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サンゴが語る過去の黒潮と全球の海の流れ

2017年2月20日

横山祐典 (東京大学 大気海洋研究所 教授)
平林頌子 (東京大学 大気海洋研究所 博士課程学生)
宮入陽介 (東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)

熱帯や亜熱帯の海岸に見られる、サンゴ礁を作るサンゴ(造礁サンゴ)は共生藻と呼ばれる藻類を持ち光合成をして成長します。造礁サンゴは光の届く表層に生息することから、過去の海水準変動、ひいては南極などの氷床がどの程度安定していたかを探る重要な指標です。また、サンゴにはこれに加え、光の届かない深海に棲息する深海サンゴがあります。これらサンゴの骨格は炭酸カルシウムで構成されており、海洋のサンプルの中で唯一、ウラン系列年代測定法が適用できるため、過去30万年間という長い時間の記録を高精度で復元することのできる重要なツールとなっています。

今回、大気海洋研究所のグループは、サンゴが検出した二つの流れについての研究を発表しました。

一つは深海サンゴがとらえた、氷期から間氷期にかけてのウラン元素の流れの変化です。

私たち研究のグループは、最近イギリスのグループが発表した、大西洋と太平洋の深海サンゴのウラン同位体分析結果とモデリングの研究についての解説論文を、アメリカの科学誌サイエンスに発表しました。

海水中では、ウラン (U) の同位体である234Uが地球上の平均値に比べて過剰に含まれています。この特徴を使うことでウラン系列を用いた年代決定を高精度に行うことができます。イギリスの研究グループは、私たちが以前の研究で浅海に生息する造礁サンゴで発見していた海水中のウラン同位体比 (234U/238U)の時間変動を深海サンゴでも検出し、かつて北米大陸に存在していた高さ3,000mの氷床が大規模に融解したことで、陸からのウラン同位体の供給プロセスに変化が起こったこと、また全球をおよそ1,000年で循環する海洋循環の変化も起こったことを結論づけました。

これは、アメリカの研究チームが2005年に発表した、ウラン系列年代の新しい計算手法である、海洋の変化に伴うウラン同位体比の変化が生じないという前提に基づいた、オープンシステム法が正しくないことを結論づける重要な発見です。

大気海洋研究所に設置されている加速器質量分析装置は炭素—14(14C)年代測定法をわずかな試料量でも高精度で行うことができます。14C年代測定法は、過去5万年前の試料まで適応することが可能であり、全球規模の海水準変動や氷床変動復元を精密に復元することが可能です。しかし、それより古い年代については、直接年代決定を行うことができるツールがウラン系列年代測定法しかないため、この年代測定法の高精度化は広く海洋学、雪氷学、気候変動学などの分野にとって重要です。南極氷床の氷のコアに記録された気温や二酸化炭素と海水準変動(つまり氷床量の変化)とがどのような前後関係で起こっているかを議論する上でも、地質イベントの年代決定が正確であることが重要です。

例えば、一つ前の現在と同様の気候状態である最終間氷期という気候状態のタイミングは、オープンシステム法と従来の手法では5,000年もズレが生じるということを報告しており、過去10年間の古気候研究における重大な問題点でした。オープンシステム法では、海洋の変化に伴うウラン同位体比の変化が生じないという大前提に基づいていたために起こった問題でした。この点について、深海サンゴが新しいデータを提供したことで、この大きな問題が解決したのです。

また、過去100年間の日本近海の海水の流れ(海流)についての復元も、サンゴを使うことで明らかにできます。大学院生の平林らを中心として行った研究では、大気中で作られる14Cが、海にどのように拡散されているのかについて、黒潮の流れの変化がエルニーニョや太平洋十年規模振動などと連動して変化していることをとらえることに成功しました。

研究にもちいたサンゴは日本で最大のハマサンゴ群体と考えられる鹿児島県喜界島から採取された個体と、沖縄県石垣島の長い寿命を持ったサンゴ個体です。これによると、海況の機器観測ネットワークが整う前の20世紀前半に、黒潮の流れの変化が起こっていたことが初めて明らかになりました。

このように海水に含まれるごく微量な化学種を取り込むサンゴの骨格と、加速器質量分析装置などを用いて高精度の分析を行うことで、海洋環境の変化について、時間をさかのぼって高精度に分析することが可能になりました。

発表雑誌
雑誌名:Science
論文タイトル:Deep-sea corals feel the flow
著者:Yusuke Yokoyama, Tezer M Esat
DOI: 10.1126/science.aak9817
アブストラクトURL: http://science.sciencemag.org/content/354/6312/550このリンクは別ウィンドウで開きます

