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ハワイの北の風がコントロールする、沖縄の海の酸性化

2015年6月18日

岡 英太郎(東京大学大気海洋研究所)
Bo Qiu(ハワイ大学海洋学部)
高谷 祐介(気象庁地球環境・海洋部)
延与 和敬(気象庁地球環境・海洋部)
笹野 大輔(気象研究所海洋・地球化学研究部)
小杉 如央(気象研究所海洋・地球化学研究部)
石井 雅男(気象研究所海洋・地球化学研究部)
中野 俊也(気象庁地球環境・海洋部)
須賀 利雄(東北大学大学院理学研究科/国立研究開発法人海洋研究開発機構)

アルゴフロート

発表のポイント

◆十年規模で変動する北太平洋中央部の風が、黒潮の南の海域における海水の沈み込みを変化させ、沖縄付近の海洋酸性化の進行速度にも影響を及ぼしていることを示した。
◆北太平洋を横断する大気、海洋循環、海洋化学の十年規模変動のつながりを、メカニズムとともに示した。
◆気候変動における海洋の役割解明や、気候変動が日本近海の海洋酸性化や生物生産に与える影響の解明に資することが期待される。

発表概要

黒潮および黒潮続流の南の海域では冬季に、海面から大量の熱が大気に放出され、深さ500mにも達する深い対流が起こる。その結果形成される「亜熱帯モード水」とよばれる厚い水温鉛直一様層は、海洋内部に沈み込んだのち、南西方向へと広がっていく。

過去20年間の衛星観測により、黒潮続流が約10年の周期で、流路の安定した状態と不安定な状態を交互にとることが明らかにされていた。また、この変動の原因は北太平洋中央部における風の変動(注1)であることが示されていた。

今回、東京大学、ハワイ大学、気象庁、気象研究所、東北大学、海洋研究開発機構の共同研究グループは、アルゴフロート(注2)による2005-2014年の水温・塩分データから、黒潮続流の十年規模変動に伴い、亜熱帯モード水の形成量と南西方向への広がりが大きく変動していることを明らかにした。さらに、気象庁の海洋気象観測船による定線観測データから、沖縄の東の海域で2010年以降、亜熱帯モード水の流入増加に伴い、海洋酸性化の進行が止まり、むしろ一時的に後退していることを示した。

北太平洋を横断する一連の観測結果から、気候変動が海洋の循環や化学・生物学的構造を変え、海洋の酸性化や生物生産に影響する新たなメカニズムが提示された。

発表内容

[研究の背景]

日本の南岸を流れる黒潮は、房総半島沖で離岸したのち、北緯35度付近を東向きに流れる黒潮続流となる。過去20年間の衛星観測により、黒潮続流が約10年の周期で、流路の安定した状態と不安定な状態を交互にとることが明らかにされた(図1)。この変動の原因は北太平洋中央部における風の変動(注1)である。偏西風が強い時期には北太平洋中央部で海面が低くなり、その低い状態が西向きにゆっくりと伝播する。そして、3-4年後に日本付近に到達すると、黒潮続流は不安定状態となる。逆に、偏西風が弱い時期には北太平洋中央部の海面が高くなり、それが3-4年後に日本付近に伝わると、黒潮続流は安定状態となる。

黒潮および黒潮続流の南、北緯28度より北の海域では冬季に、海面から大量の熱が大気に放出され、深さ500mにも達する深い対流が起こる。その結果形成される「亜熱帯モード水」とよばれる厚い水温鉛直一様層は、春以降、海洋内部に取り残され、流れに乗って形成域から南西方向へと広がっていく(図2)。このような亜熱帯モード水の形成と広がりに伴い、海洋表面から内部に熱や物質等が運ばれている。大気中で年々増加している二酸化炭素も、亜熱帯モード水形成域の海面で盛んに吸収され、亜熱帯モード水とともに海洋内部へと運ばれている。

