東京大学海洋研究所

全国共同利用・共同研究拠点

ナビゲーションを飛ばす

go to english page

facebook_AORI facebook_AORI

  • ホーム
  • 研究所概要
  • 教員&スタッフ
  • 研究活動
  • 共同利用
  • 進学希望の方へ
  • アクセスマップ

流れに応じて浮力と泳ぎ方を変える外来ナマズ

2017年4月7日

吉田誠(東京大学 大学院農学生命科学研究科|大気海洋研究所)

発表のポイント:

◆外来魚アメリカナマズが、生息場所の流れ環境に応じて最適な浮力状態および泳ぎ方を選択していることを明らかにした。
◆野外でみられる魚の遊泳行動を浮上時と潜降時で比較し、浮力状態を推定する新たな手法により、同種の魚であっても、すむ環境に応じて浮力や泳ぎ方を変えることを初めて明らかにした。
◆本種が外来種としてさまざまな環境に適応できる能力をもつことが明らかになったと同時に、国内の水域における本種の効果的な駆除方法の開発につながると期待できる。

発表者:

吉田誠(東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻|東京大学大気海洋研究所行動生態計測分野 博士課程3年)

発表概要:

生態系への外来種の侵入は、近年ますます大きくなりつつある課題の一つです。日本国内の湖や河川では、ブラックバス、ブルーギルにつぐ第3の肉食性外来魚チャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ)が侵入し、分布を広げつつあります。かれらは水産上重要な生物を捕食したり、ひれの鋭いトゲで漁師にケガを負わせたりと、厄介な害をもたらすだけでなく、侵入先の生物や生態系に大きな影響を与えると懸念されています。しかし、今日にいたるまで適切な対策がとられておらず、そもそも、野外でのかれらの生態、特に河川での行動は全く分かっていませんでした。

東京大学大気海洋研究所の吉田誠大学院生、佐藤克文教授と豊田市矢作川研究所との合同チームは、アメリカナマズの遊泳行動から、これらの魚が保持する浮力を推定することで、かれらの省エネルギーな遊泳方法と多様な流れ環境への適応性を明らかにしました。

チームはアメリカナマズに小型の行動記録計を装着し、野外での遊泳行動を記録しました。上向きおよび下向きに泳ぐ魚の尾びれを振る強さから、魚が水中で上向きに受ける浮力の大きさを推定することができました。流れのない湖にすむアメリカナマズは、水から受ける浮力が小さく、湖底付近に滞在し、体の重さを活用して尾びれを振らずに潜るグライディング遊泳を行なっていました。いっぽう、河川にすむアメリカナマズは、体重を支える十分な浮力をもち、尾びれを振りつつさまざまな深度帯を泳いでいました。

これまで、湖の魚は浮力で体重を支えるいっぽう、川の魚は流れに耐えるため、浮力を小さくして川底付近でじっとしていると考えられてきましたが、アメリカナマズは全く逆の傾向を示しました。これは、かれらが流れの有無だけでなく、えさとなる生物の分布する深度も加味して生活場所を選択し、適切に浮力を調節する能力をもつことを示しています。さらに、外来種でもあるアメリカナマズの行動様式の一端が明らかになったことで、今後、かれらの行動特性を考慮した、より効果的な駆除方法の開発にもつながることが期待されます。

発表内容:

【背景】
水中を泳ぎまわる多くの魚類は、鰾(うきぶくろ)に空気をためて浮力を得ることで自らの体重を支え、泳ぐ際のエネルギー消費を低く抑えることが知られています。いっぽう、十分な浮力の得られない状況下においても、尾びれを振らずに潜降する「グライド遊泳」を活用することで、移動コストを低減できる可能性が理論的に示唆されています。日本国内の複数の水系で近年定着しつつあるアメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)は、気道とつながった鰾をもつ開鰾魚(かいひょうぎょ)で、口から空気を飲み込んだり吐き出したりすることで、鰾内の気体量を速やかに変化させて自身の浮力を調節する能力を持っています。過去に行なわれた研究で、アメリカナマズはグライド遊泳により移動コストを大幅に抑えられると予測されており、この効率的な遊泳方法をもつことが、本種が国内で湖沼から河川まで幅広い環境に分布を広げられた要因のひとつと考えられます。

【研究内容】
東京大学大気海洋研究所の大学院生吉田誠および佐藤克文教授のグループは、湖と河川にくらすアメリカナマズの行動を解析することで、流れの有無に応じた彼らの泳ぎ方がわかると考えました。そこで、行動記録計を装着したアメリカナマズ(図1)を野外の河川および湖沼に放流し、回収した記録計から得られた遊泳時の行動データを元に、本種がどのような浮力状態を選択し、どの程度の頻度でグライド遊泳を活用しているかを解析しました。さらに、流れのある河川と流れのない湖で魚の浮力状態や遊泳行動を比較し、異なる環境下でそれぞれどのように振る舞っているかを検証しました。

