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北太平洋亜寒帯・アラスカ湾における微量元素・同位体の分布とその動態解明に向けて ~学術研究船白鳳丸による北太平洋横断航海の開始~

2017年6月30日

小畑 元(東京大学大気海洋研究所)

発表のポイント:

◆北太平洋亜寒帯において大規模研究航海を行い、海水中の化学成分について横断観測を行う。
◆クリーン技術を用いて海水のサンプリングを行い、最新の分析技術を用いて海水中の微量元素・同位体組成を明らかにしていく。
◆海洋における一次生産の制限因子となりうる海水中の微量元素・同位体のグローバルな分布を明らかにすることにより、海洋炭素循環のより良い予測が可能になると期待される。

発表概要:

海洋の一次生産は通常、窒素やリンなどの栄養塩が枯渇することによって制限される。しかし、これらの栄養塩が表層で豊富に存在しているにも関わらず、一次生産が制限されている海域があり、「高栄養塩・低クロロフィル海域(HNLC)」と呼ばれている。このHNLC海域は全海洋の約30%を占めていると言われている。この海域で一次生産が制限されているのは、栄養塩の不足ではなく、鉄分をはじめとする微量金属元素の不足が原因であると考えられる。北太平洋亜寒帯・アラスカ湾は代表的なHNLC海域の1つであるが、海水中の微量金属元素の分布は未だ十分に解明されていない。

そこで、今回、東京大学大気海洋研究所小畑 元准教授を主席研究員として、学術研究船白鳳丸(注1)KH-17-3次研究航海を2017年6月23日から8月9日まで実施する。北太平洋亜寒帯・アラスカ湾における微量元素・同位体の分布を明らかにすることを目指し、全国17の研究機関から研究者・大学院生が参加し観測を行う。

本研究航海は、国際GEOTRACES計画(注2)の一環として実施される。北太平洋亜寒帯・アラスカ湾における微量金属元素の輸送過程について貴重なデータを取得し、海洋における一次生産の現状を正確に把握するとともに、海洋炭素循環の将来予測にも繋げることを目指す。

発表内容:

海洋の植物プランクトンによる一次生産は通常、窒素やリンなどの栄養塩が枯渇することによって制限される。しかし、表層でこれらの栄養塩を使い果たすほどには植物プランクトンが成育していない海域が存在する。これらの海域は「高栄養塩・低クロロフィル海域(High Nutrient, Low Chlorophyll Area, HNLC)」と呼ばれている。これらの海域では主に鉄分の不足により、植物プランクトンの成育が妨げられていることが、大規模な鉄散布実験により明らかにされている。このHNLC海域は全海洋の約30%を占めており、鉄分をはじめとする微量金属元素がどこから、どのように運ばれているかを解明することは重要な課題となっている。北太平洋亜寒帯・アラスカ湾は代表的なHNLC海域の1つであるが、海水中の微量金属元素の分布や循環過程が解明されていない観測空白域が多く残されており、注目が集まっている。

そこで、今回、北太平洋亜寒帯・アラスカ湾における微量元素・同位体の分布を調べ、その生物地球化学的循環過程を明らかにすることを目指し、学術研究船白鳳丸KH-17-3次研究航海(主席研究員 東京大学大気海洋研究所小畑 元准教授)を2017年6月23日から8月9日まで実施する(図1)。全国17の研究機関から約40名の研究者・大学院生が参加し、観測を行う。また、米国・台湾・スイスの研究者も本航海のプロジェクトに参加する予定である。同じ海域での調査は2012年8月から10月に学術研究船白鳳丸KH-12-4次研究航海でも実施されているが、東部北太平洋亜寒帯およびアラスカ湾では悪天候のためほとんど観測を実施することはできなかった。今回の航海は比較的天候の安定する7月に実施されるため、順調な研究航海が期待される。

本研究航海は、35カ国が参加する国際GEOTRACES計画という世界的なプロジェクトの一環として実施される。海水中の微量元素は、研究船や実験室において汚染を受けやすく、分析を行うのが困難とされてきた。本プロジェクトでは、厳密なサンプリング法・分析法の基準が設けられており、この厳密な基準をクリアした場合のみ国際GEOTRACES計画が承認した測定結果となる。本航海のクリーン海水採取は、通常のCTD観測と組み合わせて行う(写真1)。架台に、海水試料採取のための採水器を24本とCTD等センサーを搭載して、汚染のない有機繊維製のアーマードケーブルで海中へ吊り下げる。このような採水法を用いることによって、研究船本体からの汚染のない採水を行う。鉄分など、一部の微量金属元素は船上で分析を行い、そのデータをチェックしながら観測を行う。他の微量元素・同位体については、航海の終了後、実験室に持ち帰り、最新の分析技術を駆使して測定を行う。最終的には微量元素・同位体の分布について、太平洋北緯47度線上を東西に横断する断面図を描く。

北太平洋亜寒帯への微量金属元素の供給過程としては、大気を経由した大陸起源エアロゾルの降下、河川からの流入、沿岸域堆積物からの溶出と水平輸送などが考えられている。最新の研究成果では、北太平洋中層水に豊富に含まれる金属元素が北太平洋の広範囲に拡がり、その後、混合によって表層に運ばれるという過程が報告されており、注目が集まっている。本研究航海で予定通り観測を行うことができれば、これらの微量金属元素の輸送過程について貴重な裏付けとなるデータを取得できると期待される。このような微量金属元素の供給過程を把握することは、北太平洋亜寒帯における一次生産についての正確な見積を行う上で重要である。本研究航海の成果に基づき、海洋における一次生産の現状を正確に把握し、将来の予測にも繋がることが期待される。

問い合わせ先:

東京大学大気海洋研究所海洋無機化学分野
准教授 小畑 元(おばた はじめ)
E-mail: obataaori.u-tokyo.ac.jp         ※「◎」は「@」に変換して下さい。

用語解説:

(注1) 学術研究船「白鳳丸」
海洋研究開発機構が保有・運航し、文部科学省の共同利用・研究拠点である大気海洋研究拠点(東京大学大気海洋研究所)が全国の研究者の共同利用・共同研究に提供する研究船
(注2) 国際GEOTRACES計画
SCOR(海洋研究科学委員会)の支援により2006年に正式に始動した「海洋の微量元素・同位体による生物地球化学的研究」。世界の海洋を網羅する観測線を設け、参加35か国が分担して微量元素・同位体についての観測を行う。サンプリング法、分析法について厳密な基準が設けられ、この基準をクリアすることが求められている。

添付資料:

図1. 白鳳丸KH-17-3次研究航海における予定観測点

写真1. 学術研究船白鳳丸におけるクリーン採水

プレスリリース