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海底火山研究の新展開:トカラ列島周辺の浅海域で、大規模なガスプルームを伴う海底火山活動を洋上から音響測深・海洋化学観測によって確認

2014年10月1日

佐野有司・白井厚太朗(東京大学大気海洋研究所)
横瀬久芳(熊本大学)
石橋純一郎(九州大学)

トカラ列島周辺海域で実施された新青丸調査航海(KS-14-10次航海Leg2)において、第1奄美海丘および小宝島周辺海域で海底火山に伴う噴気(熱水)活動に由来したガスプルームを洋上から音響測深によって検知した。また、微地形解析を併用し噴出口を特定した後、CTD観測を実施して熱水活動を示唆する水塊の化学的変化を捉えることに成功した。これらの観測手法を含め、本航海で得られた成果は、浅海性海底火山の熱水活動探査や噴火のリスクマネージメント(解説[1])において有効な手段と成り得る事を示す。

はじめに

新青丸KS-14-10次調査航海Leg2(2014年6月28日~7月5日)は、東京大学大気海洋研佐野有司教授(海洋地球化学)を主席とし、九州大学石橋純一郎・准教授(熱水化学)や熊本大学横瀬久芳・准教授(海洋火山学)らによる共同研究としてトカラ列島周辺海域にける海底火山群(解説[2])で実施された。

基礎的学問の見地からみて、海底からの物質フラックスの定量はグローバルな海洋物質循環の解明にとって必要不可欠なデータであると言える。しかし西太平洋の島弧・背弧系熱水活動域の化学データは比較的乏しく,特に浅海熱水系の調査はかなり遅れている。本研究では、化学的に不活性な希ガス元素の海水中濃度とヘリウム同位体比を分析し、トカラ列島周辺海域におけるカルデラ(奄美カルデラ・宝島カルデラなど)の海底熱水系活動に伴う物質フラックスを見積もることを主目的としている。

調査海域における熱水探査においては、浅海のガスハイドレイト探査で定評のある、マルチビーム音響測深機によるウォータカラム画像(WCI)を、海底火山の熱水(噴気)活動探査に応用し、これまで国内ではほとんど研究例の無い、洋上からの熱水(噴気)口の特定を試みた。

具体的には、マルチビーム音響測深機(主にWCI観測)を用いて、海底の噴気(熱水)活動のプロキシーであるガスプルームを探査し、WCIと微地形解析によって噴出点を推定(動画)する。そして、CTD-RMSシステムやドレッジを用いて噴出口近傍の水塊や海底地質の調査を実施した。噴出口周辺における実態調査では、新青丸に搭載されたアジマススラスター2機によるダイナミックポジショニングシステムが、1ノット程度で黒潮が流れるトカラ列島周辺海域において、定点観測に近い船位保持状況を可能にした(動画)。また、WCIに表れたガスプルームの一般性を確認する目的で、これまでに海底噴気活動(たぎり)が詳しく調べられている活火山の若尊カルデラで、トカラ列島周辺海域と同様の調査も併せて実施した。

本調査航海によって、第1奄美海丘には、比較的大規模な噴気(熱水)活動が存在する事が確かめられ,海底活火山であると推定される。また、小宝島周辺海域では、浅海域に火山性微地形が多数確認されたほか、比較的小規模な活動中ガスプルームが複数個所で発見され、小宝島周辺海域も活火山である可能性が浮上した。

第1奄美海丘の噴気活動

海上保安庁(2013)の報告によれば、第一奄美海丘(図1a)の火口状地形周辺から熱水活動の兆候がAUVやXBTによって確認されている。本調査によって取得されたWCIにも、火口底から盛んに立ち上る多数のガスプルームを洋上から捉えることに成功した(図1b、動画)。最も活発なガスプルームは、水深350mから海面近くまで追跡可能で(図1b)、噴出口近傍で実施したCTDでは、濁度やpH に明瞭な変化が認められた(図1c)。さらに、噴出口(水深350m)周辺で実施したドレッジでは、新鮮な流紋岩質溶岩塊とそれに固着したシンカイヒバリガイ属の集合体や海綿などが回収され(図1d)、生物群がコロニーを形成している可能性が強く示唆された。

海上保安庁(2013)の報告と併せると、同地域では1年以上に渡って噴気活動が継続していると考えられ、第1奄美海丘は海底活火山の可能性が濃厚である。

小宝島周辺海域の噴気活動

小宝島を含めた宝島周辺海域は、これまで火山活動の存在しないサンゴ礁の島と考えられていた(例えば、20万分の1地質図幅「中之島及び宝島」)。宝島カルデラ周辺で実施した調査では、小宝島および沖曽根周辺に、明瞭な溶岩円頂丘群が新たに発見され、沖曽根南方では、陥没カルデラを取り囲む溶岩円頂丘群の存在も見出された(図2a)。また、小宝島周辺海域の3箇所からガスプルームが確認され、いずれも地形的に火口状凹地の最深部から立ち上っていた。小宝島南部に発見された最大のガスプルームは、火口状凹地の最深部(水深147m)を出発点として(図2b)、水深10mまで追跡可能であった(図2c)。この噴出孔近傍で実施したCTD観測でも、濁度とpHにおいて若干の変化が認められた(図2d)。火山活動に起因する現象(ガスプルーム、溶岩円頂丘)は全てが、NE-SW方向に規則的に配列し、地質学的関連性を示す(図2a)。

小宝島における高温温泉水は、地化学温度計での熱水貯留層内の温度が250℃~300℃と見積もっており(堤 ら、2014)、小宝島地下に潜在円頂丘の存在をほのめかす。おそらく、5500年~1600年前の放射年代を持つ小宝島の隆起サンゴ礁は、この完新世のマグマの貫入に起因したと推定され、浅海域で確認されるガスプルームや地形保存の良い溶岩円頂丘群の存在と陸上の研究は調和する。

