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大槌湾の物理化学環境およびプランクトン調査(速報)

2011年8月20日

福田秀樹(国際沿岸海洋研究センター・助教)

所内プロジェクト「大槌湾を中心とした三陸沿岸復興研究」の一環として、漁船を傭船して、5月26~27日に大槌湾での観測を実施しました。今回の調査では、湾内での河川水の挙動の変化の有無を検討するとともに、栄養塩環境や有機物の分布、またプランクトンや微生物の生物量についての基礎的データを取得することを目的としました。詳細な分析結果はまだ得られていませんが、本調査を通して気がついたことを速報的に報告します。

湾奥に位置する鵜住居川の河口付近が大きく破壊されており、また、観測に協力いただいた漁師さんの話では、震災前と比較して湾の中央部付近で水深がかなり深くなっているといいます。今後、河口域や湾内の地形の変化を精査し、それが生態系にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることは重要な課題です。

鵜住居川の河口付近にはアマモ場が形成されていましたが、津波により海岸の砂浜自体が消滅した状態です。津波による生息場所の破壊のあと、生物多様性や水産資源が回復していく様子を克明に追跡し、そのメカニズムを明らかにしていくことは、生態系の再生や水産業の復興のうえで重要な研究課題です。

津波の際に様々な人工物が海に引き込まれていきましたが、被災地から急ピッチで撤去されている瓦礫は分別されることなく海辺の空き地に積み上げられ続けています。これらから化学物質等が沿岸域に流出することが懸念されるため、早急に監視体制を確立するとともに、長期的な注視と監視を行うことが必要です。

本記事を執筆している段階で国際沿岸海洋センター本館内の瓦礫の撤去はすでに終了し、被害の少なかった3階では電気・水道が使える状態にまで復旧しました。7月末には新たな観測用の船艇も利用可能となる予定であり、センターの研究機能は着々と復旧しつつあります。我々は今回採取した試料の分析を進めるとともに、調査・観測をさらに展開し、震災による沿岸海洋生態系への中長期にわたる影響の把握、そして東北地方の豊かな沿岸生態系の復活に貢献すべく努めたいと考えています。

調査に傭船した妙法丸。センターが立地する大槌町赤浜地区の漁師さんの所有する8人乗りの作業船で、3月11日の大震災の際には湾内で大津波に遭遇したものの、難を逃れることができたとのこと。

瓦礫の撤去が終了したセンター3階の共同利用研究員室。震災直後は什器類が出入り口を塞いだ状態だったが、これらは撤去され、清潔な状態に復旧した。割れた窓ガラスも新しいものに交換され、精密機器類の保管も可能になっている。

Ocean Breeze 第5号(2011夏)より転載