津波前の大槌湾の全景.写真下部が鵜住居川河口部
 津波により破壊された鵜住居川河口部
津波により破壊された鵜住居川河口部

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