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南琉球列島の津波再来周期を初めて推定

2013年8月9日

荒岡 大輔 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
横山 祐典 (東京大学大気海洋研究所)
後藤 和久 (東北大学災害科学国際研究所)
川幡 穂高 (東京大学大気海洋研究所)

サンプル

2011年の東北地方太平洋沖地震津波以降、過去の津波の発生時期や規模を明らかにすることは急務となっていますが、宮古・八重山列島(以下、南琉球列島)地域では、17世紀以前の津波の情報は歴史記録にほとんど残っていません。
 東京大学大学院新領域創成科学研究科の荒岡大輔(大学院生)と、東京大学大気海洋研究所の横山祐典准教授、川幡穂高教授および、東北大学災害科学国際研究所の後藤和久准教授は共同で、南琉球列島の海岸に多数存在する津波石と呼ばれるサンゴの化石の放射性炭素年代測定(※1)により、本地域における過去の津波発生時期を推定しました。その結果、この地域では約150~400年の周期で過去2400年間にわたって建物や人的被害をもたらす規模の津波が発生していることが明らかになりました。本結果は、この地域で初めて地質記録から津波の再来周期を見積もったものであるため、今回の成果は南琉球列島の将来の津波災害予測や防災計画において有益な情報を提供するものとなります。

プレスリリース資料

図1PDFファイル(4223KB)
図2PDFファイル(272KB)
図3PDFファイル(210KB)
図4_1(25KB)
図4_2(20KB)

発表のポイント

◆宮古・八重山列島では過去2400年間にわたって、約150~400年の周期で建物や人的被害をもたらす規模の津波が発生していることが明らかになりました。
◆宮古・八重山列島における津波の再来周期を、津波石と呼ばれる化石サンゴから初めて見積もりました。
◆この結果は、本地域の将来の津波災害予測や防災計画を策定する上で有益な情報を提供するものです。

発表内容

研究の背景
過去の津波がどのくらいの規模、周期で発生したかを把握することは、将来の津波災害予測や防災計画を練る上で重要です。宮古・八重山列島からなる南琉球列島は、1771年に発生した『明和津波』と呼ばれる大津波を経験しています。この津波の最大波高は約30mに達し、この地域で12000人を超える犠牲者を出したことが知られており、これは2011年の東北地方太平洋沖地震津波に匹敵する規模です。しかしながら、本地域では明和津波以前の津波災害記録はほとんど残っておらず、また過去の津波発生時期を推定する上で有効な、地層中の津波堆積物を調査するのに適した土地も少ないため、別の地質記録を探す必要がありました。

研究方法
本研究では、南琉球列島の海岸に広く分布している『津波石』と呼ばれる、過去の津波で打ち上げられたと考えられているサンゴの化石に着目しました(図1)。今までにも、津波石を用いて過去の津波発生時期を推定した研究はありましたが、試料選定方法の問題や、年代測定の測定精度の問題から、津波再来周期を推定するまでには至っていませんでした。

そのため本研究では、津波由来の津波石と台風由来の台風石が地理的分布の違いから区別可能なことを利用して(Goto et al. 2010)、津波石由来のもののみを選定するとともに、津波石の中でもハマサンゴ種の津波石に限定しました。ハマサンゴは過去の高波で打ち上がった際にその表面の成長が止まるため、津波石ハマサンゴの新鮮な表面を採取し年代を測定することで、津波石が打ち上がった年代、つまり過去の津波の発生時期を正確に決定できることがわかっています(Araoka et al. 2010)。

また従来、放射性炭素年代の測定精度では津波発生時期の特定は困難でしたが、誤差の大きな放射性炭素年代測定でも、大量の津波石の年代結果を統計学的に処理することで津波発生時期を推定できる可能性があります。そこで、本研究では宮古・八重山列島から上記の津波石の条件を満たす100個以上の津波石試料を採取し(図2)、放射性炭素を用いた年代測定を行いました。

