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西太平洋のプレート境界における天然ガスの起源

2017年11月16日

佐野 有司 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 教授
木下 直哉 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 元大学院学生
高畑 直人 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 助教
鹿児島 渉悟 東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析研究センター 特任助教

湿地・水田などの浅部で発生するメタンと比べて、深部由来のメタン形態での炭素循環については未知の点が多かった。東京大学大気海洋研究所の佐野教授らは、日本・台湾で採取した天然ガスの化学組成・同位体組成を調べることによって、深部由来メタンの起源を明らかにし、西太平洋の収束するプレート境界における地殻構造について制約を与えた。メタンの炭素同位体や炭化水素の組成に加え、マントル成分の混合に敏感な3Heなどのデータとの比較を行うことで、精密なメタン循環・起源の推定が可能となった。火山熱水系で生成する非生物起源のメタンの混合率は、南台湾・秋田・新潟では比較的高く、南関東では無視できるほど低かった。このことから、南台湾・秋田・新潟では火山活動・マグマの存在によるガス組成への影響が比較的大きいと考えられる。当該地域では南関東よりも高い熱流量、遅い地震波速度、低い重力異常が観測されており、これらの観測値はガス組成から推定される地殻構造の違いを支持する。

揮発性元素が火山活動などを通じて地球内部から放出されることによって、表層環境に影響を与えてきた。CO2などの酸化物形態での炭素の物質循環はよく調べられてきたが、メタンをはじめとする炭化水素の形態では、湿地・水田での生物活動等による浅部起源の物質循環と温室効果への影響は比較的調査がされているものの、深部循環については未知の点が多い。深部由来のメタンは火山熱水系で生成される非生物起源の成分と、堆積物中の有機物の分解によって生成される成分とに大別され、これらを伴う天然ガスの化学組成・同位体組成は地殻構造を反映していると考えられる。本研究では、西太平洋プレート境界で前弧・火山弧・背弧などが組み合わさった構造を持つ日本・台湾において、深部由来メタンを伴う天然ガスの組成と地殻構造との関係について地球化学的手法で調査を行った。ヘリウムの同位体である3Heは敏感なマントル成分のトレーサーであるため、ヘリウム同位体比(3He/4He比)は深部物質循環・地殻構造を紐解く上で重要な情報を与える。そのため本研究ではCH4/3He比に着目し、さらに炭素・窒素・アルゴン同位体比などを基にして、メタンを多く含むガスの起源を調査した。

図1に示すガス田や泥火山でガス試料を採取し、実験室に持ち帰り分析を行なった。メタン、窒素、ヘリウム、アルゴンを含む化学組成を四重極型質量分析計で測定し、メタンの炭素同位体比(13C/12C比)および窒素同位体比(15N/14N比)をコンフロー型気体用質量分析計で測定した。試料中の窒素が微量である場合は、高感度分析を行なうためガスを拡散させて気体用質量分析計に導入し、窒素同位体比を測定した。ヘリウム同位体分析については、精製過程で四重極型質量分析計を用いて4He/20Ne比を分析した後、希ガス用質量分析計で3He/4He比を測定した。また、アルゴン同位体比(40Ar/36Ar比)を四重極型質量分析計で測定した。炭素・窒素同位体比はそれぞれδ13C値、δ15N値(‰:注1)で表す。

図2に示すように、メタンの炭素同位体比と、エタン・プロパンに対する濃度比からガスの起源に関する情報が得られる。南関東のメタンは微生物活動による生成で説明できるのに対して、秋田・新潟のメタンの起源はほぼ有機物の熱分解で説明可能である。南台湾のメタンは、熱分解起源のガスが移動に伴って分別したものと解釈できる。また、トカラ列島の海底熱水は中央海嶺で放出される成分に近く、天然ガスとは異なる非生物的な起源を持つことが明らかとなった。中央海嶺的なメタンの寄与は、トカラ列島 > 南台湾 = 秋田・新潟 > 南関東の順番で大きく、マントル成分の寄与を反映するヘリウム同位体比についても同様の傾向が見られた。

