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海底熱水に含まれる揮発性物質の起源:熱水性鉱石に閉じ込められた流体を分析することで、揮発性物質の地球深部循環を探る

2016年6月21日

大城 光洋 (東京大学 大気海洋研究所 元大学院生)
鹿児島 渉悟(東京大学 大気海洋研究所 助教)
高畑 直人 (東京大学 大気海洋研究所 助教)
石橋 純一郎(九州大学 理学研究院 准教授)
LAN Tefang(台湾中央研究院 地球科学研究所 博士研究員)
GUO Zhengfu(中国科学院 地質地球物理研究所 教授)
佐野 有司 (東京大学 大気海洋研究所 教授)

発表のポイント

◆新しい資源として注目される海底熱水性鉱石の流体包有物に含まれる希ガスや炭素、窒素の同位体を分析した。
◆これまでは、海底熱水噴出孔からの高温海水や遊離ガスを採取・分析しており、大気成分による汚染を防いだ試料の採取が難しかった。
◆多様な海洋底試料を分析することで、プレートの沈み込み帯における揮発性物質の循環を明らかにすることが可能になる。

背景および研究手法

地球の大気や海洋は、地球内部から揮発性元素が脱ガス・蓄積して誕生した。現在もなお、火山や海底熱水活動を通じて、希ガスや炭素・窒素といった揮発性元素が地球内部から水圏や大気圏に供給されている。これらの揮発性元素の起源やフラックス(注1)を知ることは、大気や海洋の起源に加えて揮発性元素の地球規模の循環を考える上で重要である。

火山や熱水活動は主にプレートの境界に存在し、陸上だけではなく海底にも大きな火山活動が存在する。一番大きな海底火山活動は中央海嶺に見られるが、プレートの沈み込み帯も熱水活動が多く見られる地域であり、そのほとんどが西太平洋に分布している。しかし海底は試料採取の難しさなどによる理由から、沈み込み帯の海底熱水活動における揮発性元素の同位体組成に関する研究は少なく、海底熱水活動を通じた揮発性元素の物質循環についてはよくわかっていない。

東京大学と九州大学などの研究グループは、海底熱水性鉱石に含まれる揮発性元素(希ガス、炭素、窒素)に着目し、西太平洋のプレート沈み込み帯における揮発性元素の起源や収支を明らかにした。同グループはこれまでに中央海嶺玄武岩や火山性ガスを用いて揮発性元素の収支に関する研究を行っており、本研究はその手法を海底熱水性鉱石に応用したものである。

熱水性鉱石に含まれる気体は極微量のため、大気や洗浄液などの汚染をできる限り少なくし、高感度の分析を行う必要がある。そのための手法を開発し、工夫をすることで、高精度高感度の分析を可能にした。試料は金属製のボールミルに入れて真空にした後、ボールミルを振ることで鉱石に閉じ込められていた揮発性の気体を抽出し、水などの不純物を取り除いて精製してから、専用の質量分析計で希ガスや炭素、窒素の同位体を分析した。

研究成果

本研究では、沈み込み帯における海底熱水活動による揮発性元素の物質循環について考察することを目的として、西太平洋の沈み込み帯に位置する4つの海底熱水活動域(沖縄トラフ、伊豆—小笠原弧、マリアナトラフ、ラウ海盆)と東北日本海側に分布する黒鉱鉱床から採取した(図1)熱水性鉱石の流体包有物中に含まれる希ガスと窒素、炭素に着目した。この包有物中に捕らえられた流体が、熱水の組成を表していると考えられる。海底熱水活動域の熱水性鉱石試料は無人潜水調査艇ハイパードルフィンや大深度有人潜水調査船しんかい6500(海洋研究開発機構)を用いて採取した。

分析の結果、熱水性鉱石中包有物のヘリウム同位体比(3He/4He比)は、沖縄トラフやマリアナトラフで低く、伊豆—小笠原弧やラウ海盆で高い結果となった(図2)。これはテクトニックセッティングの違いを表していると考えられ、前者は背弧(注2)、後者は島弧(注3)の火山活動の特徴を示している。窒素もヘリウムと同様の特徴が見られたが、アルゴンと炭素についてはテクトニックセッティングの違いでは説明できなかった。炭素についてみてみると、沖縄トラフやマリアナトラフでは堆積物由来の成分が多いのに対し、伊豆—小笠原弧やラウ海盆ではマグマ由来の成分が多いことがわかった。さらに3Heのフラックスを基にして、炭素のフラックスを見積もったところ、沖縄トラフは伊豆—小笠原弧より桁違いに多く、沖縄トラフでは沈み込んだ炭素がリサイクルしているというよりも海底表層に存在する堆積物からもたらされている可能性が高いことが考えられた(図3)。

今後の展望

熱水性鉱石に閉じ込められた流体包有物は極微量であるが、そこに含まれる揮発性元素の元素組成や同位体組成を明らかにすることに成功した。これまでは海底熱水そのものや、噴出孔から放出される遊離ガス、あるいはガスが多く含まれる海嶺玄武岩を採取して、海底熱水の組成を調べていたが、熱水性鉱石もそれを調べるための試料となることを示した。

プレートの沈み込み帯で見られる熱水活動のほとんどが分布していると言われる西太平洋で、希ガスや窒素、炭素といった揮発性元素の物質循環を明らかにした。中央海嶺からの物質循環と組み合わせれば地球全体の循環を考えることができ、大気や海洋の起源、進化を考察する上でも重要な情報になるであろう。

発表雑誌

雑誌名:Geochemistry, Geophysics, Geosystems
論文タイトル:Volatile element isotopes of submarine hydrothermal mineral deposits in the Western Pacific
著者:M. Ooki, T. Kagoshima, N. Takahata, J. Ishibashi, T. Lan, Z. Guo and Y. Sano
DOI番号: 10.1002/2016GC006360
アブストラクトURL: http://dx.doi.org/10.1002/2016GC006360

問い合わせ先

佐野 有司
東京大学大気海洋研究所教授
E-mail: ysanoaori.u-tokyo.ac.jp     ※「◎」は「@」に変換して下さい。

用語解説

注1)フラックス:単位面積あたり、単位時間あたりに移動する物質量。
注2)背弧:プレートの境界域に形成され、沈み込むプレートから見て境界の反対側にある海洋底拡大軸。島弧より後ろ側に位置する。
注3)島弧:プレートの沈み込みに伴うマグマの生成により、プレート境界域に形成される弧状の島々。

添付資料:

図1.熱水性鉱石試料の採取地点(沖縄トラフ、伊豆—小笠原弧、マリアナトラフ、ラウ海盆、黒鉱鉱床)。(a)全体図、(b)日本近辺の拡大図、(c)ラウ海盆の拡大図。

図2.海底熱水性鉱石の流体包有物中のヘリウムとアルゴンの同位体比。色の違いは採取場所の違いを示す。伊豆−小笠原弧やラウ海盆の3He/4He比は沖縄トラフやマリアナトラフより高い値を示し、テクトニックセッティングの違いを反映している。

図3.沖縄トラフと伊豆−小笠原弧における、揮発性元素の循環図。希ガスや炭素、窒素の同位体の分析からその起源やフラックスを明らかにした。沖縄トラフでは厚い堆積物で覆われているために、海底熱水には堆積物由来と考えられる炭素が多く含まれている。

研究トピックス