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塩分フロントがランドマーク ウナギの産卵回遊

2007年11月

海洋研究連携分野 生物圏環境学

エルニーニョは産卵海域の塩分濃度を変化させる

 

(1)研究の背景

ウナギの日本における年間消費量は、10万トンを超えています。ウナギの生産量のほとんどは養殖ですが、養殖種苗として欠かせないシラスウナギの採捕量には大きな年変動があり,その供給量も安定していません。しかも近年は極端に減少の一途をたどっています。この原因のひとつとして乱獲が挙げられますが、そのほか、ウナギの産卵場は、グアム島に近いマリアナ諸島西方海域の北赤道海流中にあり、そこからから東アジアの生育場に到達するまでの輸送される過程で、海流を中心とした海洋変動現象がはたす役割の重要性にも関心がむけられるようになってきています。

ニホンウナギの産卵場と分布、および西部亜熱帯循環

図1:ニホンウナギの産卵場と分布、および西部亜熱帯循環

 

(2)今回の成果

学術研究船白鳳丸による研究調査から、北赤道海流の表層水を南北に分断する塩分フロントに注目が集まってきています(図1)。レプトセファルスとよばれるウナギの幼生がこのフロントの南側で多数採捕され、 この周辺の海流構造が幼生の西方輸送に適したものとなっていると考えられるからです。この塩分フロントはハワイ沖からの強い蒸散作用を受けた高塩分水と熱帯特有の降雨がもたらす低塩分水によって形成され、 エルニーニョが発生すると降雨の源となる積乱雲が東へと移動するために塩分フロントは南側に移動します。もし塩分フロント付近で産卵しているとすると、エルニーニョに対応した日本沿岸へのシラスウナギ来遊量の変動が認められるはずです。そこでシミュレーションを行ったところ、エルニーニョが発生するとシラスウナギの採捕量が減少するわかってきました(図2上・下)。 エルニーニョが発生した年に実施した白鳳丸の観測でも塩分フロントの南下に伴ったレプトセファルスの分布の南下も認められ、その役割を強く裏付けています。塩分フロントの南北では、 レプトセファルス幼生の餌となる海水中の有機懸 濁物質の炭素安定同位体比が大きく異なっており、塩分というよりも水質の違いが産卵のためのランドマークとなっているのかも知れません。

図2:エルニーニョが発生した年(右)は、幼生がフィリピン東部から黒潮に乗ることができずに、ウナギの生息できない熱帯の海域に数多く輸送されてしまう。


 

(3)意義と展望

乱獲も含めた人間による環境破壊だけでなく、自然に変動する地球環境によっても海洋生物の生態は大きく変わってきます。観測や飼育、実験、シミュレーションを通じて地球環境にたいする生物の応答プロセスを解明することは、適切な資源管理や保全計画の立案、効率的な増養殖事業にむけた大きな一助となります。こういった観点から、今後は、地球温暖化といったより大きな時間スケールの海洋現象がウナギの輸送過程に及ぼす影響についても予測・評価していく必要があるといえます。



参考文献 


1. Kim H, Kimura S, Shinoda A, Kitagawa T, Sasai Y, Sasaki, H(2007) Effect of El Nino on migration and larval transport of the Japanese eel (Anguilla japonica), ICES Journal of Marine Science. 64:1387?1395. 

2. Kimura S, Tsukamoto K (2006) The salinity front in the North Equatorial Current: A landmark for the spawning migration of the Japanese eel (Anguilla japonica) related to the stock recruitment. Deep-Sea Research II, 53, 315-325. 

3. 木村伸吾(2005) 仔魚の輸送と加入量変動. 海洋生命系のダイナミクス海の生物資源,渡邊良朗編, 東海大出版,pp436, 241-258. 

4. Kimura S (2003) Larval transport of the Japanese eel. In Eel Biology (eds. Aida K., Tsukamoto K. and Yamauchi K.). Springer-Verlag, pp.497, 169-179.

研究トピックス