成果
解析の結果、宮古・八重山列島では過去2400年間にわたって、約150~400年の周期で津波石を打ち上げるような津波が発生していることがわかりました(図3)。また、石垣島東岸にはハマサンゴの津波石のうち 『バリ石』と呼ばれる直径9mの巨大な津波石があり(図1:下図)、年代測定の結果から1771年の明和津波で打ち上げられたことがわかりました。これは、単一群体のサンゴとしては世界で最も大きい津波石になります。また、バリ石の大きさから過去700年間で1771年の明和津波が最も規模の大きな津波であったことが明らかになりました。過去の他の津波についても、今回選定した津波石の大きさを考慮すると、建物や人的被害をもたらすのに十分な規模であることが、数値計算から明らかになりました。

本研究の意義
2004年に発生したインド洋大津波以来、津波石の存在が世界中で認識されるようになりました。しかし、津波石を用いて津波のリスク評価を行った研究はほとんどありません。本研究は、津波石を用いて津波再来周期を推定した世界初の結果です。このように、地層中の津波堆積物調査に適した土地が限られた地域でも、津波石を選定し大量の年代測定結果を解析することで、津波履歴研究が可能であることを示した画期的な成果です。

また、明和津波を経験した本地域の津波石は、その津波の規模を象徴する重要な地質記録です。そのため、バリ石のような巨大津波石は防災教育にも有用なシンボルであるといえます。

今後の展望
今回の結果は、宮古・八重山列島における津波再来周期を初めて見積もったものです。しかし、個々の津波の正確な年代を推定するためには、より大量の、かつ精度の高い年代測定結果が必要です。今年、東京大学大気海洋研究所には、日本初の放射性炭素年代測定用のシングルステージ加速器質量分析計が導入されました(図4)。また、横山准教授の研究室では、放射性炭素年代測定法の数倍精度の良い年代測定法であるウラン系列各種を用いた年代測定法を、高分解能型誘導結合プラズマ質量分析装置(ELEMENT-XR)を用いて開発中です。今後は、このような分析装置を用いて、より正確な過去の津波発生時期や津波再来周期の推定を行っていくことが必要であり、その結果として本地域の将来の津波災害予測や防災計画においても重要な情報を提供することが可能になります。

用語解説
(※1)放射性炭素年代測定
炭素の放射性同位体14(14C)を用いて化石などの試料が生存していた年代を測定できる手法です。活動中の生物は食物や光合成を介して14Cを含んだ炭素を体内に取り込みますが、死後は炭素が取り込まれなくなり、体内の14Cの濃度が減り続けます。そのため、試料中の炭素14Cの量を調べることで、その生物の生存年代がわかります。

発表雑誌

雑誌名:『Geology』(41巻、2013年発行、919 – 922ページ)
論文タイトル:Tsunami recurrence revealed by Porites coral boulders in the southern Ryukyu Islands, Japan
著者名:Daisuke Araoka, Yusuke Yokoyama, Atsushi Suzuki, Kazuhisa Goto, Kunimasa Miyagi, Keitaro Miyazawa, Hiroyuki Matsuzaki, Hodaka Kawahata
DOI番号:doi:10.1130/G34415.1
アブストラクトURL: http://geology.gsapubs.org/content/early/2013/06/20/G34415.1.abstract

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 博士課程大学院生 荒岡大輔
Tel: 04-7136-6147
E-mail: araoka★aori.u-tokyo.ac.jp  (★を@に変えてお送り下さい)

添付資料

図1(上図):石垣島東海岸の津波石群。
  (下図):『バリ石』と呼ばれるハマサンゴの津波石。本研究結果から、1771年に発生した明和津波で打ち上げられたことがわかりました。津波で打ち上げられた単一群体のサンゴとしては世界最大のものです。

図2:本研究で津波石試料を採取した島々。石垣島、多良間島、水納島、下地島、来間島、宮古島の6つの島から、合計で100個以上のハマサンゴからなる津波石を採取し、放射性炭素による年代測定を実施しました。

図3(上図):大量の津波石の放射性炭素年代測定結果を年代順に並べたもの。
  (下図):上記の結果を統計的に解析することで得た確率分布密度の総和曲線。この曲線のピーク部分は津波が発生した時期を示唆しています。実際に、古文書に記載されている1771年の明和津波および1625年の原因不明の高波が検出できているのがわかります。

図4:東京大学大気海洋研究所に2013年に新しく導入された、放射性炭素年代測定用のシングルステージ加速器質量分析計。

プレスリリース