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宇宙線照射生成核種を用いた高精度の古環境復元

2009年6月

海洋底科学部門 海洋底テクトニクス分野2

サンプル


 

◎宇宙線照射生成核種とは
 

地球に降り注ぐ宇宙線と大気中または地表付近の岩石中の元素と相互作用により宇宙線照射生成核種(10Be, 26Al and 36Cl etc.)を生成します。その核種生成量から、大気中では宇宙線の強度をコントロールする地球相極子や太陽活動の変動を、また地表面の岩石中では、地表面の侵食速度や氷床後退後の露出年代(表面照射年代法)を定量的に算出することが可能です。 この宇宙線照射生成核種による高精度の環境アーカイブは、全球的気候変動メカニズムに対する定量的な考察への重要な情報を与えています。

■ 南極ドームふじ氷床コア中の宇宙線生成核種から探る過去の宇宙線強度変動
 

地理的に異なる場所同士の気候変動のタイミングを決定することは、グローバルな気候のメカニズムを理解する上で非常に重要です。10Beや26Al、36Cl等の宇宙線生成核種は銀河宇宙線によって絶えず大気中で生成されています。銀河宇宙線は地球双極子磁場や太陽活動によって変化するので、極域の氷床コアから過去の宇宙線生成核種のフラックス変動を復元することで過去の地磁気強度や太陽活動の変動を復元することが可能になります。特に数万年のタイムスケールで起こる地磁気エクスカーションに対応する深度を分析することで氷床コアに正確なタイムマーカーを提供し、他の古気候アーカイブとの比較が可能となります。

我々のグループは東京大学MALTの加速器質量分析計を使用して、南極ドームふじで採取された氷床コア中に極微量に含まれているこれらの宇宙線生成核種を分析しています(図1、2)。過去約4万年前に起こったとされるラシャンプ地磁気エクスカーションの時代には顕著な10Be濃度の増加が検出されました。これは同じ南極のドームC基地で掘削された氷床コア中の10Beの結果とも非常に良く似ており、10Beピークがグローバルなタイムマーカーとして非常に優れていることが確認されました。

試料採取地点の南極ドームふじ

図1:試料採取地点の南極ドームふじ(

試料の氷床コア

図2:試料の氷床コア;化学分析用に等間隔でカッティングする

 

■ 表面照射年代測定法から明らかになった南極氷床の最終退氷の時期
 

表面照射年代法は、二次宇宙線の作用により地表面に露出している岩石の石英中に生成される宇宙線照射生成核種の濃度から、地表面が宇宙線にさらされた期間 (露出年代) を直接求める手法です (横山ほか, 2005)。石英中で生成される宇宙線照射生成核種の量は極めて少ないため、この手法は、加速器質量分析 (Accelerator Mass Spectrometry; AMS) が地球科学において利用されるようになってから発展し、地質学分野や地形学分野で成果を挙げてきました。これにより、大きな発展が期待される分野の一つに、南極氷床の最終退氷の時期に関する研究が挙げられます。南極の場合、モレーンなどの氷床変動の記録は陸上にほとんど残っていません (Anderson et al., 2002)。また、南極周辺海域から得られた試料への放射性炭素 (14C) 年代測定法の適用には、いくつか問題点が指摘されています (例えばBerkman and Forman, 1996; Ohkouchiet al., 2003)。このような理由から、南極氷床の最終退氷の時期は未だ不確定性が残っています。表面照射年代法を露岩域で採取した試料に適用することによって、その地域の過去の氷床変動を直接復元することができます。

我々の研究グループは、東京大学工学系研究科国際原子力専攻のタンデム型加速器を利用して、東南極リュツォ・ホルム湾の露岩域から採取された基盤岩試料と迷子石試料(図3)の10Be (半減期 = 136万年) と26Al (半減期 = 70万年) の定量を行ない、この地域における氷床変動の研究を進めました。東南極のマック・ロバートソンランド (Mackintosh et al., 2007)、西南極のマリー・バードランド (Stone et al., 2003; Johnson et al., 2008)、南極半島 (Bentley et al., 2006) でも、この手法を用いた最終退氷の時期に関する研究が行われています。これらの研究から、(1) 南極のどの地域でも最終退氷の時期は完新世(1万年以降) である可能性が高いこと、(2) 東南極氷床は西南極氷床や南極半島氷床より気温の変化など、氷期の終焉によりもたらされた環境変化に対して、相対的に安定していたことが示唆されました。

