東京大学海洋研究所

全国共同利用・共同研究拠点

ナビゲーションを飛ばす

go to english page

facebook_AORI facebook_AORI

  • ホーム
  • 研究所概要
  • 教員&スタッフ
  • 研究活動
  • 共同利用
  • 進学希望の方へ
  • アクセスマップ

表題雲の組織化を直接計算できる数値モデルを用いた温暖化想定実験で熱帯低気圧の変化予測に大きな一歩

2010年4月22日

独立行政法人 海洋研究開発機構
国立大学法人 東京大学大気海洋研究所

1. 概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の大内和良特任技術研究副主任、山田洋平研究技術専任スタッフ及び佐藤正樹招聘主任研究員(国立大学法人東京大学大気海洋研究所(所長 西田睦)准教授)らは共同で、世界で初めて雲の生成・消滅を直接計算できる全球大気モデル(※1)を用いて地球シミュレータによる温暖化想定実験を行いました。
この実験により、気候が温暖化すると、地球全体での熱帯低気圧(台風およびハリケーンを含む)の発生数が減少し、一方では勢力の強いものの割合が増えるという気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(AR4)に記述された結果を裏付ける結果が得られました。
さらに、全地球の熱帯低気圧に伴う対流雲の高さを解析し、温暖化すると強い熱帯低気圧ほど雲の高さが上昇する傾向が強まるという結果が得られました。従来の研究では、熱帯低気圧の発生数と強度の変化は、積雲クラスター(※2)を直接表現できないモデルを用いて論じていたため、不確実性が大きいとされていましたが、積雲クラスターを直接表現できるモデルを用いたことにより、精度よく計算することができました。
今回得られた結果は、この種のモデルが熱帯低気圧などの将来変化の予測研究に有効であることを世界に先駆けて実証したものであり、地球温暖化等、気候変化の問題におけるモデル研究の新しい道筋をひらく画期的なものです。
本研究は、文部科学省21世紀気候変動予測革新プログラム(※3)における研究課題「全球雲解像モデルによる雲降水システムの気候予測精度向上」及び独立行政法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)(※4)の一環として実施したものです。
この成果は4月8日付けの米国地球物理学連合誌Geophysical Research Lettersに出版されたもので、4月22日付けの英国科学誌ネイチャーにNature Research Highlightとして紹介されます。

原論文タイトル: Projection of changes in tropical cyclone activity and cloud height due to greenhouse warming: Global cloud‐system‐resolving approach, Geophys. Res. Lett., 37, L07709, doi:10.1029/2010GL042518.
著者名:Yohei Yamada, Kazuyoshi Oouchi, Masaki Satoh, Hirofumi Tomita and Wataru Yanase

2. 背景 

IPCC AR4では、地球温暖化などの気候変化に伴って熱帯低気圧の勢力が強まり、全地球で発生数が減るという報告がなされていましたが、同第8章「気候モデルとその検証」の要旨では、全地球で熱帯低気圧の発生数が減少するとの予測については信頼性が低いと表現されています。 
この知見の根拠になった研究は、海洋研究開発機構の地球シミュレータの計算機資源を駆使した、当時の日本の高解像度気候モデルの計算結果に基づいたものですが、このモデルでは熱帯低気圧の表現に最も重要な積雲クラスターを直接計算することができないため、不確実性が大きいとされていました。
本研究で新たに導入した全球雲解像モデルでは積雲クラスターの生成や消滅を表現できるため、熱帯低気圧の発生や雲の形成はもちろんのこと、発生のきっかけとなる大気現象や発生域の大気循環を精度よく再現できることが、これまでの研究により示されてきました。 したがって、気候変化に伴って熱帯低気圧に伴う雲の特徴ばかりでなく、発生数や強さがどのように変化するかについても、従来の気候モデルよりも精度よく計算することができます。この新しいモデル計算では高性能の計算機資源が必要であり、ここでも地球シミュレータがその威力を発揮しました。

3. 実験の概要
海洋研究開発機構と東京大学では、地球シミュレータを使って大気モデルの飛躍的進歩をもたらすべく、大気循環と雲の生成・消滅の関係を直接計算できる超高解像度の全球大気モデルを開発してきました。この全球大気モデルを用いて、温暖化を想定した温室効果ガスおよび海面水温等の境界条件を与えて6ヶ月の温暖化想定実験(うちモデル気候調整期間1ヵ月)を行いました。 温室効果ガスのうち二酸化炭素濃度は21世紀末を想定した倍増のシナリオ(SRES A1B)に沿って与えました。 将来実験の比較対象とした現在気候実験は、2004年の大気および海面水温条件を与えた5ヵ月の実験です。温暖化想定実験の海面水温は、現在気候実験で用いたものに、CMIP3(※5)の複数モデルの計算から得られた将来と現在の海面水温の差を加えています。

4. 実験の結果
全球で計算された熱帯低気圧の最大風速と最小気圧の頻度分布をみると、いずれでみても現在実験よりも将来実験で強い(最大風速が大きく、最小気圧が小さい)熱帯低気圧の割合が増えていることがわかります(図1)。また、熱帯低気圧に伴う雲の高さの分布を、現在気候実験と温暖化想定実験で比較した結果、強い熱帯低気圧ほど雲の高さは高くなることは予想されるとおりですが、温暖化想定実験ではその傾向がより大きくなることがわかりました(図2)。

