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東北海洋生態系調査研究船(学術研究船)「新青丸」、初の研究航海

2013年12月16日

木暮 一啓・永田 俊(東京大学大気海洋研究所)

サンプル

東北海洋生態系調査研究船(学術研究船)「新青丸」KS13-01次航海(主席研究員 木暮一啓教授)が無事終了しました。本航海は、共同利用(注1)の枠組みで実施される、記念すべき第1回目の研究航海です。学術研究船「淡青丸」の後継船としての「新青丸」の活躍が、本航海を皮切りにいよいよ本格的に始まることになります。最新鋭の機能を搭載した「新青丸」が運用を開始したことで、我が国の沿岸海洋研究の新時代の幕が切っておとされたといえます。

本航海の目的は?

本航海は、「東北マリンサイエンス拠点形成事業」(http://www.i-teams.jp/)の研究航海として実施されました。微生物、浮遊生物、底生生物、生元素動態、環境計測、汚染物質動態を専門とする複数分野の研究者が力を合わせて、震災後の、三陸沿岸海洋生態系の現状と回復過程の総合的な調査を行うのが主目的です。

本航海での乗船研究者は?

本航海の乗船研究者は14名で、そのうち3名は女性研究者でした。東京大学からのほか、静岡大学と東京農工大学からも研究者が乗船しました。

本航海では観測は無事にできましたか?

「新青丸」は2013年12月8日に横須賀港を出港しましたが、あいにく、大陸からの強い寒波のはりだしのため、一時は秒速30mを超える荒天のなかで、しばしば待機を余儀なくされました。10日から13日にかけて、暴風を避けながら、三陸の岸沿いに航走し、女川湾、大槌湾、釜石湾の観測を実施しました。海況がやや回復した14日には、そのわずかな凪の間を逃さず、女川湾の沖へと船を走らせ観測を実施しました。その後、16日に、無事、東京港(晴海)に帰港しました。

このように全般的に海況は悪かったのですが、「新青丸」の安定性のよさには驚かされました。これは注意深く設計された船の構造や優れた操作性能、また、減揺装置(船体の横揺れを軽減する装置)によるものと思います。船が揺れにくいということは、甲板での観測作業や、船内でのサンプルの処理や実験を行う研究者にとって大変にありがたいことなのです。また、船長はじめ、船の乗組員みなさんの真摯なご努力で、すべての観測が無事完了できたことに、研究者一同感謝しております。おいしい食事やきれいなお風呂など、船内生活も大変快適でした。

なお、11日には、1名の研究者が大槌湾で途中下船しました。大槌は本船の船籍港ですが、震災で被害を受けた後まだ港の復旧が完了しておらず、「新青丸」が接岸できません。そこで、大槌湾内の蓬莱島の近くに停泊し、調査船「グランメーユ」(http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/aori_news/information/2011/20110831.html)による通船を行いました。  

本航海ではどんなことを調べましたか?

「CTD」観測(注2)を行い、水温、塩分、クロロフィル、溶存酸素、透過度の鉛直分布を調べました。また、さまざまな深さで採水を行い、微生物群集(遺伝子解析用の試料)や化学成分(各種栄養塩類や溶存態有機物、懸濁態有機物、溶存態無機炭素などの濃度や同位体比)を測定するためのサンプリングを行いました。

 

「ノルパックネット」(注3)を使って、プランクトン試料を採取しました。

 

「マルチプルコアラー」(多試料柱状堆積物採取装置、注4)をつかって、堆積物試料を採取しました。この試料は、底生生物の組成や、汚染物質の分析に用います。

 

「6周波計量魚群探知機」(注5)と「全周型スキャニングソナー」(注6)を使って「新青丸」の下あるいは周辺の魚群の分布や密度を調べました。なお、我が国で6周波数の計量魚探を搭載しているのは「新青丸」だけです。

本航海で何がわかりましたか?

本航海で採取された様々なサンプルやデータは、実験室に持ち帰り、これから分析や計数を行います。このようにして得られた生物的・化学的・物理的なデータは、生態系の状態を診断し、また、三陸沿岸海域の生態系モデルを作るうえでの重要な基礎資料となります。本航海と同様な研究航海は、2014年以降も継続的に実施することが計画されており、季節的な変化あるいは経年的な変化を調べるための、高精度なデータが、これから着々と蓄積されていくことになります。データはできるだけ速やかに公開し、またそこから得られた新しい科学的な知見もわかりやすくご紹介していきますので、今後をご期待ください(「プロジェグランメーユ」ウェブサイトhttp://teams.aori.u-tokyo.ac.jp/ で、東北の海に関する研究のようすをお知らせしています。ぜひご覧ください)。