ガスプルームの確認された海域は、フェリー航路の近傍にあたり、新たな噴火活動に発展した場合、マグマ水蒸気爆発が懸念される。小宝島周辺海域の精査や噴気活動のモニタリングは、リスクマネージメント上において重要な意味を持つであろう。

海底活火山の可能性

今回の調査で得られたデータを、活火山の基準(解説[3])に照らし合わせると、第1奄美海丘と小宝島周辺海域が海底活火山の要件を満たす事となる。これは、九州南部を含めた北部琉球弧の海面上に現れた活火山の分布密度を考慮しても何ら矛盾はない(図3)。今後は、更なる調査の進展と伴に、北部琉球弧の火山フロント上に存在する未調査海丘群の中から、海底活火山が発見される可能性は高い。

今後の発展

マルチビーム音響測深機によるWCIは、海底火山に伴われた噴気(熱水)活動のプロキシーとしてガスプルームが活用でき、微地形解析と合わせる事で洋上から噴出口の位置をかなりの精度で特定できる。更に、CTD観測を併用する事で、浅海性海底火山の熱水活動を洋上からある程度把握できると期待される。

南西諸島や伊豆―小笠原諸島の浅海域に存在する大半の海底火山は、その活動状況が不明のまま現在に至っている。本航海で用いた観測方法は、海底火山における活動状況の探査効率を飛躍的に向上させ(解説[4])、噴火の予兆を早期に発見する事や噴火の危険性が高い海域における活動状況の定常的モニタリングにおいて威力を発揮することが期待される。海上交通や沿岸域におけるリスクマネージメントにおいて、本研究手法が今後これらの研究に対して重要な位置を占めるものと思われる。なお、この研究の一部については、9月に富山大学で開催された日本地球化学会年会や11月に福岡で開催される火山学会にて発表される。

問い合わせ先

航海全般:東京大学大気海洋研 佐野有司 ysano◎aori.u-tokyo.ac.jp
                    白井厚太朗 kshirai◎aori.u-tokyo.ac.jp
海底火山活動: 熊本大学   横瀬久芳  yokose◎sci.kumamoto-u.ac.jp
海底熱水化学: 九州大学   石橋純一郎 ishibashi.junichiro.779◎m.kyushu-u.ac.jp

メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

図の説明

動画.第1奄美海丘におけるマルチビーム測深機のWCIを用いたガスプルーム探査の様子。

(動画のダウンロード(1967KB))
 

(345KB)

図1.第1奄美海丘に於ける海底噴気活動。(a)第1奄美海丘の海底地形図(地形データ:海上保安庁提供)およびCTD観測点の位置。(b)WCIのビーム状データ表示。(c)噴出口近傍に認められる海水中の濁度およびpHの変化。(d)噴出口周辺で実施したドレッジで採集された流紋岩質溶岩片とそれに固着したシンカイヒバリガイ属および海綿。
 

(310KB)

図2.小宝島周辺海域の海底噴気活動。(a)小宝島周辺海域の海底地形図。 (b)ガスプルーム噴出口周辺の微地形。 (c) WCIのデカルト座標での拡大表示。(d)噴出口近傍に認められる海水中の濁度およびpHの変化。
 

(302KB)

図3.トカラ列島周辺海域における活火山の分布状況とガスプルームを確認した地点(赤星印)。

解説資料[1]~[4]

[1] 近年の海底火山活動: 海面上に比べ、海底火山の活動状況を捉えることは一般に難しい。しかし、海底の火山活動は、決して稀な現象ではなく、日本近海の浅海域でも多発生している。例えば、火山噴出物が海面上に到達した噴火活動には、小笠原海嶺上の西之島新島(噴火期間:1973年~1974年、2013~現在)、伊豆諸島の明神礁(噴火期間:1952年~1953年)そして薩摩硫黄島北に位置する昭和硫黄島(噴火期間:1934年~1935年)など記憶に新しい。更に、浅海域における噴火では大規模なマグマ水蒸気爆発が発生する事も多く、伊豆東部火山群の手石海丘(1989年噴火)や前述の明神礁噴火が有名である。特に明神礁の噴火では、測量船が被災し、人的被害が発生した。海上交通におけるリスクマネージメントの観点から海底火山活動の実態把握は極めて重要な研究・調査対象である。

[2] トカラ列島周辺海域の活火山: トカラ列島周辺海域を含む北部琉球弧には、霧島山、米丸・住吉池、若尊、桜島、池田・山川、開聞岳、薩摩硫黄島、沖永良部火山、口之島、中之島火山、諏訪之瀬島火山、硫黄鳥島からなる12の活火山が認定されている(噴火予知連絡会、2011)。しかし、トカラ列島周辺海域における海底火山活動の報告・研究は、2013年10月に海上保安庁によって熱水活動の可能性が示唆された第1奄美海丘のみである。

[3] 火山噴火予知連絡会(2003)は、「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義し直し、2011年には110個の火山を活火山として認定した。これまで、観測上の困難さから、海面下の火山を対象として議論される事は少なかった。

[4] 海底火山の熱水(噴気)活動の実態把握は、ROVなどの潜水調査船による海底観測が主体であり、広域をカバーする事が困難であった(ROV観測の範囲=幅数メートル*船速0.5ノット)。そのため未調査の浅海域が、数多く残されている。一方、今回の調査と同様に、マルチビーム音響測深機(+WCI解析)とCTD観測を併用する事で、海底火山の熱水・噴気活動を洋上から効率良く把握することが可能となる。洋上から観測できる範囲は、幅数百メートル*船速5ノットとなり、1時間あたりの探査面積はROVなどに比べ1000倍以上に達する

研究トピックス