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2014年御嶽山噴火に先立つ10年間のヘリウム異常

2015年8月19日

佐野 有司 (東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門 教授)
鹿児島 渉悟(東京大学大学院理学系研究科 大学院学生)
高畑 直人 (東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門 助教)
西尾 嘉朗 (高知大学教育研究部 総合科学系 准教授)

発表のポイント

◆ 2014年御嶽山噴火に先立つ10年間のヘリウム異常を、火口から4km北西にある濁河温泉にて観測した。
◆ 直前の噴火予知を可能にするものではないが、長期にわたる火山活動を評価する指標の1つとしてヘリウム観測は有用である。
◆ 御嶽山の水蒸気爆発の原因として、長期にわたる揮発性物質の火道内での蓄積・加圧という仮説を提案した。

発表概要

東京大学と高知大学の研究グループは、戦後最悪の火山災害となった2014年9月の木曽御嶽山噴火の長期前兆現象と思われるヘリウム異常を火口から約4km北西にある濁河(Nigorigo)温泉で観測した。またヘリウム変動の様式から、山体内の火道中の揮発性物質が約10年かけて加圧・蓄積され、ついに水蒸気爆発に至ったという仮説を提案した。

これまでの研究によると、水蒸気噴火はマグマ噴火に比べて予知するのが困難とされている。これは火道の水蒸気圧の上昇が火山体に与える物理的影響が比較的小さく、地震観測や測地学手法で検知するのが難しいためである。一方、ヘリウム-3はマントル起源の物質であり、火山・地熱活動を評価する地球化学的パラメータとして最適である。本研究グループは1981年より2-3年おきに御嶽山周囲の温泉・鉱泉で遊離ガスを採取して、そのヘリウム同位体比(3He/4He)を測定してきた。そして火口から最も近い濁河温泉において、2003年から2014年まで顕著なヘリウム-3の増加を観測した。一方、火口から離れた温泉・鉱泉では有意なヘリウム変動は見られなかった。この結果は、近年の御嶽山のマグマ活動の活発化を示すもので、2014年の水蒸気噴火のメカニズムを理解する上でも重要な観測結果である。ヘリウム観測は火山噴火の直前予知を可能にするものではないが、長期にわたる火山活動の評価においては有用である。木曽御嶽山のみならず日本の火山において、ヘリウムをはじめとした地球化学観測を行っている研究者は極めて少ない。火山における地球化学観測を強化して、地震や測地などの地球物理学的観測結果と併せて総合的に評価することで、より精度の高いマグマ活動の評価につながることが期待される。

発表内容

[研究の背景]

一般に火山の水蒸気爆発は高温の溶岩を放出するマグマ噴火に比較して、前兆現象の報告例が少ない。しかし、これまでに国際火山プログラムの認定する約18000の噴火例のうち、5%が水蒸気噴火であり、火山噴火による犠牲者の約20%がこのタイプであると報告されている。2014年9月27日の御嶽山噴火では、新しいマグマ物質は検出されなかったため、水蒸気爆発による噴火と考えられている。当日は休日で行楽には絶好の天気であり、数百人のハイカーが山頂付近に居たため、噴火により多数の犠牲者を出すに至った。

火山直下のマグマの活動度を推定することは、応用として噴火予知という直接的な利益をもたらすだけでなく地球惑星科学の基礎的知見を得ることに繋がる。本研究は、火口に近い温泉にてマントル起源物質として最も顕著なヘリウム-3の変動を長期にわたって観測することで、御嶽山の活動を同位体地学の手法でモニターするために行われた。この地球化学的観測は地震や測地といった火山の地球物理学的観測を補強するものになることが期待される。

[研究内容]

