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潜水深度を予測して空気量調節を行うエンペラーペンギン ~鳥類の最長潜水記録更新~

2013年7月30日

佐藤 克文、塩見 こずえ(東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター)

サンプル

バイオロギング手法により、ペンギン類の最大種であるエンペラーペンギンから野外における詳細な潜水行動記録を得た。エンペラーペンギンは、過去に測定されている5.6分間のADL (aerobic dive limit)を超える長さの潜水を行っても、水面に長時間滞在することなく次の潜水を行っていた。ペンギン(N=10)は、最大深度358mから514mに及ぶ深い潜水からごく浅い潜水までを繰り返し行っており、事前に潜水深度を予測して、深い潜水を行う場合には空気を多く吸い込んでから潜水を開始していた。今回得られた27.6分間に及ぶ長時間潜水記録は、鳥類の潜水時間最長記録となる。

著者

佐藤 克文 東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター沿岸保全分野 准教授
塩見 こずえ 東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター沿岸保全分野 博士課程大学院生(論文刊行当時)

1. これまでの研究でわかっていた点

肺呼吸動物は息をこらえて潜水を行う間、潜水直前に体内に蓄えた酸素を使っている。酸素が足りなくなると、嫌気呼吸による無酸素運動も行うが、嫌気呼吸では、単位重量のグルコースからATPを生産する効率が有酸素呼吸に比べて悪い。また、嫌気呼吸によって生じた乳酸を分解するために、潜水後に長時間水面に滞在して休息しなければならない。それらの理由から、連続して潜水する動物は、有酸素呼吸でほとんどの代謝をまかなっていると予想されていた。潜水能力に長けたペンギン類の最大種であるエンペラーペンギンを半閉鎖実験系で潜らせて測定した過去の実験により、潜水時間が5.6分間を超えると血液中の乳酸濃度が急上昇することが判明している(aerobic dive limit: ADL, Ponganis et al. 1997)。一方で、野外環境下で潜水を繰り返すエンペラーペンギンの潜水時間と水面休息時間の関係から、野外環境下ではADLが8分前後に延びると推定した報告もある(Kooyman and Kooyman 1995)。エンペラーペンギンが野外環境下で潜水を行っているときは、半閉鎖実験系に比べて長いADLを有しているのだろうか?

2. この研究が新しく明らかにしようとした点

半閉鎖実験系に比べて野外環境下のADLが長くなるのだとしたら、それはなぜだろう? 本論文では、深度・速度・加速度を記録できる動物搭載型行動記録計を南極ワシントン岬周辺で育雛中の親鳥に取り付けた。さらに、半閉鎖実験系における行動データも記録した。これらのデータを元に、まず、1)潜水時間とその後の水面休息時間の関係を調べた。半閉鎖実験系において測定されたADL(5.6分)を超える潜水を行った後、水面休息時間は長くなるだろうか? 次に、自然環境下で潜水を行うエンペラーペンギンの方が半閉鎖実験系で潜水したエンペラーペンギンよりも長いADLを有するのだとしたら、前者の方が潜水中の活動性が低かった可能性が考えられる。そこで、2)潜水中に翼を動かすストローク頻度を2つの実験系で比較した。もう一つの可能性としては、呼吸器官に蓄えた空気量が異なっていたことが考えられる。過去の知見によると、キングペンギンやアデリーペンギンは、深い潜水の時ほど多くの空気を吸い込んでから潜水を開始するということが知られている(Sato et al. 2002)。過去の閉鎖実験系では、潜水深度が100m以下という条件下で5.6分間というADLが測定されている。野外環境下の個体は、より多くの空気を吸い込んで深い潜水を行っている可能性が考えられる。そこで、3)野外環境下で潜水を繰り返すエンペラーペンギンの体内保有空気量を推定した。

