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寒冷気候が卓越する北日本での最寒期の世界最古級の土器と石鏃の発明

2017年6月7日

川幡穂高(東京大学大気海洋研究所)

土器は焼成による人類最初の工業製品と言えるもので、その発明と発展は、考古学研究のみならず一般人にも関心の高いトピックスである。さらに土器の使用により水は殺菌され、人々の衛生レベルは格段に向上した。さらに、「煮る」ことで、デンプンの食用範囲は広がった。興味深いのは、中東では、農業開始後、数千年間を経て土器が出現した。ヨーロッパでは、農業開始と土器が出現は、ほぼ同時期であった。一方、日本を含めた極東では、土器の出現は農業開始に数千年間先行した。日本の場合、縄文時代の開始は、基本的に縄文土器の出現とそれに伴う文化の誕生によってもたらされた。土器の発展は、気候変動やそれに伴う生態学的変化により促進されたようだが、定量的な環境因子との関連は、ほとんど議論されてこなかった。現在のところ、青森県大平山元遺跡で発掘された石鏃が世界最古、土器も世界最古級で、出現は16,500-15,500年前とされる。

ヒマラヤ山脈など植生寒冷限界域を除くと、高精度の夏期の気温復元方法は、これまでなかった。アルケノン水温と気温とは高い相関を示し、これを利用し、新たな方法で、本州最北端の下北半島沖(MD01-2409地点)において過去2万7千年間の温度(気温、水温)気温を復元した(誤差0.2℃程度)備考1。最高水温は19.4℃(気温は20.0℃、6,660年前)、最低水温は8.7℃(気温は5.2℃、15,680年前)であった。通常、最終氷期最盛期という大陸氷床が最大となった時期に最寒期だったと思われるかもしれない。しかし、日本列島北部では、この時期でなく、ハインリッヒ事変と呼ばれる北部北大西洋が発信源の地球的規模での気候異常期に最も寒かった。実は、この時期には、中国の鍾乳洞の石筍記録より、夏期アジアモンス-ンが最も弱体化していた。南方からの温かい風が弱まったため、冷夏となったらしい。最寒期の温度を現在の青森周辺の水温(~15.7℃)、気温(~16.7℃)と比べると約7~11℃低かったことになる。このことは、ホモ・サピエンスが日本列島に居住して以来(3万8千年間)、「世界で最古級の土器と石鏃」は、日本列島の寒冷地域で、彼らが経験した最寒期に発明されたということになる。

彼らが経験した夏は、北海道東部の根室や納沙布岬の濃霧による現在の夏より、さらに冷たかったと判断される。縄文人の生活は、冷夏による陸域環境の劣化により実りも期待できず、とても厳しいものであったが、幸い魚介類は豊富であった。そこで、水産資源を縄文土器で煮て、「海鮮鍋」を楽しんでいたはずである。この結果は、土器付着有機物の精密化学分析の最近の結果と整合的である。世界的に、気候と土器の出現は、直接的な関係でないとする説もあるが、少なくとも日本では、世界で最古級の土器と石鏃は、日本列島の温暖な地域でなく、寒冷地域でしかも最寒期に出現したことが特徴である。

なお、氷期から完新世に移行する融氷期のボーリング/アレレード温暖期、先ボーリアル温暖期には、海洋生物資源の生産は増加した。これらの短期的に最大で7℃の温度上昇は、持続時間が1世紀未満でであった。これは現代の温暖化を上回る位の急激なものであった。

備考1:陸の近傍に広がる湾では、海水の熱容量が高いために、冬期を除くと水温が気温との間に強い相関のある特性があります。
 

Quantitative reconstruction of temperature at a Jōmon site in the Incipient Jōmon Period in northern Japan and its implications for the production of early pottery and stone arrowheads by KAWAHATA, H., Ishizaki, Y., Kuroyanagi, A., Suzuki, A., Ohkushi, K., Quaternary Science Reviews, 2017, 157, 66-79.

Hodaka KAWAHATA:
Corresponding author
Email: kawahataaori.u-tokyo.ac.jp        ※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい
Tel and fax: +81-4-7136-6140

Key words: Temperature(温度,SST=表層海水温,AT=気温), Climatic change(気候変動), Jomon people(縄文人),pottery(土器), stone arrowheads(石鏃), Japan(日本)
 

大平山元1遺跡の石鏃(世界最古)と縄文土器(世界最古級)

図の説明(原論文のFigure 3を改変) 

27000年間のアルケノン水温(a)三陸コア(PC6)のアルケノン水温(Minoshima et al., 2007)、(b)グリーンランドのGISP2コアの酸素同位体比で、基本的に上空の気温を表す(O'Brien et al., 1995; O’Brien et al., 2011)、(c)中国の鍾乳洞の石筍の酸素同位体比で、夏期アジアモンス-ンの強度を表す(Wang et al., 2001; 2008)。PBは先ボーリアル温暖期(期間4)、YD新ドリアス期(期間5)、B/Aはボーリング/アレレード温暖期(期間6)、H1はハインリッヒ事変1(期間8)、LGMは最終氷期最盛期(期間10)。Tsugaru Current, Oyashio Currentは、津軽海峡を覆っていた津軽暖流、親潮寒流を表す
 

読売新聞2017年5月10日 朝刊掲載

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