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鮮新世から更新世への移行が渡り鳥の種分化に及ぼした影響:公共データベースを用いた検証

2017年9月20日

平瀬 祥太朗(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター生物遺伝子変動分野 特任研究員
(現・大学院農学生命科学研究科 助教))
横山 祐典(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター古環境変動分野 教授
(本務・高解像度環境解析研究センター環境解析分野))
岩崎 渉(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター生物遺伝子変動分野 准教授
(本務・大学院理学系研究科))

地球環境の大規模な変動は生物の進化に大きな影響を与えたと考えられています。とりわけ、約250万年前の鮮新世・更新世境界後に激しさを増した氷床の拡大と後退、寒冷化と温暖化の繰り返しは、現在見られる個々の生物の進化はもちろん、それらの進化のトレンドそのものに大きな影響を与えた可能性があります。このような影響について理解を深めておくことは、将来起こる環境変動が生物多様性にどのような影響を及ぼすかを検討する上で重要になります。

渡り鳥は繁殖地と越冬地を行き来するために長い距離を移動する鳥で、日本列島においては、市街地で巣作りするツバメや干潟に渡来するハクチョウとして馴染みがある方も多いと思います。これまで、多くの渡り鳥が生息する北アメリカでは、渡り鳥の進化プロセスに関する研究が特に盛んに行われてきました。北アメリカにおける渡り鳥の進化プロセスに関してはさまざまな仮説がありますが、大きく分けて二つの仮説が提唱されています。一つは、北アメリカの渡り鳥は中央・南アメリカにいる留鳥が、更新世の間氷期の温暖化に伴って生息地を北アメリカに広げることで進化したという仮説です。北アメリカの多くの渡り鳥は、越冬地である中央・南アメリカとの長距離移動を行いますから、南部の越冬地が起源ということになります(Southern home theory)。もう一つは、北アメリカに留鳥として生息していた種が、更新世氷期の寒冷化によって中央・南アメリカで越冬するようになり、渡り鳥となったという仮説で、北部の繁殖地が起源ということになります(Northern home theory)。いずれの仮説においても、更新世における温暖化や寒冷化などの急激な環境変動が多くの渡り鳥の進化の引き金となったとされています。しかしながら、実際に渡り鳥の進化が更新世に加速したのかどうかについては、ほとんど検討されてきませんでした。

我々は、北アメリカの近縁な留鳥と渡り鳥の種が分岐した年代のパターンを俯瞰的に調べることでこの点について検証できると考え、ミトコンドリアDNAのシトクロームb遺伝子の塩基配列を用いた「メタ分子系統学解析」を行いました。まず、渡り鳥を含む複数の属の分子系統解析の学術論文を調査し、もっとも最近に分岐したと考えられる近縁な渡り鳥と留鳥のペアを選び出しました。そして、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のデータベースから取得したそれらの生物種のミトコンドリアDNAのシトクロームb遺伝子の塩基配列を用いて、生物種の分岐年代を推定しました。

分岐年代の推定には「分子時計」を利用しました。これは、DNAの塩基配列の変異が一定の速度で起こること(分子進化速度の一定性)を利用し、生物種の塩基配列を比較することで、それらが分岐した年代を推定する方法です。鳥類のミトコンドリアDNAのシトクロームb遺伝子の塩基配列の分子進化速度はおおよそ2%/100万年であると推定されていますが、これは、例えば2種で塩基配列を比較して2%の違いがあった場合、およそ100万年前に分岐したと推定できることを意味しています。

解析の結果、まず、北アメリカの渡り鳥同士の種分化については、環境変動の激しくなった更新世の間に加速されていたことがわかりました(図1A,B)。更新世においては、北アメリカは氷床に覆われ、渡り鳥の繁殖地は地理的に分断されていたと推測されます。したがって、このような地理的障壁の存在が種分化を駆動したと考えられます。実際に、近縁な渡り鳥ペアの分布域は、更新世に氷床に覆われていた地域と一致する傾向が見られました(図2)。一方で、北アメリカの渡り鳥と中央・南アメリカの留鳥の間の種分化については更新世の間に加速されておらず、これまでの仮説と異なり、鮮新世・更新世を通じて一定間隔で種分化が起こっていたことを見出しました。では、なぜ留鳥から渡り鳥への進化が更新世に加速しなかったのでしょうか?今となっては推定することしかできませんが、例えば、更新世においては北アメリカと中央・南アメリカ間の温度差が大きくなったことが明らかになっており(図1C)、このような環境の差が、中央・南アメリカの留鳥が渡り鳥となって北アメリカで定着し種へと進化することを妨げたのかもしれません。

本研究は、公共のデータベースに登録されたDNAデータと古環境データのみを使用して行いました。近年、生物学分野のデータベースは急激にデータ量を拡充しており、他分野の研究者とも連携して解析を行うことで、多様な生物の生き様や進化の歴史に関する仮説を改めて検証したり、大規模なデータに基づく新たな仮説を提唱したりすることが可能な時代になってきました。私たちは、今後も様々な分野の研究者と協力し、データベースを活用した新しい研究スタイルに挑戦していければと考えています。

発表雑誌

雑誌名:Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
論文タイトル:The Pliocene-Pleistocene transition had dual effects on North American migratory bird speciation
著者:Shotaro Hirase, Yusuke Yokoyama, Cin-Ty Lee, Wataru Iwasaki
DOI: 10.1016/j.palaeo.2016.09.006

問い合わせ先

平瀬 祥太朗(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター生物遺伝子変動分野 特任研究員(現・大学院農学生命科学研究科 助教))
Email: ashirasemail.ecc.u-tokyo.ac.jp
横山 祐典(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター古環境変動分野 教授(本務・高解像度環境解析研究センター環境解析分野))
Email: yokoyamaaori.u-tokyo.ac.jp
岩崎 渉(東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター生物遺伝子変動分野 准教授(本務・大学院理学系研究科))
Email: iwasakibs.s.u-tokyo.ac.jp       ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

図版

図1: A.北アメリカの近縁な渡り鳥同士の分岐年代(上)と近縁な北アメリカの渡り鳥と中央・南アメリカの留鳥の分岐年代(下)。B. 過去の地球上の氷床量。海底近くに生息する有孔虫の殻に残された酸素同位比変化で復元できる。過去5百万年間の記録は世界中の深海底の試料を採取し、その中から有孔虫を拾い出して分析する。ローカルなシグナルを除去するため、50以上の試料の平均データを示している。C.北米氷床周辺海域(地点1124)と赤道及び南半球低緯度(地点846と1237)の表層水温の違いの変化。更新世に入ってから温度差が拡大していることがわかる。

図2: 北アメリカの近縁な渡り鳥ペアの分布域。グレーで示された地域は、更新世氷期に氷床に覆われていた地域を示す。

研究トピックス