図1 体重27.5kgのエンペラーペンギンが行った長時間潜水。
27.6分間はこれまで記録された全ての鳥類の中で最長記録。

3. この研究で得られた結果、知見

野外環境下でも半閉鎖実験系でも、ペンギンは5.6分を超える潜水を行っており、その割合は前者で全潜水の10.1%、後者で12.6%であった。意外なことに長時間潜水の後に水面滞在時間が必ずしも長くなるわけではなく、10分間におよぶ潜水を行った後でも、1分程度の水面滞在時間を挟んで次の潜水を行っていた。エンペラーペンギンはADLを超える長時間潜水をした直後に必ずしも長時間の水面休息を必要としないことになる。翼を動かす頻度については、予想に反して野外環境下の平均ストローク頻度が半閉鎖実験系よりも大きくなった。野外環境下で採餌旅行を行ったペンギンは、最大深度357.5mから513.5mの深い潜水から、ごく浅い潜水までさまざまな深度の潜水を繰り返し行っていた。野外環境下のペンギンには、浮上途中で翼の動きが停止し、滑空するように水面まで到達する行動が見られた。この間の遊泳速度の挙動から、潜水ごとの体 内保有空気量を見積もったところ、深い潜水を行う際にはたくさん空気を吸い込んでから潜水を開始していたものと考えられた。

 エンペラーペンギンは吸い込む空気量を増やすことにより、体内に蓄える全酸素量(肺、血液、筋肉)を58ml kg-1から68ml kg-1まで増やすことがで きる。半閉鎖実験系のペンギンは浅い潜水しか行わなかったので、5.6分というADLはおそらく吸い込んだ空気量が少ない潜水時の値であろう。しかし、空気量を増やしたところで、体内保有全酸素量は18%しか増加しないので、ADLの伸びはさほど期待できない。にもかかわらずエンペラーペンギンが5.6分を大きく超える潜水を行った後に長時間の水面休息を行わなかったということは、まだ我々が把握していない生理現象が潜んでいることを示唆している。

今回得られた結果の中で最も大きな驚きは、それまで23分間とされていた本種の最大潜水時間記録が27分36秒に更新されたことである(図1)。さすがにこの長時間潜水を行った直後のペンギンは、腹ばいの状態で5.9分間深呼吸を行い、その後立った状態で20分間休息してから歩き始めていた。次の潜水が始まったのは8.4時間後であったことなどから考えても、この超長時間潜水によって体内に蓄積した乳酸が解消されるには長時間の休息が必要だったのだろう。

4. 今後の課題

今回得られた結果では、250mまでは潜水深度に応じて吸い込む空気量が大きくなったが、さらに潜水深度が大きくなると今度は推定空気量が減少した(図2)。潜水開始直後のストローク頻度を比較したところ、500m近い潜水では潜水開始直後のストローク頻度が浅い潜水に比べて大きくなっていた。多くの空気を吸い込んだ状態で潜水したにもかかわらず、浮上を開始するまでのどこかの時点で空気を吐き出してしまったものと考えられる。今後カメラロガーなど別の測器を使ってそのことを検証する必要がある。ADLを超える潜水を行ったエンペラーペンギンが、潜水直後に長時間の水面滞在を必要としなかったことの理由は引き続きよくわからない謎のまま残されている。

図2 ペンギン10羽の潜水行動記録から推定された潜水深度と推定空気量の関係。

掲載論文

Sato, K., Shiomi, K., Marshall, G., Kooyman, G. L. and Ponganis, P. J. (2011) Stroke rates and diving air volumes of emperor penguins: implications for dive performance. Journal of Experimental Biology 214: 2854-2863.
この論文は掲載号の巻頭にあるInside JEBにて紹介されました(Penguin plan dives)。

用語解説

ADL
肺呼吸動物が息こらえ潜水を行う際、長時間潜水によって体内蓄積酸素量が少なくなると嫌気呼吸による無酸素運動を行うようになる。嫌気呼吸の副産物である乳酸が急増し始める時間をaerobic dive limit(ADL)という。
バイオロギング
動物搭載型の記録計を用いて、生息環境下で動物の行動や生理に関する時系列データを取得する方法。2003年の第1回国際シンポジウムでは、「人の認識限界を超えた現場における現象を調べる学問分野」と定義された。

研究内容についての問い合わせ先

佐藤 克文 東京大学大気海洋研究所 准教授  katsuaori.u-tokyo.ac.jp 04-7136-6400

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*本記事は「東京大学大気海洋研究所 リサーチハイライト No. 2」より転載いたしました。

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