本研究では、黒潮続流の十年規模変動が亜熱帯モード水の形成と広がり、ならびに下流域の化学成分に与える影響を、アルゴフロート(注2)の水温・塩分データと気象庁の海洋気象観測船による定線観測データを用いて調べた。

[研究内容]

2005-2014年の10年間のアルゴフロートデータを用いて、3月の亜熱帯モード水の分布を描いた(図3)。どの年も、亜熱帯モード水は北緯28度より北の形成域では厚く、北緯28度より南の海域では薄い。形成域の亜熱帯モード水はその年の冬に形成されたもの、南の海域の亜熱帯モード水は1年以上前の冬に形成域で形成されたのち、南に輸送されてきたものである。亜熱帯モード水の厚さと分布域は10年規模で大きく変動し、黒潮続流の不安定期である2006-2009年に減少し、安定期である2010年以降に増加している。これは、亜熱帯モード水の安定期の形成量が不安定期に比べ50%多いためである。不安定期には、黒潮続流を超える亜熱帯域と亜寒帯域の海水交換が盛んとなり、亜熱帯域に亜寒帯系の水が流入して厚い亜熱帯モード水の形成が阻害される。

次に、亜熱帯モード水の広がりの十年規模変動が下流域の化学成分に与える影響を見るため、気象庁の定線観測データを調べた。沖縄本島南東に位置するOK線の溶存酸素量(注3)は、2010年以降年々増加している(図4)。これは、海面を離れてから間もない若い亜熱帯モード水がOK線により多く到達するようになったためである。さらに、より多くの化学成分が測られている東経137度線の北緯25度での変動を見ると、2010年以降、見かけの酸素消費量(注3)と全炭酸濃度(注4)が減少している(図5)。これも、若い亜熱帯モード水の流入量が増えたためである。特に全炭酸濃度は、長期的には大気中の二酸化炭素濃度増加により海洋内部でも増加傾向にあるにもかかわらず、2010年以降は減少に転じている。このような全炭酸濃度の変動の結果、海水のpHも長期的には低下傾向にあるものの、2010年以降は増加に転じている。

過去5年間の変化をまとめると、2007年以降北太平洋中央部で偏西風が弱い状態となり、それによって生まれた海面の高い状態が3年かけて日本付近に到達し、2010年以降黒潮続流が安定状態になった。その結果、亜熱帯モード水の形成量と広がりが年々増え、下流の沖縄付近では若い亜熱帯モード水がより多く流入することで溶存酸素量が増え、海洋酸性化の進行が一時的に止まっている。今後再び偏西風が強い状態になると、3-4年後に黒潮続流は不安定な状態となり、亜熱帯モード水の形成と広がりが減少し、沖縄付近では酸性化が急速に進行すると予測される。

[社会的意義・今後の予定]

18世紀ごろまで280ppmだった大気中の二酸化炭素濃度は、石油・石炭などの化石燃料の消費や森林破壊により最近ついに400ppmを超え、地球温暖化による人類社会への脅威がさらに増している。化石燃料等からの二酸化炭素排出は、大気中の二酸化炭素濃度を増加させ、地球を温暖化させるだけでなく、海洋中の二酸化炭素濃度を増加させ、酸性化させており、その海洋生態系や水産業への影響も深く危惧されている。地球温暖化にともない、大気や海洋の循環自体も変化しつつある。このような海洋循環の変化や海洋酸性化の実態とメカニズムを解明するとともに、それらが近い将来気候や海洋生態系に及ぼす影響を正しく予測することは、社会の安定に直結する海洋学の重要な研究テーマとなっている。

本研究の結果は、気候変動に伴い海洋内部の循環が変わり、それが海洋の化学・生物学的構造に影響する様子を明確に示している。亜熱帯モード水の変動は、海洋表層の水温構造や貯熱量を変化させる。観測された全炭酸濃度やpHなどの変動は、海洋の化学・生物学的変動のメカニズムを解明する上でも、海洋酸性化の長期平均速度を正確に見積もる上でも重要である。今後は、亜熱帯モード水の変動が海面水温の分布を通じて大気にどのようなフィードバックを与えるか、また、沖縄付近の海洋内部で見いだされた化学・生物学的変動が海面付近の酸性化や生物生産にどのように影響するのかといったことが重要な研究テーマとなる。さらに、亜熱帯モード水は各大洋の亜熱帯域に存在しており、同様の現象が北太平洋以外でも起こっているのかどうかも興味深い。

