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古代人のBBQ跡? インダス文明の遺跡から産出した耳石の分析による環境復元

2015年9月28日

横山祐典(東京大学 大気海洋研究所 教授)
窪田 薫(東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)
雨川翔太(東京大学 大気海洋研究所 修士課程学生)
宮入陽介(東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)
川久保友太(東京大学 大気海洋研究所 博士課程学生)
関 有沙(東京大学 理学系研究科 博士課程学生)
坂井三郎(海洋研究開発機構 研究員)
前杢英明(法政大学 教授)
長田俊樹(総合地球環境学研究所 名誉教授)
P Ajithprasad(マハーラージャ・サヤジラーオ大学 教授)
S. K. Bhattacharya(台湾中央研究院 教授)

発表のポイント

◆ 耳石の安定同位体・微量元素の微細分析からインド北西部に生息するナマズの回遊生態を明らかにした。
◆ 耳石への安定同位体・微量元素の取り込み過程を数値モデル化し、ナマズの回遊履歴を月単位で復元した。
◆ インド北西部のインダス文明遺跡から発掘された化石のナマズ耳石から、過去のナマズの回遊生態を明らかにし、同地域における当時の古環境を復元した。

背景および研究手法

インダス文明は約4000年前に最盛期から衰退期へと移行したことが考古学的な証拠から明らかになっている。衰退の原因として「気候変化」が挙げられているものの、沿岸域の古環境データが得られていないことが、気候変動と文明の盛衰を議論する上での妨げとなっていた。インド北西部に多く見つかっているインダス文明遺跡からは多数の魚の耳石が良好な保存状態で発掘されており、沿岸域の古環境指標として期待されている。そこで、本研究では現生・化石のナマズ耳石の地球化学分析を通じて、ナマズの生態の把握と古環境復元ツールとしてのポテンシャル評価を行った。

魚の耳石を古環境指標として用いるためには、魚がいつ・どこに棲んでいたのかを明らかにする必要がある。そこで、遺跡の近くにあるKhambat湾及びKutch湾から現生のナマズを採取し、耳石を摘出した(図1)。耳石の成長方向に沿って安定同位体比・微量元素分析を50〜100μmの空間解像度で分析した(図2)。まず、東京大学大気海洋研究所の193nmエキシマーレーザー・アブレーションシステムを用いて、耳石薄片試料の成長方向に沿って試料をエアロゾル化し、高解像度誘導結合プラズマ質量分析計(ELEMENT-XR)を用いて微量元素比(Sr/Ca比・Ba/Ca比)を測定した。さらに、微量元素比測定に供したものと同じ試料に対し、高精度切削機器Geomill326)を用いて成長縞に沿って約50μm間隔のドリリングを行い、得られた粉末試料の酸素・炭素同位体比を海洋研究開発機構の安定同位体質量分析計(IsoPrime)を用いて測定した。

研究成果

Khambhat湾・Kutch湾から採取された耳石の酸素同位体比は、ともに幼魚期から成魚期にかけて大きく重い値へとシフトしていた(図3)。海生生物の炭酸塩(耳石、サンゴ、貝など)の酸素同位体比は水温と水の酸素同位体の変化を記録している。湾内の海水の酸素同位体比は0‰(パーミル;千分率)、河川水の酸素同位体比は北西インドでは約-4‰であるため、軽い酸素同位体値から重い酸素同位体値へのシフトは魚の水塊移動、すなわち、ナマズが汽水から海へと回遊していたためと解釈することができる(水温変化によって引き起こされる同位体分別効果では説明できないほど大きいため)。また、耳石のSr/Ca比・Ba/Ca比の変動パターンも酸素同位体比の解釈と整合的であった(図3)。それは、一般にSr/Ca比(Ba/Ca比)は河川水で低く(高く)、海洋表層水で高い(低い、またはゼロに近い)値を示すためである。実際、西インドのナマズは汽水において産卵を行うことが知られており、耳石の地球化学分析結果の解釈とも整合的である。

現生のナマズは海で漁師によって採取されたものであるが分かっている一方で、化石のナマズがどこで採取されたかについては分かっていない。耳石の縁辺部の酸素同位体比は海にいたと考えられる値よりも軽い値を示すことから、ナマズが汽水域に戻ってきた際に(おそらく繁殖・産卵のため)、古代人によって捕獲されたものと推測される。