本研究グループは日本列島周囲の海底熱水活動の地球化学的研究を続ける一方で、比較検討のために陸上火山の調査も行っている。本研究グループは木曽御嶽山周囲に存在する7カ所(図1)の温泉・鉱泉の源泉付近にて、1981年11月から約2−3年に1回の頻度で、天然に湧出する泉水に含まれる遊離ガスを鉛ガラスの容器で採取し分析した。これらの気体の主成分は二酸化炭素であるが、微量に含まれるヘリウムを、金属製真空ラインを用いて精製・分離してその同位体比を高精度希ガス用質量分析計で測定した。その結果、火口から最も近い濁河温泉では、2000年6月まで6.6Ra(Raは大気の値で3He/4He=1.382x10-6)とほとんど一定であったヘリウム同位体比が2003年6月から噴火後の2014年11月には、顕著に増加した(図2a)。ヘリウム同位体比の増加は、マントル由来のヘリウム-3の寄与によるもので、マグマ起源の揮発性成分が濁河温泉の源に付加されたことを示す。一方、北西山麓の火口から離れた秋神(Akigami)温泉や湯屋(Yuya)温泉では、ヘリウム同位体比の有意な変動は見られなかった(図2a)。また、南東山麓の白川(Shirakawa)、棧橋(Kakehashi)、正島(Shojima)地区では、1984年9月から2003年6月まで顕著な増加が見られたが、その後は低下して2005年6月から2014年11月までほとんど一定の値を示した(図2b)。前者の増加は1984年長野県西部地震に関連したもので、小規模なマントル・ダイアピルの貫入と脱ガスによると解釈された。この現象は御嶽山南麓で2002年−2004年に起きた地殻変動とともに終了したと考えられる。火口から比較的近い鹿の瀬(Kanose)温泉では、ヘリウム同位体比は1981年の6.4Raから一様に上昇を続けている(図2b)。

ヘリウム同位体比の時空間変動は、2003年からの上昇率を火口から温泉までの距離に対してプロットすると顕著な傾向が見える(図3)。すなわち火口に近い温泉ほどヘリウム同位体比の年間上昇率が大きい。この結果は、過去10年間にわたる御嶽山火口直下のマグマ活動のゆっくりとした活発化を示すものであり、2014年9月27日の水蒸気噴火の前兆現象と言える可能性がある。さらにヘリウムの時空間変動データを水力学的分散モデルで解析した結果、地下のマグマから火山体内の熱水系に供給される水量が2005年から上昇し、過剰分の水量は約1000トンに達することが解った。この水の一部が火道内で徐々に加圧・蓄積され(図4)、2014年の御嶽山水蒸気爆発の駆動力となった可能性がある。

[今後の課題]

木曽御嶽山のみならず日本の火山において、陸域、海域を問わずヘリウムをはじめとした地球化学観測を行っている研究者は極めて少ない。このような火山における観測体制を強化して、地震や測地、電磁気などの地球物理学的観測結果と併せて総合的に解釈することで、より精度の高いマグマ活動の評価と将来の噴火予知につながることが期待される。

発表雑誌

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Ten-year helium anomaly prior to the 2014 Mt Ontake eruption
著者:Y. Sano, T. Kagoshima, N. Takahata, Y. Nishio, E. Roulleau, D.L. Pinti, T.P. Fischer
DOI番号:10.1038/srep13069

問い合わせ先

大気海洋研究所 教授 佐野有司 ysanoaori.u-tokyo.ac.jp
大気海洋研究所 助教 高畑直人 ntakaaori.u-tokyo.ac.jp
高知大学 教育研究部総合科学系 准教授 西尾嘉朗 yoshirokochi-u.ac.jp

*メールアドレスの「◎」は「@」に変換して下さい。

添付資料

図1 試料を採取した木曽御嶽山周囲の7カ所の温泉と鉱泉

図2 木曽御嶽山周囲の温泉・鉱泉におけるヘリウム同位体比の長期変動

図3 火口から温泉・鉱泉までの距離とヘリウム同位体比の年変動との関係

図4 2014年御嶽山噴火のモデル

プレスリリース