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見えない海底火山の活動を希ガスを使って調査する

2021年12月2日

発表のポイント

♦鹿児島湾北部に存在する海底火山において海水に溶けているヘリウムを調べたところ、陸上の桜島と同様に火山活動が活発化していることがわかりました。
♦この海底火山と桜島はマグマだまりが同じと考えられますが、火山ガスの放出量は桜島の方がかなり多く、マグマの主要な通り道は桜島であると推定されます。
♦地震計などの地球物理学的観測だけでなく、火山ガスの化学組成という地球化学的観測も火山活動を調査する上で有効と言えます。

発表者

ナカジマ エスコバル マ テレサ(東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)
高畑 直人(東京大学 大気海洋研究所 助教)
白井 厚太朗(東京大学 大気海洋研究所 准教授)
鹿児島 渉悟(研究当時:東京大学 大気海洋研究所 特任助教/現:富山大学 理学部 特命助教)
田中 健太郎(東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)
小畑 元(東京大学 大気海洋研究所 教授)
佐野 有司(研究当時:東京大学 大気海洋研究所 教授/現:高知大学 海洋コア総合研究センター 特任教授・センター長)

発表概要

鹿児島湾北部には若尊カルデラ(注1)と呼ばれる活動中の海底火山があります。しかし火山が海面の下にあるためその活動が見えず、陸上の桜島のような綿密な観測が行われていません。しかしマグマを供給するマグマだまりは桜島と同じと考えられていて、桜島の火山活動が活発化した場合には海底火山の若尊カルデラの活動にも注意する必要があります。東京大学大気海洋研究所のナカジマ特任研究員らの研究グループは、海水に溶けているヘリウム(注2)に着目して海底火山の活動度を評価することに成功しました。この成果は、これまで地震活動などの地球物理学的観測が中心であった火山観測において、火山ガスを観測する地球化学的な手法も有効であることを示すものであり、今後新たな観測手法として活用されることが期待されます。

発表内容

【背景】
鹿児島湾北部には過去の巨大噴火でできた姶良カルデラがあり、その中には陸上火山の桜島の他に海底火山である若尊カルデラが存在します(図1)。若尊カルデラの深さは200mととても浅く、周辺にはたくさんの人が住んでいることから、噴火が起これば大きな被害が予想されます。実際過去に海底噴火により津波が発生していて、鹿児島市のハザードマップでは10mを越す津波が想定されています。しかし海底火山の若尊カルデラは海面下にあるため、陸上火山の桜島に比べてほとんど調査されていません。同じ姶良カルデラに存在する桜島と若尊カルデラは同じマグマだまりからマグマが供給されていると考えられています。桜島の火山活動は2010年頃から活発化し、2015年には激化したことがありました。これに関連して海底火山の若尊カルデラにも変化があったかを調査しました。

【研究内容】
海底火山は目に見えず、その活動の変化を捉えるのが難しいため、比較的浅い若尊カルデラであってもほとんど調査されていませんでした。本研究では、海水や海底堆積物中間隙水(注3)に溶けているヘリウムの同位体に着目し、海底火山の活動度を評価しました。カルデラ内では海底から熱水が噴出し、熱水には火山ガスが含まれています。熱水はすぐに周りの海水に希釈されますが、希ガスは化学反応を起こさず生物にも取り込まれないため、起源の情報をよく保持しています。希ガスの中でもヘリウムの同位体比(3He/4He比)がマグマの状態を知る指標になります。たとえ海水に希釈されても、もともとの熱水に溶けている火山ガスの3He/4He比、つまりマグマの3He/4He比を推定することができます。そしてこの比が高いほどマグマ活動が活発であることを示しています。このようにして2010年、2014年、2015年の3回調査したところ、マグマの3He/4He比は2010年頃から上昇して桜島と同様に海底火山も活発化したことがわかります。一方、2015年では3He/4He比に大きな変化は見えないことから、海底火山で活動が激化した兆候は見られませんでした(図2)。

火山ガスの主成分は水蒸気や二酸化炭素ですが、二酸化炭素からも火山活動を調べることができます。ヘリウムと一緒に二酸化炭素を測ることで、それらの起源や放出量がわかり、桜島と若尊カルデラは同じマグマだまりからマグマが供給されていることがわかりました。そして火山から放出されるガスの量は、若尊カルデラより桜島の方がかなり多いことがわかりました(図3)。このことから現在のマグマの主要な通り道は桜島であることがわかります。

【今後の展望】
海底火山から放出された熱水由来のヘリウムはしばらくカルデラ内にとどまるため、リアルタイムで観測しなくてもある期間の平均的な活動度を評価できると考えられます。火山観測に地震活動や地殻変動などの地球物理学的観測が有効なのはもちろんのこと、水面下で見えない海底火山の活動を調べるには、火山ガスを調べる地球化学的な観測も今後重要になってくると期待されます。また水深200mから海水を採取するには研究船と特殊な器具が必要ですが、海面で見られるたぎりと呼ばれる海底から立ち上ってくるガスを採取し観測することでも海底火山の活動を調べられる可能性があります。

発表雑誌

雑誌名:「Geochimica et Cosmochimica Acta」(2021年11月5日付)
論文タイトル:Monitoring the magmatic activity and volatile fluxes of an actively degassing submarine caldera in southern Japan
著者:M. Escobar Nakajima, N. Takahata, K. Shirai, T. Kagoshima, K. Tanaka, H. Obata, Y. Sano
DOI番号:10.1016/j.gca.2021.10.023
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1016/j.gca.2021.10.023このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学 大気海洋研究所 海洋化学部門
助教 高畑 直人
E-mail:ntakaaori.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1:カルデラ
火山噴火でできた大きな凹地。
注2:ヘリウム
希ガス元素の一つで、その同位体比(3He/4He比)は海水とマグマで大きく異なる。これを利用して火山活動を評価することができる。
注3:間隙水
堆積物中に含まれる水のこと。海水のことが多いが海底から湧き出す熱水が含まれることもある。

添付資料

図1.(a) 姶良カルデラと若尊カルデラの位置。鹿児島湾の中にある。(b) 試料採取点(赤丸)とカルデラの範囲。(c) カルデラの深さ。若尊カルデラは姶良カルデラの中にあり、お椀状の形をしている。海底から供給される熱水はカルデラ内部に溜まっている。

図2.若尊カルデラに供給されるマグマ中のヘリウム同位体比(3He/4He比)の時間変化。1980年代に比べて2010年からは同位体比が上昇しており、火山活動が活発化したことを示している。2015年には大きな変化はなかった。

図3.若尊カルデラの熱水系の概要図。桜島のマグマと共通であるが、供給量は桜島と比べるとかなり少ない。数値は、火山ガスの主成分である二酸化炭素(CO2)とマグマの指標となるヘリウム-3(3He)の供給量を表している。

研究トピックス