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未知の海洋微生物圏へのチャレンジ -遺伝子の超並列大量解析による微生物多様性研究の新展開-

2009年1月

海洋生態系動態部門 微生物分野


環境中に生息する多様な微生物の多くは難培養性であり、これまで分離、培養されている既知の細菌はごく一部(1%以下)であるため、海洋には膨大な数の未知、未利用微生物が残されている。こうした未知の微生物たちは、生態系の食物連鎖を通じて海の生産性を維持することに貢献すると共に、環境変化に対して生態系が柔軟に応答するための遺伝子プールとして非常に重要な役割を果たしている。海の微生物の多様性が高いことが、生態系の生産性や安定性を高めることにつながるのか?海の生態系を安定に維持するには、どの程度の多様性が必要なのか?そもそも、海の微生物の多様性(種数あるいは遺伝子タイプ)はどのくらいなのか?

海洋生態系における微生物群集の役割

図1:海洋生態系における微生物群集の役割.:食物連鎖の主要な構成者として、また有機物分解の担い手として、海洋の生物生産、二酸化炭素吸収、安定性維持に重要な役割を果たしている。

 

 こうした疑問に答えるために、太平洋の極域から赤道まで広範囲にわたる海域を調査し、海水中から直接抽出した微生物由来のDNAに含まれる16SrRNA遺伝子(微生物系統分類の指標遺伝子)の多様性とその変動パターンの解析を行った。遺伝子フィンガープリント法によって、多様性の南北変動パターンを明らかにすると共に、超並列シーケンスと呼ばれる新しい遺伝子解析技術を用いて、20万個にも及ぶ大量の16SrRNA遺伝子断片の配列を決定し、数千の異なる遺伝子タイプを特定することに成功した。

16SrRNA遺伝子フィンガープリント法による南太平洋微生物群集の多様性変動パターン

図2:16SrRNA遺伝子フィンガープリント法による南太平洋微生物群集の多様性変動パターン.:各バンドが異なる遺伝子タイプに相当し、各レーンのバンドパターンがそれぞれの地点における微生物種組成を反映している。赤道域、亜熱帯域、亜寒帯域、南極域と海域によってバンドパターンが変化していることがわかる。カラーで示した地点で超並列シーケンスによる網羅的解析を行った。

 

 また、ハロゲン化ヌクレオシドを増殖のトレーサーとする独自技術を組み合わせ、海域毎に活発に増殖している微生物いわゆる鍵種の遺伝子タイプを特定した。これらのデータは、赤道域、亜熱帯域、亜寒帯域、極域といった特徴的な海域において、海洋微生物の多様性とそのダイナミクスを網羅的に明らかにした初めての知見であり、同時に調査された様々な環境パラメータを合わせて解析することによって、微生物の多様性が生態系の安定性や復元性に果たす役割を理解する上での大きな飛躍が期待される。

超並列シーケンスによる16SrRNA遺伝子多様性の網羅的解析

図3:超並列シーケンスによる16SrRNA遺伝子多様性の網羅的解析:円グラフは各地点において特定された主要な遺伝子タイプの出現頻度の割合、数字はリード数と多様度指数。

 

 

 解析に用いた試料は、学術研究船白鳳丸KH04-5次航海「南西太平洋における海洋生命系のダイナミクスと海洋地球化学的研究」の一環として採集されたものである。また、超並列シーケンスによる多様性解析は、国際微生物センサス(http://icomm.mbl.edu/index.html)と三菱財団より、「Proposal to apply the 454 technology to active-but-rare biosphere in the oceans: large-scale basin-wide comparison in the Pacific Ocean」及び「次世代シーケンス技術が拓く未知の海洋微生物圏」として研究支援を受け、ウッズホール海洋生物研究所ジョセフィンベイポールセンターと協力して行っている。


【参考文献】

Taniguchi, A and Hamasaki, K., Community structures of actively growing bacteria shift along a north-south transect in the western North Pacific. Environ Microb 10:1007-1017 (2008)

Hamasaki, K., Taniguchi, A., Tada, Y., Long, R.A., Azam, F. "Actively growing bacteria in the Inland Sea of Japan, identified by combined bromodeoxyuridine immunocapture and denaturing gradient gel electrophoresis." Appl Environ Microbiol 73:2787-2798 (2007)

Hamasaki, K "Comparison of bromodeoxyuridine immunoassay with tritiated thymidine radioassay for measuring bacterial productivity in oceanic waters." J. Oceanogr. 62:739-799 (2006)

Hamasaki, K., Long, RA and Azam, F. (2004) "Assessing the use of bromodeoxyuridine incorporation to measure growth rates of individual bacterial cells in natural seawater." Aquat Microb Ecol 35:217-227

浜崎恒二(2003)「ブロモデオキシウリジンを利用した海洋細菌群集の増殖解析」大和田紘一 編 月刊海洋号外:海洋微生物II-基礎、応用研究とその利用, 海洋出版 p25-32.

浜崎恒二(2006)「細菌群集の現存量および群集組成」 海洋生命系のダイナミクス・シリーズ第3巻『海洋生物の連鎖-生命は他の生命および環境とどのように連携しているか』東海大学出版会

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