またナマズが海にいた時期に形成された耳石の酸素同位体比は周期的な変動を示していた。耳石に対する温度換算式を用いて水温を推定したところ、観測水温と極めて整合的な結果となった(図4)。すなわち、ナマズ耳石は約1~4年間の水温を連続的に記録しており、良い古水温指標になることが明らかになった。

インダス文明遺跡から出土した化石の耳石の酸素同位体から約4,300年前のKutch湾の水温を推定したところ、冬の表層水温が現在よりも約2.5度低かった可能性が示唆された。今後、分析数を増やすことで妥当性を検証する必要がある。

今後の展望

本研究で用いた、同一の耳石に対する安定同位体・微量元素の微細分析や耳石の地球化学の数値モデル化は、他の魚類耳石や生物源炭酸塩を用いた生態履歴の復元にも有効であり、さらなる応用研究へと繋がると期待される。

化石耳石は遺跡から連続的に発掘されているため(放射性炭素年代測定から5,000〜4,000年前と推定)、今後化石耳石に対する分析数を増やすことで、北西インドの気候変動とインダス文明との関わりをより詳細に議論できるようになる。

発表雑誌

雑誌名:Geochemical Journal
論文タイトル:Migration history of an ariid Indian catfish reconstructed by otolith Sr/Ca and δ18O micro-analysis
著者: Kaoru Kubota, Yusuke Yokoyama, Yuta Kawakubo, Arisa Seki, Saburo Sakai, P. Ajithprasad, Hideaki Maemoku, Toshiki Osada, S. K. Bhattacharya
DOI:10.2343/geochemj.2.0371
アブストラクトURL:http://www.terrapub.co.jp/journals/GJ/abstract/4905/49050469.html

雑誌名:Quaternary International
論文タイトル:Fossil otoliths, from the Gulf of Kutch, Western India, as a paleo-archive for the mid- to late-Holocene environment
著者:Shota Amekawa, Kaoru Kubota, Yosuke Miyairi, Arisa Seki, Yuta Kawakubo, Saburo Sakai, P Ajithprasad, Hideaki Maemoku, Toshiki Osada, Yusuke Yokoyama
DOI:10.1016/j.quaint.2015.07.006
アブストラクトURL:http://dx.doi.org/10.1016/j.quaint.2015.07.006

問い合わせ先

横山 祐典
東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター 教授
Email: yokoyama★aori.u-tokyo.ac.jp

E-mailはアドレスの「★」を「@」に変えてお送り下さい。

図表

図1 ナマズおよび耳石の写真(左)。西インドの地図(右)。現生耳石は Khambhat湾・Kutch湾から得られたナマズから摘出され、化石耳石はKutch湾に面した遺跡から発掘された。

図2 耳石薄片試料に対する2種類の地球化学分析の測線。黄色:レーザー・アブレーションICPMSによるライン分析を行い、Sr/Ca・Ba/Ca比などを測定した。赤色:成長線に沿ってマイクロミリングを行い、得られた粉末試料の同位体比を質量分析計で測定した。

図3 Khambhat湾で得られた現生耳石の酸素同位体(赤)・Sr/Ca比(水色)の分析結果。耳石の縁からの距離3000μm付近に大きなシフトが観察され、汽水から海への魚の回遊を示唆。

図4 現生耳石の酸素同位体(海にいたと推定される部分)から復元された海水温と観測水温との比較(左:Khambhat湾、右:Kutch湾)。Khambhat湾の復元水温の結果は、解像度を月単位にするために5点の移動平均をとっている。夏・冬の季節変動をもとに捕獲の時点から遡ると、それぞれ約1年・約4年分の水温を記録している。

参考文献

Kano Y, Adnan MSB, Grudpan C, Grudpan J, Magtoon W, Musikasinthorn P, Natori Y, Ottomanski S, Praxaysonbath B, Phongsa K, Rangsiruji A, Shibukawa K, Shimatani Y, So N, Suvarnaraksha A, Thach P, Thanh PN, Tran DD, Utsugi K, Yamashita T (2013) An online database on freshwater fish diversity and distribution in Mainland Southeast Asia. Ichthyological Research 60: 293-295

http://link.springer.com/article/10.1007/s10228-013-0349-8

研究トピックス