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ベラ亜目における特殊な咽頭顎の進化と適応放散

2008年12月

海洋生命科学部門 分子海洋科学分野


生物の進化においては,同じ機能を持った複雑な器官が,離れた系統で独立に進化することがある.レンズを持つ眼が,脊椎動物とイカ・タコの仲間とで独立に進化したことは有名な例であるが,適応放散の例として知られている魚類の系統でも,ある複雑な器官 (特殊化した咽頭顎器官) が2つの系統で独立に進化していたことが,ベラ亜目の分子系統学的解析 (Mabuchi et al., 2007) により明らかとなった.興味深いことに,この事実は,特殊化した咽頭顎器官の進化と適応放散との間に,何らかの因果関係があることを示唆している.

シクリッド科とベラ科に見られる多様な頭部形態

図1:シクリッド科とベラ科に見られる多様な頭部形態.多様な食物への適応を反映している.

特殊な咽頭顎器官の模式図

図2:特殊な咽頭顎器官の模式図(シクリッド科の場合).矢印は,筋肉の収縮方向を示す.

一方で,この特殊な咽頭顎器官の進化は,後の適応放散を可能とした「キーイノベーション」であったという進化学上有名な仮説がある.特殊化した咽頭顎で食物を咀嚼できるようになったため,口顎 (図 2) は食物を「採る」ことに特殊化できるようになり,このために,様々な食物の採取へ特化した口を持つ多様な種 (図 1) の形成が可能となったという仮説である (Futuyma, 1998).この仮説を検証する手始めとして,ベラ亜目の系統関係を,これに比較的近縁と考えられる他のグループも含めて調べたところ,珊瑚礁で適応放散しているベラ科 (図 3 のベラ亜目-1) と,シクリッド科を含む他の 3 科 (図 3 のベラ亜目-2) は,系統的に非常に遠い関係にあることが明らかとなった (図 3).

ミトコンドリア DNA の全塩基配列に基づくベラ亜目魚類の系統関係

図3:ミトコンドリア DNA の全塩基配列に基づくベラ亜目魚類の系統関係

 

上の結果は,特殊な咽頭顎器官は魚類の歴史の中で少なくとも2回進化し,後に,そのどちらでも適応放散 (図 1) が起こったことを示唆している.このことから,「特殊な咽頭顎器官の進化は,後の適応放散を可能にしたキーイノベーションだった」とする仮説は,歴史的な再現性という面からは妥当と評価できる.


【引用文献】

Futuyma, DJ. 1998. Evolutionary Biology, third ed. Sinauer, Sunderland.

Mabuchi, K, M Miya, Y Azuma, and M Nishida. 2007. Independent evolution of the specialized pharyngeal jaw apparatus in cichlid and labrid fishes. BMC Evolutionary Biology, 7: 10.

Nelson, JS. 2006. Fishes of the World, fourth ed. Wiley, New York.

研究トピックス