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大槌レポート[6] シンポジウム「大槌の復興から世界へひろがる海洋研究」報告

2013年2月20日

木暮一啓(副所長、地球表層圏変動研究センター生物遺伝子変動分野・教授、
プロジェグランメーユ代表者)

2012年1月から文部科学省の支援を受けて始まった「東北マリンサイエンス拠点形成事業」は、東北大学、独立行政法人海洋研究開発機構と東京大学大気海洋研究所が連携し、10年間にわたって地震と津波で被害を受けた東北沿岸域の科学的な調査を行い、それを通じて漁業の復興へのお手伝いをしていこうとするものです。大気海洋研究所は大槌の国際沿岸海洋研究センターを拠点として観測、研究を展開し、大槌を地域さらには世界に開かれた新たな海研究の場として作り上げていくと同時に、水産業を軸に、科学と地域の新たな接点を作り上げていくことを目指しています。

2012年の前半は、まず機器類を設置して観測体制を築き上げ、持続的な研究を開始することに重点が置かれてきました。しかし、この事業は漁業復興への貢献を謳っており、何よりもまず大槌周辺の地元住民の方々にこの事業の意図を伝え、今後の協力体制を作り上げていくことが必要です。このために、7月16日午後に、大槌町中央公民館大会議室にてシンポジウム「大槌の復興から世界へひろがる海洋研究―「東北マリンサイエンス拠点」づくりに向けて―」を開催しました。

シンポジウムに先立ってまず新野宏所長から、さらに続いて戸谷一夫文部科学省研究開発局長、上野善晴岩手県副知事、碇川豊大槌町長らに挨拶を頂きました。いずれの方々も復興の重要性とそれに関わる本事業への期待を表明されました。その後、「プロジェグランメーユ」(東北マリンサイエンス拠点形成事業の一つとして、大気海洋研究所が岩手県大槌町を拠点におこなっている事業の愛称)のメンバーが研究の方向性について発表を行いました。研究はまだ始まったばかりで成果は限られていましたが、今後どのような研究を行い、どのように地元の産業に貢献して行きたいか、という視点からの発表が行われました。また、発表に続いて総合討論が行われ、時間一杯を使って参加者との活発な議論が続けられました。最後に本事業全体の代表者である東北大学木島明博教授から閉会の挨拶を頂いた後、「おらが大槌復興食堂」にて懇親会が開かれ、多くの方々が酒を酌み交わしました。

本シンポジウムには、岩手大学藤井克己学長、新おおつち漁業協同組合下村義則組合長、岩手県沿岸広域振興局齋藤淳夫局長、岩手県水産技術センター井ノ口伸幸所長をはじめとした120名の方々が参加されたことからも、本事業への並々ならぬ期待が感じられ、プロジェグランメーユの代表者としては身の引き締まる思いを抱きました。

代表として私が常々申していることは、本事業では最先端の技術と知識を総動員して学際的な研究を押し進めるのは当然。ただ、巨額の事業費を使って求められているのはそれだけではなく、我々が地元民とりわけ漁民と新しい絆を築き上げ、それを通じて研究成果を何等かの形で地域と共有していく体制を作れるかどうかが鍵、ということです。その意味では、本シンポジウムはよいきっかけとなったと考えています。その一方で、参加者には必ずしも実際に漁業に携わる方々が多く見られたわけではなく、実際にそうした体制を作っていくのにはこれまでの我々の発想とは異なる多角的かつ地道な活動を続けていくことが必要で、それは容易ならぬ作業であることをひしひしと感じさせられました。

シンポジウムの風景

会場となった大槌町中央公民館には多くの参加者が集まった

Ocean Breeze 第11号(2013冬)、大槌リポート[6]より転載