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天明の飢饉の時は喜界島でも寒かった:過去432年間の日本の寒波の解明に役立つ長寿命サンゴ

2017年12月19日

川久保友太(研究当時:東京大学大気海洋研究所 博士課程学生)
横山祐典(東京大学大気海洋研究所 教授)
Chantal Alibert(オーストラリア国立大学地球科学研究所)

発表のポイント

◆ 世界最大級の喜界島ハマサンゴの元素分析により北西太平洋における機器観測記録以前の海水温(1578-2009)を季節レベルの高時間解像度で復元した。
◆ 寒冷期とされる小氷期の中でもマウンダー極小期、また天明の飢饉の時に水温低下が顕著であったことが示唆された。
◆ 黒潮続流域の海水温や西太平洋パターンと相関の高い喜界島の冬の水温を約400年間にわたり復元することで、日本に寒波をもたらす大気海洋間のフィードバック機構の理解を深める重要なデータとなった。

発表概要

機器観測記録以前の過去の気候変動を理解するため、代替指標を用いた気候復元が行われている。様々な代替指標の中でサンゴの一種であるハマサンゴは木のような年輪を持ち、夏冬の高時間解像で気候復元ができるという利点がある。特にハマサンゴ骨格中のストロンチウムカルシウム比(注1)は、水温との相関が高く、過去の水温を復元することができる。

今回、東京大学、オーストラリア国立大学の研究グループは、喜界島(奄美群島)(図1A)に生息する世界最大級のハマサンゴ(図1B・C)の骨格のストロンチウムカルシウム比を分析し、北西太平洋における小氷期(注2)を含めた過去432年間の海水温を夏冬の季節レベルの高解像度で復元した。その結果、マウンダー極小期(注3)や天明の大飢饉(注4)における顕著な海水温の低下(~1.5℃)を復元した。この記録は北西太平洋の夏冬単位の海水温記録としては世界最長となり、機器観測記録以前の自然変動を理解する上で重要な記録となる。特に、冬の海水温は黒潮続流域の海水温や東アジア域に寒波をもたらす要因となる西太平洋パターン(注5)との相関が高く(図2A・B)、大規模な大気海洋間相互作用に関する理解を深める重要なデータとなった。

発表内容

【背景および研究手法】
水温などの機器観測記録は過去100年程度に限られており、産業革命前の人為起源の温室効果ガス排出以前の自然変動の理解のためには、代替指標を用いて過去の気候を復元することが必要である。その中で、造礁サンゴの一種、塊状ハマサンゴ(Porites spp.)は100年以上生きることが知られており、木のような年輪を持つため、夏冬の季節レベルの高解像度で気候を復元できる利点がある。陸域では木の年輪を用いて過去数百年の気候復元が行われているが、復元可能な季節が特定の季節に限られているため、冬も含めて復元可能なハマサンゴは海洋域の気候復元においては有用なツールである。しかしながらハマサンゴを用いた100年を超える記録は限られており、北西太平洋域において400年を超える記録は世界最長となる。

本研究では、喜界島にて採取した世界最大級のハマサンゴ骨格中の元素分析を行うことで、北西太平洋における産業革命以前の海水温変動を復元した。ハマサンゴの炭酸カルシウム骨格へのストロンチウムの取り込みは海水温に依存しており、ストロンチウムカルシウム比を分析することで、海水温を復元することが可能である。一般的にサンゴ骨格中の元素分析を行うためには炭酸カルシウム骨格を数百マイクロ程度の粉末状に削り出したものを酸性溶液に溶解させて、質量分析計に導入する。しかし、本研究で用いたハマサンゴ試料は長尺のため、レーザーによりサンゴ骨格の表面を削り出して質量分析計に導入する方法(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて、分析時間を大幅に短縮した。

【研究成果】
喜界島ハマサンゴ骨格中のストロンチウムカルシウム比に基づき、北西太平洋において世界最長となる過去432年間の夏冬の海水温を復元した(図3)。特に小氷期の中でもマウンダー極小期における水温低下が顕著であり、天明の大飢饉においても夏の海水温の低下(~1.5℃)が顕著であったことが示唆され、北西太平洋における年単位での432年間の水温変動が初めて明らかになった。また、黒潮続流域や西太平洋パターンと相関の高い冬の水温を400年にわたって復元したことは、より長いタイムスケールでの大気海洋間相互作用の理解を深める上で、重要なデータとなった。喜界島海域の冬の水温変動は10年スケールで変動を繰り返しており、先行研究で示されているような黒潮や西太平洋パターンなどの北西太平洋域における大気海洋の10年スケールのパターンとの関連を示唆している。こうした記録が近年の寒波をもたらす一因とされている西太平洋パターンや黒潮の周期的変動を理解する上での一助となることが期待される。