5. 今後の展望 
本研究は、積雲クラスターの生成・消滅を表現できる高解像度の大気モデルを用いた地球温暖化を想定した気候変化に伴う熱帯低気圧の変化を世界に先駆けて示しました。とくに、発生数、強度の変化という最も社会・経済的な関心の高い問題に対して、計算精度の高い本モデルを用いてIPCC AR4を裏づける結果が得られたことは大きな成果です。 
さらに、このモデルを用いたことにより、IPCC AR4の熱帯低気圧の変化予測において課題とされた、気候モデルに内在する雲の表現の不確定性が払拭され、熱帯低気圧の形成している雲そのものの変化も議論できることを示しました。これらの観点に加え、熱帯低気圧における降水をもたらす雲や降水の変化をみることで、熱帯低気圧に伴う降水の変化のより高精度かつ定量的な予測が可能になります。
この研究を発展させ、気候の将来変化に伴う熱帯低気圧の変化や熱帯低気圧をとりまく気候環境の変化を探求していくことは、全球雲解像モデルがきり拓く新しい研究の道筋を示しています。今後、計算機能力が向上し、より多く積分年数をとることが可能となれば、全地球のみならず各海域での熱帯低気圧の将来変化の一般的な傾向を導くことができます。各地域での影響の緩和策の基礎となる知見を得ることは、世界的に緊急を要する課題となっています。次世代の高性能な計算機資源が利用可能となれば、全球雲解像モデルを用いたこの方向の研究をより強力に推進できることが期待されます。

※1 世界で初めて開発された雲の生成・消滅を直接計算できる全球大気モデルは、全球雲解像モデル(NICAM)と呼ばれる。従来の全球大気モデルでは、高気圧・低気圧のような大規模な大気循環と雲の関係について、何らかの仮定が必要とされ、不確実性の大きな要因となっていた。大気循環に対して雲が直接に応答することにより、以前に比べ高精度の計算が可能になる。

※2 積雲クラスターとは、個々の積乱雲が群をなし、気象衛星の雲画像などでみたときに、1つの大きな雲の塊としてみえるものを一般的に呼ぶ。その水平スケールは数十kmから数百kmに及ぶ。熱帯域によくみられ、これらが大気の渦や波動、大気循環と相互作用するなどして、熱帯低気圧が発生する。眼の周辺の背の高い雲群や、その外側をとり巻くバンド状の雲列が形成・維持されている。

※3 文部科学省21世紀気候変動予測革新プログラムは、国際的に重要な政策課題であり、かつ、我が国の社会的関心と要請が高い気候変動問題に関して研究チームを編成し、高精度かつ高解像度の温暖化予測の実現を図るとともに、台風や集中豪雨などの極端現象の解析を通じて、自然災害リスクの影響評価を目指した研究を推進している。その成果はIPCC第5次評価報告書に貢献するものと期待されている。 

※4 JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)は、我が国の社会的・経済的ニーズの実現に向けて国(文部科学省)から示された戦略目標達成に向け、研究チームを編成し、インパクトの大きなイノベーションシーズ創出を目指して研究を推進していく。

※5 世界各国の大気海洋結合モデルを用いた相互比較プロジェクトに基づくデータセット

お問い合わせ先: 
(本研究について) 
独立行政法人海洋研究開発機構
 IPCC貢献地球環境予測プロジェクト 全球雲解像モデル温暖化研究グループ
 特任技術研究副主任 大内 和良 電話:045-778-5775
独立行政法人海洋研究開発機構 
 IPCC貢献地球環境予測プロジェクト 全球雲解像モデル温暖化研究グループ 招聘主任研究員 
国立大学法人東京大学大気海洋研究所 准教授
 佐藤 正樹 電話:04-7136-4399

(報道担当) 
独立行政法人海洋研究開発機構  
 経営企画室 報道室長 中村 亘 電話:046-867-9193
国立大学法人東京大学大気海洋研究所 
 広報室 佐伯 かおる 電話:04-7136-6430

本発表文は以下のサイトにも掲載いたします。 
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/index.html(海洋研究開発機構) 
http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/reserch/news/2010/20100422.html(東京大学大気海洋研究所) 
http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/jp/ (21世紀気候変動予測革新プログラム)

図1:現在気候実験(青)と温暖化想定実験(赤)で発生した熱帯低気圧について、(左)最大風速、および、(右)最小気圧の頻度分布図。温暖化想定実験(赤)が現在気候実験(青)より、最大風速の大きい方、最小気圧の小さい方の頻度が高いことが分かる。

全熱帯低気圧の最小気圧と雲頂の最大高度の散布図

図2:全熱帯低気圧の最小気圧と雲頂の最大高度の散布図。青は現在気候実験、赤は温暖化想定実験。直線は各実験における回帰直線。温暖化想定実験(赤)の方が最小気圧の低下に伴う雲頂高度上昇の傾向が強いことが分かる。

学術ニュース