東京大学海洋研究所

全国共同利用・共同研究拠点

ナビゲーションを飛ばす

go to english page

facebook_AORI facebook_AORI

  • ホーム
  • 研究所概要
  • 教員&スタッフ
  • 研究活動
  • 共同利用
  • 進学希望の方へ
  • アクセスマップ

DNAデータにもとづくテンジクダイ科の新分類体系の提唱

2015年5月1日

馬渕浩司(東京大学大気海洋研究所)

サンプル

◆テンジクダイ科約360種中の120種を用いて分子系統解析を行ったところ、形態形質に基づく伝統的な分類体系(2亜科23属15亜属)と多くの点で一致しない系統樹が得られた。 ◆この分子系統樹を基礎として形態形質の再検討を行い、従来とは大幅に異なる分類体系(4亜科14族38属)を提唱した。 ◆日本に分布する種を含みながら標準和名のない多くのグループ(3亜科13族9属)に、命名のルールを設定した上で新しい標準和名を与えた。

背景

テンジクダイ科(図1)は太平洋、インド洋、大西洋など世界中の温暖な海域に分布する仲間で、とくに熱帯サンゴ礁域で種数が多い。ほとんどの種は体長10cm未満の小型魚であり、食用として利用されることは少ないが、マンジュウイシモチ(図1-7)など観賞魚としてなじみ深い種が含まれる。夜行性で雄親が口の中で卵を保護するほか、一部の種(図1-4, 6)では生物発光を行うことが知られており、生物学的にたいへん興味深いグループである。

テンジクダイ科には約360種が知られているが、現在でも平均して年間に2種の割合で新種が報告されている。このグループの分類体系はこれまで、1972年にFraser博士によって発表された骨格の形態に基づく体系が基本にされてきた。この分類体系では、当時知られていた全種数の約4割(およそ100種)が1つの属(Apogon)に含まれ、これが10の亜属に分けられていた(図2左の水色)。その後、頭部側線管の解析に基づいてこれらの亜属を属に格上げすることがBergman(2004)の博士論文で提案された。以後、いくつかの亜属が詳しい形態学的解析を経て正式に属に格上げされたが、全体としての分類体系はまだ流動的な状態にあった。分子系統解析の試みも、科の全体をカバーするものは皆無であった。

研究成果

このような状況の中、全属・亜属の8割以上を網羅する120種を用いて分子系統解析を行ったところ、形態形質に基づく伝統的な分類体系(図2左:2亜科23属15亜属)と多くの点で一致しない系統樹(下記の発表論文1のFigure 6. をご覧下さい)が得られた。例えば、最大の属であるApogonを構成していた亜属は系統樹上でばらばらの位置に出現し(図2右の水色の属に注目)、それぞれ別の属と強固なクレードを形成した。また、科全体の最も根本では、オニイシモチ属とヌメリテンジクダイ属の分岐が認められた。

以上の結果を踏まえ、これまでに知られている各グループの形態形質の再検討を行った。この作業は、従来の分類体系の提唱者であるFraser博士と共同で行い、形態的な証拠のあるグループを新たな分類群として認め、新しい分類体系(図2右:4亜科14族38属)を構築した。この分類体系では、これまで認識されてこなかった強固なクレード(I〜XII:図2右の橙色)に、新たに「族」の階級を与えた点や、オニイシモチの仲間に亜科の地位(図2右の濃桃色の枠)を与えた点でとくに新しい。

以上の結果、新たに提唱されたグループの中には、日本に分布する種を含みながら標準和名が存在しないものが多数(3亜科13族9属)生じることとなったので、これらに和名を与えることとした。ところが、これほど多くのグループに一度に和名を与える例はこれまでになかったので、新たにルールを策定し、これに従ってシステマティックに命名を行った。

このようにしてつけられた新しい名称は以下の通り:オニイシモチ亜科、ヌメリテンジクダイ亜科、コミナトテンジクダイ亜科、ナンヨウマトイシモチ族、コミナトテンジクダイ族、アトヒキテンジクダイ族、ヤライイシモチ族、カガミテンジクダイ族、クダリボウズギス族、スジイシモチ族、ヒトスジイシモチ族、スカシテンジクダイ族、ヒカリイシモチ族、マンジュウイシモチ族、クロスジスカシテンジクダイ族、イトヒキテンジクダイ族、コミナトテンジクダイ属、トマリヒイロテンジクダイ属、カガミテンジクダイ属、スジイシモチ属、ヒトスジイシモチ属、アカヒレイシモチ属、ツマグロイシモチ属、クロスジスカシテンジクダイ属、サンギルイシモチ属。なお、約350種を含む最大の亜科には、コミナトテンジクダイ亜科という標準和名が与えられた。「コミナト」とは千葉県の小湊に由来し、1934年にここで新種として発見された種「コミナトテンジクダイ」に対応している。

多くの新しい分類群に新しい標準和名を与えた本研究は、日本魚類学会が発行する和文誌、魚類学雑誌の最新号(4月25日発行)に掲載され、この号(62巻1号)の表紙には、著者らが推薦したオニイシモチの水中写真が採用されている。

発表論文

発表論文1
Revision of the systematics of the cardinalfishes (Percomorpha: Apogonidae) based on molecular analyses and comparative reevaluation of morphological characters

分子系統解析および形態形質の再評価に基づくテンジクダイ科分類体系の再検討
By Mabuchi, K., Fraser, T. H., Song, H.Y., Azuma, Y., and Nishida, M.
馬渕浩司, Thomas H. Fraser, ソン ハヨン, 東 陽一郎, 西田 睦
Zootaxa 3846: 151-203 (Open access)
http://dx.doi.org/10.11646/zootaxa.3846.2.1

発表論文2
テンジクダイ科の新分類体系にもとづく亜科・族・属の標準和名の提唱
By 馬渕浩司、林 公義、Thomas H. Fraser
魚類学雑誌 62: 29-49.(2015年4月25日発行)

以上2つの論文の問合せ先(Corresponding author):
Kohji MABUCHI (馬渕浩司)
E-mail: mabuchi◎aori.u-tokyo.ac.jp      *メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

資料

図1.テンジクダイ科魚類 : 1,リュウキュウヤライイシモチ : 2,ヒトスジイシモチ : 3,スカシテンジクダイ : 4,イナズマヒカリイシモチ : 5,マダラテンジクダイ : 6,ツマグロイシモチ : 7,マンジュウイシモチ : 8,サンギルイシモチ : 9,イトヒキテンジクダイ

図2.形態形質にもとづく伝統的なテンジクダイ科の分類体系(左)と分子系統樹と形態形質の再検討にもとづく新しい分類体系(右)

研究トピックス