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広い海底の下、大河は流れる ~海底熱水系をさぐる

2009年11月

海洋底科学部門 海洋底地球物理学分野


 

深海の温泉、海底下の大河

1970年代後半に、海底にも陸上の温泉のように熱いお湯が湧きだしている場所(海底熱水系)があることが発見されました。そこでは水深2000mを越える海底から350℃にもなる熱水が噴出し、さらにその周囲には太陽光にたよらない化学合成生態系が築かれていたのです(図1)。それから30年あまり、現在全世界の海底で300を越える熱水系が報告されています(図2)。

インド洋の海底熱水系

図1:インド洋の海底熱水系。この図はブラックスモーカーと呼ばれる高温の噴出孔。周囲に多くの生物を見ることができる。

主な熱水系の位置

図2:主な熱水系の位置(Tivey, 2007より)。赤丸は噴出孔の位置が正確にわかっているもの、黄丸は熱水起源の海水異常が発見されて近くに噴出孔があると推定されるもの。

 

熱水は、海底にしみこんだ海水が地下のマグマなどで熱せられ、周囲の岩石と元素のやりとりをすることにより重金属などを多く含んだ熱水となり、再び海底面から冷たい海中へ噴出するものです。熱水が循環することによって固体地球の熱や物質が海底面や海水中に運ばれます。つまり、熱水循環系は地球全体の熱・物質の移動に大きな役割を果たしていることになるのです。近年の研究の結果からは、比較的低温の熱水系まで含めると、地球上のすべての熱水・冷湧水が海底下から海へと年間に運ぶ元素の量は、地上のすべての河川が陸から海へと運ぶ元素の量に匹敵するものであるということがわかってきました。まさに、海底の熱水循環系は「海底下の大河」と呼ぶべき存在であり、熱水噴出孔はその河口と考えるとよいでしょう。「海底下の大河」は単に海水を循環させているだけの存在ではありません。「大河流域」で岩石ー水反応を通じて地殻と成分のやりとりを行い、陸上河川同様に大洋に流入してその組成の一部を制御し、さらには熱水孔付近の生態系や地下生物圏に対し大きな役割を果たしていることがわかっています(図3)。

海底の熱水循環と関連する岩石ー水ー生命の相互作用

図3:海底の熱水循環と関連する岩石ー水ー生命の相互作用

 

海底下の大河の多様性
 

海底熱水系の探査が進むにつれ、熱水の組成や熱水系が支えている生態系が実に多様であることが徐々に明らかになってきました。そして、その多様性が実は「大河流域」である海底の地球物理学・地質学的構造の多様性を反映しているものではないか、との考えが生まれました。2008年度からはじまった大型プロジェクト「海底下の大河」(科研費新学術領域)では、日本中の海底熱水系関連の研究者が集結し、「大河」の多様性とその由来、「大河」で起こっている化学的・微生物学的プロセス、「大河」が海洋に与える影響などを総合的に研究しています。このプロジェクトでは、多様な「海底下の大河」を、大河が支える生態系の一次生産者が利用する化学エネルギー源によって4つのグループに分けることを提案しています。すなわち、「メタンの大河」「イオウの大河」「鉄の大河」「水素の大河」です(図4)。「イオウの大河」は主に中央海嶺や島弧の火山活動に支配され、火山由来のイオウを酸化する微生物が生態系を支えています。「水素の大河」は火山活動が比較的不活発な場所に多く、マントルまで達するような大きな断層が循環系を支配し、そこで起こる岩石ー水反応によって生産される水素を食べる微生物が繁栄しています。「メタンの大河」は大陸などに近く堆積物が多く供給される場所に見つかっており、堆積物の熟成によって生まれるメタンを利用する微生物が一次生産者となっています。「鉄の大河」についてはまだ未知の部分が非常に多いのですが、広大な海底における岩石中の鉄の酸化が鍵となっていると想像されています。プロジェクトでは、「イオウの大河」「メタンの大河」「水素の大河」の典型例として、南部マリアナトラフ熱水系、沖縄トラフ熱水系、インド洋三重点付近の熱水系の3つの場所を集中観測域として選び、5年にわたって総合的な調査と研究を行います。マントルの構造から大型生物まで、多岐にわたる分野の研究者が集って、ともに船に乗り、議論を進めています。

4つの「海底下の大河」

図4:4つの「海底下の大河」

 

最近の調査から
 

海洋底科学部門では、これまでも「水素の大河」であるインド洋三重点付近において主に地球物理学的調査を行ってきました。その研究結果は、この場所の熱水系が海底岩石の変質と大規模断層系に支配された「水素の大河」である、という仮説をたてる上での重要な要素となりました。

「海底下の大河」のプロジェクトにおいては、海洋底科学部門では主に「大河流域を規制する地質・地球物理学的要因」を明らかにする班を率い、特に地殻浅部の構造の研究を担当することになっています。プロジェクト前半では主に「イオウの大河」であるマリアナトラフを対象に、後半では「水素の大河」であるインド洋三重点付近を対象に調査研究を行う予定です。

この7月にまず南部マリアナトラフにある3つの熱水サイト(図5)をターゲットに、AUVうらしま(海洋研究開発機構所有)を用いた3次元高分解能マッピングを行いました(図6,7)。ここは、背弧拡大軸に位置する「イオウの大河」のひとつです。3つのサイトは5km以内というごく近くにありながら、熱水や周囲の岩石組成に差があります。「大河」の性質を決める主な要素としては、熱源(マグマの存在やその形態)、母岩の種類、断層など地殻構造による循環経路、などがあげられます。AUVを用いて海底のごく近くで様々な観測を行うことにより、これらの要素のいくつかを明らかにすることができます。例えば、音波を使って海底の微細な地形や地質を調査することによって、溶岩の形態や断層の分布と熱水孔の位置の関係がわかります(図8)。また、磁気異常を調べることによって、熱水循環による変質がどれくらいの範囲に広がっているか、どのような変質プロセスが起こっているのかを推定することができます。また、共同研究者によって、海水のpHや温度、硫化水素などの含有量を計測するセンサーを使って海水中の化学的マッピングが同時に行われ、噴出した熱水プルームのひろがりのデータも取得しました。AUVとしては世界初となる本格的な採水も行われ、得られた海水試料は化学分析だけでなく微生物の分析にも供されています。この調査では、AUVの特徴を生かして海底からの高度が約80m、200m、350mのレベルでそれぞれ観測を行い、「海底下の大河」をとりまく空間の3次元的マッピングに挑戦しました。データは現在解析中ですが、高分解能の海底マッピング(地形・磁気異常)と熱水プルームの広がりをとらえることで、何が熱水系の違いを規定しているのかを明らかにしたいと思っています。このあと、プロジェクトでは「水素の大河」であるインド洋の熱水サイトで同様の調査を計画しています。

マリアナトラフ南部に位置する3つの熱水系の位置と潜水船から撮影した噴出孔の写真

図5:マリアナトラフ南部に位置する3つの熱水系の位置と潜水船から撮影した噴出孔の写真

AUVうらしま

図6:AUVうらしま(海洋研究開発機構所有)。自律航行式で、水深3500mまでの調査が可能。

うらしまの内部

図7:うらしまの内部。今回の調査では、標準装備以外に多くのセンサーを持ち込んだ。写真手前と奥の銀色の筒は磁力計。

うらしま搭載の音響測深機SEABATによって得られた詳細な熱水孔周辺の海底地形図

図8:うらしま搭載の音響測深機SEABATによって得られた詳細な熱水孔周辺の海底地形図。微細な亀裂や火山地形、西側の明瞭な正断層などがうかびあがっている。

研究トピックス