分析面では、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置による分析の迅速性を生かし、同一年代に関しても複数箇所で分析を行い、測定結果の再現性を確認した。さらに高解像度で分析を行うことで、水温変動以外の生体効果に伴う影響の可能性について言及し、サンゴ中の元素変動に基づく気候復元を行う上で考慮すべき課題について考察した。また、近年の人間活動に伴うサンゴへの影響についても評価した。

【今後の展望】
本研究により、高時間解像度データの不足している北西太平洋における小氷期の水温変動を復元した。また、黒潮続流域や西太平洋パターンと相関の高い冬の水温を400年以上にわたって復元することで、近年日本に寒波をもたらすような気候モードの数十年のタイムスケールでの変動理解に貢献することが出来る。こうした機器観測記録以前の復元記録は将来の気候変動予測に向けて現状の気候モデルの精度向上にも貢献することが期待される。

発表雑誌

雑誌名:Paleoceanography (12月7日)
論文タイトル:A reconstruction of subtropical western North Pacific SST variability back to 1578,based on a Porites coral Sr/Ca record from the northern Ryukyus, Japan
著者:Yuta Kawakubo, Chantal Alibert, Yusuke Yokoyama
DOI: 10.1002/2017PA003203
アブストラクトURL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2017PA003203/fullこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析研究センター 教授
横山祐典(よこやま ゆうすけ)
Email: yokoyamaaori.u-tokyo.ac.jp       ※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

(注1)ストロンチウムカルシウム比
サンゴが炭酸カルシウム骨格を生成する際に、周囲の海水中のストロンチウムを取り込むが、この炭酸カルシウム骨格へのストロンチウムの取り込みを支配する要因としては,温度や母液の元素濃度,圧力の違いなどが挙げられる。サンゴのような地表付近に生息する炭酸カルシウム骨格では圧力をほぼ一定とみなすことができる。さらに海洋においてはストロンチウムはほぼ均一に分布していることから、サンゴ骨格中のストロンチウムの分配係数は主として周囲の海水温に依存していると考えられる。このため、サンゴ骨格中のストロンチウムカルシウム比は海水温の指標として、先行研究で広く用いられている。
(注2)小氷期
15世紀から19世紀半ばにかけての寒冷期。ヨーロッパや北アメリカで最も詳細な記録が残っており、それらの地域を中心として近年でもっとも氷河が拡大していた寒冷期として特徴づけられる。高緯度域の記録と比較して、中低緯度域の海洋域の記録は限られている。太陽活動の弱化と火山活動の活発化が小氷期の一因ではないかということが示唆されている。
(注3)マウンダー極小期
1645年から1715年頃にかけての太陽黒点が著しく減少した時期。太陽黒点は太陽表面に現れる暗い領域で,局所的に強い磁場を持ち,太陽活動の活発さの指標とされている。1800年から1824年頃にも太陽黒点の極小期が存在し、ダルトン極小期と呼ばれている。
(注4)天明の大飢饉
江戸時代中期の1782年から1787年に東北地方を中心に発生した飢饉で、江戸4大飢饉の一つとされている。
(注5)西太平洋パターン
西太平洋上の対流圏中上層高度場偏差に見られる南北双極子構造で、アリューシャン低気圧の南北移動と関連している。日本をはじめ東アジア域に寒波をもたらす要因となっており、近年その動向が注目されている。

図版

図1 A) 世界最大級の塊状ハマサンゴが生息する喜界島の位置。
   B) 喜界島から得られた塊状ハマサンゴの水中写真。
   C) 塊状ハマサンゴ骨格断面のX線写真。

図2 A) 冬の喜界島海水温と北西太平洋海水温の相関図(1982-2016年の1°×1°月平均海水温データを使用)。
   B) 冬の北西太平洋海水温と西太平洋パターンの相関図(1950-2017年のデータを使用)。

図3 喜界島における過去432年間の水温変動。ハマサンゴ骨格中のストロンチウムカルシウム比分析結果に基づき復元。

研究トピックス