最後に、本研究の成果は衛星、アルゴフロート、船舶による長期観測網の存在なしでは得られなかったことを強調したい。気候変動に対する海洋の物理・化学・生物学的応答を統合的に理解していくためにも、これらの観測システムを今後も維持・発展させていくことが重要である。

発表雑誌

雑誌名: Journal of Oceanography
論文タイトル: Decadal variability of Subtropical Mode Water subduction and its impact on biogeochemistry
著者: Eitarou Oka*, Bo Qiu, Yusuke Takatani, Kazutaka Enyo, Daisuke Sasano, Naohiro Kosugi, Masao Ishii, Toshiya Nakano, and Toshio Suga
DOI番号: 10.1007/s10872-015-0300-x
アブストラクトURL: http://link.springer.com/article/10.1007/s10872-015-0300-x

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 准教授 岡 英太郎
e-mail:eokaaori.u-tokyo.ac.jp     *メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

注1:北太平洋中央部における風の変動
太平洋十年規模振動と呼ばれる変動。北太平洋中央部と北米沿岸域で逆符号の海面水温偏差が現れ、十年から数十年の不規則な周期で符号が反転する振動現象。これに伴い、北太平洋中央部における偏西風の強さが変化する。
参考: http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/climate/knowledge/pac/pacific_decadal.html
注2:アルゴフロート
漂流しながら海面と深さ2000mの間を10日に1度往復し、水温・塩分の鉛直分布を測定する自動測器。このフロートを全球の海洋に3000台展開する「国際アルゴ計画」が2000年に始まり、2007年ごろに3000台の観測網が完成した。取得データは無償で公開されている。日本では海洋研究開発機構と気象庁がフロートの展開やデータの品質管理を担っている。
参考: http://www.jamstec.go.jp/ARGO/index.html
注3:溶存酸素量、見かけの酸素消費量
海水中の溶存酸素は、海水が海面で大気と接しているときはほぼ飽和状態にあるが、海水が海面を離れたあとは有機物の分解に使われるため、時間とともに減少する。見かけの酸素消費量は、測定された溶存酸素量と飽和酸素量の差で、海水が海面を離れてから有機物の分解に使われた酸素量を表す。見かけの酸素消費量は海面ではほぼ0で、海水が海面を離れたあとは時間とともに増加する。これら2つの指標は海水の「若さ」を表す。
注4:全炭酸濃度
二酸化炭素は海水に溶けると、二酸化炭素(CO2)と炭酸水素イオン(HCO3-)と炭酸イオン(CO32-)の間で平衡状態となる。この3成分の和が全炭酸濃度であり、海水に溶けている無機炭素の量を表す。全炭酸濃度は、海水が海面を離れたあと、有機物の分解により時間とともに増加する。

添付資料

図1 2週間ごとに重ね描きした、衛星海面高度計データに基づく、各年の黒潮続流の流路。黒潮続流は1993-1994年、2002-2005年、2010年以降は安定状態、1995-2001年、2006-2009年は不安定状態にある

図2 北太平洋のモード水の形成と広がりの模式図。太線は強い海流・フロントを表す。亜熱帯モード水は赤色の海域で形成され、ピンクの海域へと広がる

図3 アルゴフロートデータによる、2005-2014年の3月の亜熱帯モード水の厚さの分布。黒い太線は気象庁OK線の位置を、黒丸は気象庁の北緯25度、東経137度の測点を表す

図4 気象庁OK線の亜熱帯モード水の密度帯における溶存酸素量の時間変化。図中の数字は海水の密度を表す

図5 気象庁東経137度線の北緯25度の亜熱帯モード水の密度帯における化学成分の時間変化

研究トピックス