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中央アメリカ・コスタリカの沈み込み帯における深部窒素循環

2017年10月25日

李炫宇 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 特任研究員
(研究当時 ニューメキシコ大学地球惑星科学教室 博士課程学生)
Tobias P. Fischer ニューメキシコ大学地球惑星科学教室 教授
Zachary D. Sharp ニューメキシコ大学地球惑星科学教室 教授
高畑直人 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 助教
佐野有司 東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 教授

生物が関与した地球表層での窒素循環については、生態系プロセスや食物連鎖、土壌肥料、海洋での脱窒に関連して多数の研究例があるが、地球深部のマントルに至る窒素循環については未知の点が多い。世界の沈み込み帯において、これまでの研究ではマスバランスの計算や高圧変成岩中の窒素濃度から、表層の窒素がマントルに逆流しているとされた。一方、中央アメリカにおいて、沈み込んだ堆積物起源の窒素が大気にリサイクルする効率について提唱されてきた。本研究では、コスタリカの前弧域および火山フロント付近の温泉・鉱泉で採取した試料中の窒素や希ガスを含む揮発性元素の同位体組成の測定結果から、表層からマントルへの窒素の逆流は、沈み込むプレートの構造と関連していることを明らかにした。地理的に北緯9度-11度の中央アメリカで沈み込む海洋プレートには多数の海山が存在し、この地形的突起がプレート境界面の上盤と物理的に干渉して、前弧を構成する地殻物質を削剥して沈み込むため、重い同位体比をもつ遠洋性堆積物起源の窒素の寄与が相対的に小さくなり、最終的に陸上の温泉・鉱泉で軽い窒素同位体比が得られたのであろう。一方で、この結果はコスタリカでは重い同位体比の窒素がマントルまで沈み込み逆流していることを示唆する。

収束するプレート境界の島孤-海溝系では、沈み込む流体がマグマの生成に大きく寄与している。また、地下深部で沈み込むプレートから脱ガスする揮発性元素が島孤のマグマの成因とされている。このように沈み込みに伴う地球化学的プロセスは、地表からマントルに至る深部物質循環を支配するとともに、マントルの化学的不均一を引き起こす要因になっている。中央アメリカのプレート境界にあるコスタリカ沈み込み帯では、海洋底の掘削コア、前弧域の温泉、鉱泉、火山フロントの火山ガスなど様々な地球化学試料が入手可能であり、マスバランスを議論するには最適の場所である。本研究では、揮発性元素の中で化学的に比較的安定な窒素に注目して、コスタリカ沈み込み帯の地球化学的研究を行った。

図1が示す中央アメリカ・コスタリカの前弧域(赤丸、黄丸)と火山フロント域(赤丸)の温泉、鉱泉、深井戸において、遊離ガス温泉水、地下水を採取した。実験室に試料を持ち帰り、真空ラインを用いて溶存気体を抽出し、主成分および微量成分を四重極質量分析計とガスクロマトグラフィーにより測定した。窒素同位体はコンフロー型気体用質量分析計を用いて分析した。窒素同位体比はδ15N値(大気の15N/14N比からのずれを千分率で示す:‰)で表される。ヘリウム同位体比は精製、分離後に希ガス用質量分析計を用いて測定した。ヘリウム同位体比は大気の値(3He/4He=1.38x10-6)で規格化したRa値で示す。


図1 コスタリカ沈み込み帯の地図

コスタリカ前弧域および火山フロント域の試料は、最南部の2つの試料(Osa, Burica)を除くと軽いδ15N値(-4.4〜1.6‰)を示し、この地域の火山ガス(-3.0~1.9‰)と同等の値である。この結果はニカラグアやガテマラなど他の中央アメリカ地域の火山ガスの値より軽く、+7‰のδ15N値を持つ沈み込んだ遠洋性海底堆積物の影響が少ない(図2)。試料中の窒素を窒素同位体比と窒素/ヘリウム比に基づく3成分(大気、マントル、堆積物)の混合モデルで解析すると、前弧域の試料における堆積物の寄与は0-3%であり、火山フロント域の試料の寄与(0-36%)より小さい。この結果は、沈み込みとともにプレートから窒素が脱ガスしていくプロセスを示す可能性がある。一方、ニカラグアやガテマラでの寄与(46-96%と20-90%)に比べるとコスタリカでは堆積物の寄与が明らかに小さい。コスタリカの火山の溶岩に含まれる宇宙線照射核種であるベリリウム-10濃度はニカラグアの溶岩より小さく、沈み込んだ海洋性堆積物が少ないことを示唆する。火山岩に含まれる他の地球化学的パラメータ(Ba/La比、鉛同位体比、ネオジウム同位体比)もこの傾向を支持している。


図2 窒素同位体比の緯度変化

コスタリカの温泉、鉱泉試料で堆積物起源の窒素の寄与が小さいことは、上盤プレートの一部(付加体など)が削られて海洋プレートとともに深部へ沈み込む構造性侵食作用により説明される(図3)。中央アメリカでは、ココス・プレートがカリブ・プレートの下に南西から北東に向けて潜り込んでいるが(図1)、北緯9度-11度のココス・プレートには多数の海山が存在し、この地形的凹凸が上盤プレートと干渉して、地殻物質を削剥して沈み込むため、重い窒素同位体比をもつ堆積物の寄与が相対的に小さくなり、最終的に陸上の温泉・鉱泉で軽い窒素同位体比が得られたのであろう。汎世界的に沈み込み帯を眺めると、多数の海山が沈み込むインドネシア・サンギヘ諸島やマリアナ弧でも、コスタリカと同様に軽い窒素同位体比が観測されており、構造性侵食作用が深部窒素循環に重要な役割を果たしているのだろう。


図3 沈み込み帯の構造性浸食作用の模式図

発表雑誌
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Nitrogen recycling at the Costa Rican subduction zone: The role of incoming plate structure
著者:Hyunwoo Lee, Tobias P. Fischer, J. Maarten de Moor, Zachary D. Sharp, Naoto Takahata, Yuji Sano
DOI: 10.1038/s41598-017-14287-y

問い合わせ先
高畑直人(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 助教)
ntakaaori.u-tokyo.ac.jp
佐野有司(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門 教授)
ysanoaori.u-tokyo.ac.jp              ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

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