Anderson et al. (2002) Quaternary Science Reviews, 21, 49-70. 
Bentley et al. (2006) Geological Society of America Bulletin, 118, 1149-1159.
Berkman and Forman (1996) Geophysical Research Letters, 23, 363-366.
Johnson et al. (2008) Geology, 36, 223-226.
Mackintosh et al. (2007) Geology, 35, 551-554.
Ohkouchi et al. (2003) Radiocarbon, 45, 17-24.
Stone et al. (2003) Science, 229, 99-102.
横山 (2002) 地学雑誌, 111, 883-899.
横山ほか (2005) 地質学雑誌, 111, 693-700.

東南極リュツォ・ホルム湾の露岩域からの迷子石の採取

図3:東南極リュツォ・ホルム湾の露岩域からの迷子石の採取(写真提供:前杢英明 広島大学教授)

 

■ 宇宙線照射生成核種(10Be, 26Al)を用いた南米、チリ・アタカマ砂漠における地表面浸食速度の定量
 

地球表層プロセスの重要なコンポーネントの一つである地形発達(浸食や削剥、堆積)は、気候変動やテクトニックな状況の変化により引き起こされます。すなわち過去の地球表層環境の復元を行う上で、地形変化速度(侵食や削剥)は重要なデータと期待されます。しかしながらこれまでは、直接的な方法を用いた自然界で起こる様々な時間スケールの浸食や削剥、風化速度に関する定量的な議論は少ないのが現状です。これまでの浸食速度は堆積場から間接的に求められてきたにすぎず、長期的な浸食や非常にゆるやかな浸食速度を定量的に検出することが難しかったことが主な原因としてあげられます。近年、地表面に露出する岩石と、二次宇宙線との相互作用により生成する宇宙線照射生成核種量を見積もることで、浸食の大小や時間スケールに関わらず、浸食対象の岩石試料から直接的に、浸食速度を定量できる手法として、宇宙線照射年代測定法が注目されています。

我々は、世界で最も乾燥した地域の一つである南米チリ・アタカマ砂漠における浸食速度を宇宙線照射年代測定法により定量することを目的としています。本研究対象地域のアタカマ砂漠は東側にアンデス山脈、西側の太平洋にはフンボルト海流(寒流)が存在し、気候(海洋)-テクトニクス-地形変化の相互作用を考察する上で、他にない特徴的な地域であるといえます。アタカマ砂漠にみられるように極度に乾燥した地域では、地形変化の主な要因である降水による作用が極端に小さく、非常に古い地形を残していると考えられます。よって、あらゆる気候条件下の中での地形変化速度の最小値に制約が与えられることが期待されます。

我々の研究では、乾燥環境下における浸食速度を見積もるためにアタカマ砂漠西部-東部地域に分布する丘陵や広大な扇状地において、地形の様々な地点から石英を含む中礫を採取しました(図4、5)。石英中(図6)に生成したBe-10 およびAl-26を定量することにより、浸食速度を求めました。その結果、地表面の浸食・風化速度は、非常に小さいことがわかりました。これは、他の乾燥地域において同様に宇宙線照射生成核種を用いて求められた浸食速度と同程度の値を示しました。これは世界各地の砂漠などの乾燥環境における浸食速度が、ある程度一定の範囲に収まることを強く示唆しています。一方で、アタカマ砂漠の西部地域は東部地域に比べ、浸食速度が小さいこともわかりました。このことは、同様な乾燥環境下にありながら、東西方向での地形環境やメソスケールまたはそれ以下の僅かな気候の違いが浸食速度の差に影響を与えている可能性を示唆しています。

南米・チリ、アタカマ砂漠の露頭

図4:南米・チリ、アタカマ砂漠の露頭

地表面に露出する岩石試料

図5:地表面に露出する岩石試料

岩石試料から酸エッチイングにより精製した石英試料

図6:岩石試料から酸エッチイングにより精製した石英試料

研究トピックス