雑誌名: Journal of Quaternary Science
論文タイトル:Short-term fluctuations in regional radiocarbon reservoir age recorded in coral skeletons from the Ryukyu Islands in the north-western Pacific
著者:Shoko Hirabayashi, Yusuke Yokoyama, Atsushi Suzuki, Yosuke Miyairi, Takahiro Aze
DOI: 10.1002/jqs.2923
アブストラクトURL: http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1002/jqs.2923/abstractこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先
横山 祐典 東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター 教授
Email: yokoyama★aori.u-tokyo.ac.jp
E-mailはアドレスの「★」を「@」に変えてお送り下さい。
 

図表

図1:現在よりやや温暖であり、海面も高かった(グリーンランドなどの氷床が今よりとけていた)とされている最終間氷期についてのオープンシステム年代法の問題。サンゴ礁の年代から求められた最終間氷期の時間決定(左)と実際の西オーストラリアの当時のサンゴ礁(右:Courtesy by TM Esat)。オープンシステム法が正しいとした場合の海水準の曲線(黒線)とそうでない場合の海水準ポイント(白丸)。氷床コアとの比較などに使う年代として重要な最終間氷期の海水準が安定になった最初の年代は、13万年前であることがわかる。一方のオープンシステム法だと12万5千年前となり、5千年のズレが生じている。

図2:深海サンゴの例。太平洋の深海から潜水調査船によって採取されたもの。

図3:100年以上生きているサンゴが明らかにした黒潮とエルニーニョや太平洋十年規模振動の変化との関係。鹿児島県喜界島と沖縄県石垣島の位置図。写真は分析に用いた日本最大級のハマサンゴ群体。手前のダイバーと比べるとその大きさがわかる。

図4:分析に使用した石垣島サンゴの骨格写真。赤い点線に沿って放射性炭素年代測定が行われた。

図5:放射性炭素年代測定によって得られた海洋循環変化の指標となるローカル海洋リザーバー年代(ΔR)を年代別に示した地図。1900年代初期と1940-1950年代と比較すると、琉球列島周辺でΔRが正から負へと値がシフトしていたことが明らかになった。このΔRのシフトは、黒潮がエルニーニョや太平洋十年規模振動などと連動して変化していたことを示唆している。(a)奄美大島,(b)沖縄(Yoneda et al., 2004)、(c) 石垣島(Hideshima et al., 2001; Yoneda et al., 2004)、(d) 韓国(Kong and Lee , 2005)、(e) 沖縄(Konishi et al., 1981)よりデータ引用。

図6:放射性炭素年代測定によって得られた海洋循環変化の指標となるローカル海洋リザーバー年代(ΔR)の時系列変化。1900年代初期と1940-1950年代と比較すると、琉球列島周辺でΔRが正から負へと値がシフトしていたことが明らかになった。このΔRのシフトは、黒潮がエルニーニョや太平洋十年規模振動などと連動して変化していたことを示唆している。Yoneda et al. (2004)、Hideshima et al. (2001), Konishi et al. (1981)のデータと比較している。
 

参考文献

Esat, T.M., and Yokoyama, Y. 2010. Coupled Uranium Isotope and Sea-level variations in the oceans. Geochimica et Cosmochimica Acta, 74, 7008-7020.

Hideshima S, Matsumoto E, Abe O et al. 2001. Northwest Pacific marine reservoir correction estimated from annually banded coral from Ishigaki Island, southern Japan. Radiocarbon, 43: 473–476 [DOI: 10.1017/S0033822200038352].

Kong GS, Lee CW. 2005. Marine reservoir corrections (DR) for southern coastal waters of Korea, the Sea. Journal of the Korean Society of Oceanography, 10: 124–128.

Konishi K, Tanaka T, Sakanoue M. 1981. Secular variation of radiocarbon concentrations in seawater: sclerochronological approach. In Proceedings of the Fourth International Coral Reef Symposium, Gomez ED (ed). Marine Science Center, University of the Philippines: Manila; 1:181–185.

Yoneda M, Uno H, Shibata Y et al. 2007. Radiocarbon marine reservoir ages in the western Pacific estimated by pre-bomb molluscan shells. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms, 259: 432–437 [DOI: 10.1016/j.nimb.2007.01.184]

Yokoyama, Y., and Esat, T.M. 2011. Global Climate and Sea Level: Enduring Variability and Rapid Fluctuations Over the Past 150,000 Years. Oceanography, 24, 54-69. DOI: 10.5670/oceanog.2011.27

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