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胃を開かずにウナギの食事がわかる! ―個体を守りつつ生態を探る新手法を確立―

2026年2月4日

東京大学

研究成果

要約版PDFPDFファイル

発表のポイント

◆多くの絶滅危惧種を含むウナギ属魚類を対象に、野外で胃を開かずに中身を調査する非致死的な胃内容物調査方法を確立しました。
◆チューブを用いた方法では胃内容物全体の約77%を採取でき、チューブでは難しい大型の甲殻類も、鉗子を使うことで確実に採取できることが分かりました。
◆これまで個体を犠牲にしなければ得られなかった食性の情報を、生きたまま繰り返し調べることが可能となり、詳細な摂餌生態の解明に大きく貢献することが期待されます。

チューブを用いた胃内容物採取

概要

東京大学大気海洋研究所の前田達彦大学院生(同大学大学院農学生命科学研究科 博士課程)、板倉光助教、脇谷量子郎特任准教授、木村伸吾教授らの研究グループは、絶滅危惧種を多く含むウナギ属魚類を対象に、これまで解剖を伴う致死的な方法で実施されてきた胃内容物調査に関して、チューブと鉗子を用いた非致死的な手法を確立しました。魚類の胃内容物調査には多くのサンプル数を必要とするため、従来の致死的な手法では絶滅が危惧される種の食性を長期間に亘り広範囲で調べることは困難でした。本手法の確立により、多くの個体を対象として同じ個体から個体を傷つけることなく繰り返し胃内容物を採取することが可能となりました。この手法を用いることで、長期に亘り時空間的に密な調査が可能となり、これまで見過ごされてきたウナギ属魚類の詳細な摂餌生態の解明およびウナギの保全に大きく貢献することが期待されます。

発表内容

ウナギ属魚類は極域を除く全大陸、約150カ国に広く分布する降河回遊魚で、世界に16種が知られています。ウナギ属魚類は世界的に重要な水産資源ですが、16種のうち6種は国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定され、資源の保全が喫緊の課題となっています。魚類資源を保全する上で、「どこで、何を食べて成長するのか」といった食性に関する情報の理解が欠かせません。魚類の食性調査は、胃を切開して内容物を調べる手法がよく用いられますが、この手法では個体を犠牲にする必要があるため、1回限りのスナップショット的な観察で、最後に食べた餌に大きく結果が偏るという問題点があります。そのため、ウナギ属魚類のように幅広い生物を餌として利用する魚種では多数のサンプルが必要となり、詳細な摂餌生態を把握する上で大きな障壁となっていました。とくに、絶滅危惧種に対しては、従来の手法では資源に負荷を与えてしまう可能性も指摘されているため、非致死的な手法の開発が重要となります。

そこで、本研究では奄美大島の河川に生息するオオウナギ(Anguilla marmorata)を対象に、生きたまま胃内容物を採取できる手法を開発しました。具体的には、チューブと鉗子を用いて麻酔下でウナギから胃内容物を採取したのち、個体を解剖して残留した胃内容物の有無を確認することで手法の有効性を検証しました(図1)。その結果、チューブを用いた採取方法では、多くの個体から胃内容物をほぼ完全に採取でき(図2)、個体毎の採取効率(全胃内容物重量に対してどのくらい胃内容物を採取できたか)は、平均76.5%に及びました。次に、餌生物の種類に着目し、「ある分類群の餌が採取できたかどうか」を調べたところ、92.4%の分類群の餌が採取できることが分かりました。さらに、採取効率は、調べたウナギの全長・胃充満度(餌でどの程度胃が満たされているか)・餌生物の種類によって大きな違いは認められませんでした。つまり、本手法はウナギの体サイズや摂餌の状況を問わず様々な個体に適用できることが分かりました。一方で、チューブでは胃内容物を全く採取できない個体もみられ(図2)、これらの個体はエビやカニなど外骨格を持つ大型の甲殻類を摂餌していました。そこで、チューブでは採取困難であった個体に対して鉗子を用いたところ、全ての胃内容物を採取することができました。

図1:チューブ・鉗子を用いた非致死的な胃内容物採取の模式図
チューブを用いた手法では内部に水を出し入れして胃内容物を採取しています。

図2:各個体の全胃内容物重量に対してチューブで採取された割合(採取効率)
胃内容物を全て採取できた(=採取効率100%)個体数が最も多いことを示しています。
採取効率0%のウナギは大型の甲殻類(エビやカニの仲間)を主に食べていました。

今回確立した非致死的手法により、個体を傷つけることなく同じ個体から繰り返し餌に関す情報を得ることが可能となりました。現在、本手法を用いて、これまで断片的にしか捉えられなかったウナギ属魚類の摂餌生態を、個体差や成長段階、季節変化を加味して長期間に亘り詳細に理解するための調査を実施しています。ウナギ属魚類は水生・陸生の多様な餌資源を利用する頂点捕食者であり、河川生態系の食物網構造を理解する上で重要な存在です。彼らを取り巻く環境と摂餌生態を詳細に調べ、生態系におけるウナギの役割を明らかする本研究の取り組みは、絶滅危惧種を多く含むウナギ属魚類の保全と持続的利用に資するだけでなく、河川生態系を保全する上でも大きな貢献が期待されます。

〇関連情報:
本研究で確立した非致死的な胃内容物採取の手順を動画で紹介しています。
https://youtu.be/oZfOUiVIDHQこのリンクは別ウィンドウで開きます

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科/大気海洋研究所
  前田 達彦(大学院農学生命科学研究科研究科 博士課程)
 大気海洋研究所
  板倉 光 助教
  脇谷 量子郎 特任准教授
  木村 伸吾 教授

論文情報

雑誌名:Journal of Fish Biology
題 名:Development of a non–lethal stomach content analysis method for freshwater eels: An empirical evaluation of the tube method for Anguilla marmorata
著者名: Tatsuhiko Maeda, Hikaru Itakura*, Ryoshiro Wakiya, Shingo Kimura 
DOI: 10.1111/jfb.70198
URL: http://doi.org/10.1111/jfb.70198このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、科研費 基盤研究(A) 課題番号:21H04939、JST SPRING 課題番号:JPMJSP2108、河川財団 河川基金 課題番号:2024-5311-008の支援により実施されました。

問合せ先

東京大学 大気海洋研究所
助教 板倉 光(いたくら ひかる)
E-mail:hikaruitakuraaori.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

プレスリリース

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