微生物活動・熱分解・中央海嶺的成分によるメタンの混合率を推定するために、CH4/3He比を取ることで三成分の混合を議論した(図3)。サンプルのデータが混合曲線の内側に入るため、それぞれの端成分の寄与を計算することが可能である。端成分の混合率を地域ごとに計算すると、南関東では91%が微生物活動起源であるのに対し、秋田・新潟では50%以上が熱分解起源であり南台湾と近い混合率を持つことが分かった。中央海嶺的なメタンの寄与は、トカラ列島 > 南台湾 ≧ 秋田・新潟 > 南関東の順番で大きく、図2で炭化水素の組成のみから推定される寄与と同様の傾向が見られた。

高温の火山ガスなどに含まれる窒素・アルゴンの同位体組成は、大気・マントル・堆積物成分の混合で説明できることが知られており、これらを調べることで天然ガスの起源にも制約を与えた。メタン・ヘリウムの場合と同様に、窒素とアルゴンを比較することで得られる三成分の混合曲線を図4に示す。マントル起源の窒素の混合率は、南台湾 > 秋田・新潟 > 南関東の順番で高く、非生物起源メタンの寄与と同様の傾向となった。

各地域の天然ガスの組成と起源、地殻構造を図5に示す。南関東のガス組成は、火山活動が存在しない前弧の低温環境で、微生物活動によってメタンが生成されたことを示す。秋田・新潟のガス組成には、マグマの熱によって有機物が分解して生成したと考えられるメタンの寄与が見られる。南台湾のガス組成は火山活動の存在を反映しているだけでなく、プレート同士が衝突することによって形成される地殻構造に影響を受けていると考えられる。非生物起源メタンの寄与は南台湾で0.34%、秋田・新潟で0.21%である一方、南関東では0.0008%と無視できるほど小さい。火山活動・マグマの存在によるガス組成への影響が比較的大きいと考えられる南台湾・秋田・新潟では、南関東よりも高い熱流量、遅い地震波速度、低い重力異常が観測されており、これらの観測値はガス組成から推定される地殻構造の違いを支持している。

発表雑誌:
雑誌名:Scientific Reports(オンライン版:11月15日)
論文タイトル:Origin of methane-rich natural gas at the West Pacific convergent plate boundary
著者:Yuji Sano, Naoya Kinoshita, Takanori Kagoshima, Naoto Takahata, Susumu Sakata, Tomohiro Toki, Shinsuke Kawagucci, Amane Waseda, Tefang Lan, Hsinyi Wen, Ai-Ti Chen, Hsiaofen Lee, Tsanyao F. Yang, Guodong Zheng, Yama Tomonaga, Emilie Roulleau, Daniele L. Pinti
DOI番号:10.1038/s41598-017-15959-5
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-017-15959-5このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先:
鹿児島渉悟(東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析研究センター 特任助教)
kagoshimaaori.u-tokyo.ac.jp
佐野有司(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 教授)
ysanoaori.u-tokyo.ac.jp              ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説:

(注1)δ13C値、δ15N値
炭素同位体比のPee Dee Belemniteに対する変動、および窒素同位体比の大気に対する変動を千分率(‰)で表したものがδ13C値、δ15N値である。

図1. サンプリングサイト
本研究では秋田・新潟、南関東、南台湾で採取したガス試料を分析し、海底熱水域のデータとの比較を行った。図はOcean Data Viewソフトウェアで作成した。

図2. メタンの炭素同位体比と炭化水素組成の関係
影(星印)は端成分(微生物活動・熱分解・中央海嶺的成分)の組成、点線は混合曲線、矢印は分別による組成変化の傾向を示す。

図3. メタンの炭素同位体比とCH4/3He比の関係
影(星印)は端成分(微生物活動・熱分解・中央海嶺的成分)の組成、点線は混合曲線を示す。

図4. 窒素同位体比とN2/36Ar比の関係
星印は端成分(大気・マントル・堆積物)の組成、点線は混合曲線、矢印はガス移動に伴う分別による組成変化の傾向を示す。

図5. 天然ガスの組成と地殻構造

研究トピックス