以上ご説明したように、本航海で得られた成果がでてくるのはまだ少し先になりますが、「新青丸」は、最新鋭の機能を備えた研究船なので、船上で、リアルタイムで得られる情報の中からも、これはおもしろいと思わせるものがでてきます。そのひとつをご紹介しましょう。以下の写真は、釜石湾で6周波計量魚群探知機がとらえたシグナルです。帯状の反応(赤矢印)は海底を示し、帯状の反応より上に見られる反応(黄矢印)は魚群を示しています。どうやら、本船が観測のために停泊中に、黄色い矢印で示された魚群が、海の底の付近や中層のあたりを行ったり来たりしているようです。このようなデータを詳細に解析し、研究を進めることで、将来、新しい資源調査法の開発につながるかもしれません。


注1:学術研究船の運用(共同利用)においては、全国の研究者コミュニティーによるボトムアップ型の研究を推進します。全国の研究者からの研究提案書の申請を受けて、研究船共同利用運営委員会(所内外の専門家)による採択・不採択(案)の審議を行います。その結果をふまえて仮の航海計画を立て、最終的に大気海洋研究所協議会において審議、承認の後に、採択課題について研究航海を実施します。

注2:「CTD」とは「Conductivity (電気伝導度)-Temeperature(水温)-Depth(深さ)センサー」の略称です。電気伝導度と水温のデータを使って、塩分を計算することができるので、CTDとは、「海の深さごとに塩分と水温を自動測定するため装置」だということになります。塩分と水温は、海洋学における最も基本的な測定項目なので、CTD観測は、観測地点に到着したら最初に行う重要な観測なのです。普通は、写真にあるような採水器にCTDをつけて、CTD観測と層別の採水を同時に行います。また最近は、塩分と水温以外の項目(クロロフィル、溶存酸素、透過度など)を同時に測定するいろいろなセンサー群をあわせて搭載することが多くなっていますが、海洋観測では慣例的に「CTD観測」という呼称が使われています。

注3:「ノルパック(NORPAC)ネット」とは、ノルパック式のプランクトンネット、すなわち「北太平洋標準ネット」(North Pacific Standard Net)の通称であり、我が国では動物プランクトン採集において最も一般的に使用されています。今回は、「ノルパックツイン」と呼ばれる2枚のネットを取り付けることができるフレームを使用し、海底直上、または深度150メートルから鉛直曳きによって動物プランクトンを採集しました。

注4:「マルチプルコアラー」とは多試料(マルチプル)の柱状堆積物(コア)を定量的に採集する機器です。通称「マルチ」といいます。本航海で使用したマルチでは、一度に8本の柱状サンプルを得ることができます。海底堆積物の表面はフワフワしているのですが、この部分を乱さずに採集できるので、表層の生物を調査するには最適な機器です。また、海底に溜まった化学物質の分析や、堆積過程の解析にも用いられます。

注5:「魚群探知機」とは、非常に高い周波数の超音波を海中に発信し、その音波が魚群や海底などに当たり、反射してきた音波を捉えることによって、船の直下の魚群や海底の水深を測る機器です。「計量魚群探知機」(以下、「計量魚探」)は、魚群などから反射してきた音波の強さ(反射強度)を定量的に測ることができ、測定した反射強度から魚群の密度を推定することができます。「新青丸」には、6周波数の計量魚探が搭載されています。これは、簡単に言うと、周波数の違う6つの超音波を同時に使用することで、同じ魚群に対して周波数に応じた反応の違いを見ることができます。この違いを利用することで、魚群とプランクトンを識別したり、どんな種類の魚がいるかを特定したりできる可能性があり、近年、盛んに研究されています。

注6:「全周型スキャニングソナー」(以下、「全周ソナー」)とは、魚群探知機と同様、超音波を海中に発信し、魚群などから反射してきた音波を捉えることで、魚群の位置やその大きさを測る音響機器です。魚群探知機が船の直下に向けて超音波を発信するのに対し、全周ソナーは、船の周囲360度の水平方向に超音波を発信することで、船の周囲にいる魚群を捉えることができます。「新青丸」に搭載されている全周ソナーの特徴として、水平方向と同時に、鉛直方向にも超音波を発信でき、船の直下方向の断面を探索できることがあげられます。下の図の例では、自船の右斜め前方の魚群の水平方向と鉛直方向の広がりを捉えることができています。この広がりから、魚群の体積を推定することができます。さらに、「新青丸」搭載の全周ソナーは、計量魚探と同様、魚群からの音波の反射の強さを計測することができ、魚群密度の推定も行うことができます。

写真は、全周ソナーの画像です。緑の丸で囲まれた範囲が水平方向に発信した超音波で探査した範囲であり、その中心の船型のマークは「新青丸」の位置を表しています。船型のマークの後方に映る赤い反応は、船の航走により生じた泡です。また、船型のマークの右斜め前方に魚群反応が確認できます。画像下部の映像(黄枠部)は、鉛直方向に発信した超音波で探査した範囲を示し、赤い帯状の反応は海底です。右側の海底より上に映っている赤い反応は魚群であり、船型のマークの右斜め前の魚群の反応と同一のものです。

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