魚が水中で十分な浮力をもつ場合、体にかかる重力は相殺されており、浮上時も潜降時も、同じ遊泳努力量で同じ速度に達すると考えられます。いっぽう、浮力が小さい場合には、魚は下向きの重力を受けつつ泳ぐため、同じ速度に達するために必要な遊泳努力は、潜降時に小さく、浮上時に大きくなると考えられます。このように、潜降時と浮上時の遊泳強度の違いを検出することで、魚の浮力状態を推定することができます(図2)。霞ヶ浦の個体は自らの重さを支えるだけの浮力をもたず(負の浮力)、体が水より重い状態にあった一方、河川の個体は自重を支えるだけの浮力をもち(中性浮力)、体密度は水とほぼ同等の状態にありました。

さらに、尾びれを振らずに潜るグライド遊泳は、①泳ぐ深度が深くなるほど、②肥満度が小さい(=体密度が大きい)個体ほど、より多くみられました。これは、深場で高い水圧がかかって鰾内の空気が圧縮されたり、個体がやせていたりすることで浮力が小さくなり、水中で受ける重力が大きくなる分、楽にグライド遊泳できることを示しています。さらに、グライド遊泳が③河川よりも湖で多くみられたことから、湖のアメリカナマズは体を水より重い状態に保ち、積極的にグライド遊泳を活用していると考えられました(図3)。いっぽう、河川にすむアメリカナマズは、流れに逆らって尾びれを振り続ける必要があり、受動的なグライド遊泳をするのは困難だったと考えられます。そもそも、体が水より重い状態で尾びれを振り続けるには体を持ち上げるエネルギーが余分に必要となることから、流れのある河川では、中性浮力を保持することで消費エネルギーを抑えていると考えられました。

過去に小型の淡水魚を対象として行なわれた研究では、流水中では体を水より重くして川底にじっと留まり、止水では中性浮力で体を支えて遊泳コストを下げるとされてきましたが、本研究では逆の結果となりました。霞ヶ浦では、湖底付近で底生動物を採餌することが報告されています。一方、河川では上流から流下する生物が食性の中心と報告されており、水面から川底まで鉛直方向に広く探索する必要があるために、体を支えるのに余分な力を必要としない、中性浮力の状態を選択していると考えられます。このように、アメリカナマズは単に流れを避けるのではなく、流れの有無で異なるエサ環境に応じて、適切な浮力状態および遊泳方法を選択し、消費エネルギーを抑えていると考えられます。

【社会的意義・今後の課題】
この研究では、淡水域に広く生息する魚の泳ぎ方と浮力を初めて野外で計測し、流れの中にくらす魚の泳ぎ方に関する定説を覆す発見がありました。これまでの研究で、野外で暮らす動物たちが、環境のコントロールされた飼育下とは異なる振る舞いをすることが知られています。川の流れがそこに暮らす生物にどの程度影響を与え、動物たちがどのように振る舞っているか、特にどれだけ「省エネな」暮らしを送っているかを理解する上で、今後はより定量的な研究を進めていく必要があります。

さらに、外来種でもあるアメリカナマズの行動様式の一端が明らかになったことで、今後、かれらの行動特性を考慮した、より効果的な駆除方法の開発にもつながることが期待されます。

発表雑誌:

雑誌名:Journal of Experimental Biology 220: 597-606
論文タイトル:Physostomous channel catfish, Ictalurus punctatus, modify buoyancy and swimming mode according to flow conditions.
著者:Makoto A. Yoshida*, Daisuke Yamamoto, Katsufumi Sato
DOI番号:doi:10.1242/jeb.140202
アブストラクトURL:http://jeb.biologists.org/content/220/4/597#abstract-1

問い合わせ先:

吉田 誠 makaori.u-tokyo.ac.jp     ※メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

図表:

図1. 行動記録計を装着したアメリカナマズ。行動データは記録計の内部に記録されるため、実験後は記録計を回収する必要があります。そこで、一定時間後に作動する自動切離しタイマーと、位置を知るためのVHF電波発信器を束ねて浮力体に埋め込み、プラスチック製のケーブルタイで魚の背中部分にとりつけました。

図2. 中性浮力をもつ魚は、自身にはたらく下向きの重力と上向きの浮力がつりあっているため、浮きも沈みもしない状態にあります。いっぽう負の浮力をもつ魚は、自身にかかる重力を相殺しきれず、下向きに力を受けているため、浮上するのが大変な反面、尾びれを振らずに楽に潜降する「グライド遊泳」が可能になります。

図3. 尾びれを振らずに泳ぐグライド遊泳の発生頻度を深度ごとに集計したところ、湖(左の6個体)ではグライドが多くみられ、河川(右の5個体)ではグライドは少なくなっていました。同じ個体の中では、浮上時(A)と比べて潜降時(D)にグライドが多いことから、負の浮力をもつ湖の個体が、潜降時にグライド遊泳を活用していることがわかりました。

研究トピックス