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ウナギの幼生の食性を解明 ~ウナギの幼生は何を食べているのか?~

2012年11月7日

独立行政法人海洋研究開発機構
東京大学大気海洋研究所

サンプル

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)の海洋・極限環境生物圏領域 大河内直彦プログラムディレクターと、東京大学大気海洋研究所の塚本勝巳教授、マイク・ミラー研究員は共同で、これまで知られていなかった天然環境中におけるウナギの幼生「レプトセファルス」(※1 以下、「ウナギレプトセファルス」という。)の食性について、JAMSTECが2009年に開発したアミノ酸の窒素同位体比を用いた手法(※2)を応用し、正確な栄養段階(※3)を推定しました。
長い間謎であったウナギレプトセファルスの食性については、これまで体表栄養吸収説、マリンスノー説、オタマボヤのハウス説、ゼラチン質動物プランクトン説という4つの学説(※4)に分かれていましたが、本研究の結果は、ウナギレプトセファルスの栄養段階はかなり低いことを明確に示し(平均2.4)、マリンスノー説を支持しました。本成果は、長年議論されてきた自然環境下での孵化後のウナギレプトセファルスの食性論争に決着をつけるとともに、今後のウナギの完全養殖に向けた取り組みに重要な情報を提供するものです。
本成果は、Biology Letters誌に11月7日付けで掲載されました。

タイトル:A low trophic position of Japanese eel larvae indicates feeding on marine snow
著者名: Michael J. Miller1*, Yoshito Chikaraishi2, Nanako O. Ogawa2, Yoshiaki Yamada3, Katsumi Tsukamoto1, Naohiko Ohkouchi2
所属:1東京大学大気海洋研究所,2海洋研究開発機構,3いらご研究所

プレスリリース資料PDFファイル(618KB)

背景

 ウナギは日本人にとって長らく親しんできた食べ物です。しかし最近になって我が国のウナギの漁獲量は大幅に減少しており、環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定する方針を固めるなど、ウナギを取り巻く環境は大きく変化しつつあります。その一方で、食資源動物としてのウナギを安定的に確保するため、約50年間にもわたってウナギの完全養殖技術を確立する試みが続けられています。実験的には卵から育てた人工シラスウナギも得られるようになりましたが、これを産業化するにはまだコストや飼育技術に課題があり、大量かつ安定に生産するための研究が急がれています。特にウナギレプトセファルスの餌の開発は、完全養殖技術の確立に欠かせない鍵になると考えられており、そのことからも天然環境におけるウナギレプトセファルスの食性を理解することが緊急の課題とされていました。

東京大学海洋研究所(現、東京大学大気海洋研究所)は、1970年代からウナギの産卵場調査を実施しており、研究船「白鳳丸」(現、JAMSTEC所属の学術研究船「白鳳丸」)を用いて、西部北太平洋で研究航海を続け、2009年5月、西マリアナ海嶺の南部海山域で、天然ウナギ卵31粒の発見・採取に成功し、同海域を産卵場と特定しました。

このような背景のもと、ウナギレプトセファルスの食性を解明するために東京大学大気海洋研究所の塚本教授とJAMSTECの大河内プログラムディレクターが協力して、JAMSTECで2009年に生物の食物連鎖の中での位置を特定するため開発した「アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法」(※2)を応用しました。

成果

 まず、「アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法」が実際にウナギレプトセファルスでも応用可能であることを確認するために、いらご研究所で実際に養殖されている人工のウナギレプトセファルスとその餌について分析しました。その結果、この手法が、予想通りこの系についても成り立つことが明らかになりました(図2)。

 次いで、実際に海洋で得られたウナギレプトセファルスを分析しました。その結果、これらの試料の栄養段階が2.4(±0.13、個体数9)であることを見出しました。(図2)。

これまで、ウナギレプトセファルスの食性に関しては、体表栄養吸収説、マリンスノー説、オタマボヤのハウス説、ゼラチン質動物プランクトン説の4つの有力な説(※4)がありました。早い段階で否定された体表栄養吸収説を除くと、オタマボヤのハウス説やゼラチン質動物プランクトン説では、理論上ウナギレプトセファルスの栄養段階は3以上の値になるため、今回の結果は、これらの説では考えにくいことを示しています。2.4という低い栄養段階は、植物プランクトンや動物プランクトンの遺骸が主体であるマリンスノー(栄養段階:1.0-1.5)を食べていることで初めて説明できます。つまり、ウナギレプトセファルスの栄養段階はむしろ植物プランクトンを専食する動物プランクトンの栄養段階に近く、マリンスノー説が最も適切であることが明らかになりました。

今後の展望

 ウナギレプトセファルスが、マリンスノーを餌としていることが明らかになったことによって、今後ウナギの産卵場海域における海洋環境、特に、マリンスノーについて生物学的、生化学的分析を進め、ウナギレプトセファルスの成長にとって必須栄養成分の解明、ひいてはウナギの完全養殖の早期実現への貢献に努めて参ります。

お問い合わせ先

(本研究内容全般について)

独立行政法人海洋研究開発機構
海洋・極限環境生物圏領域 海洋環境・生物圏変遷過程研究プログラム
プログラムディレクター 大河内 直彦 TEL:046-867-9790

(ウナギの生態について)
東京大学大気海洋研究所 教授 塚本 勝巳 TEL:04-7136-6220

(報道担当)
独立行政法人海洋研究開発機構
経営企画部 報道室長 菊地 一成 TEL:046-867-9198

脚注

※1 ウナギを始めとし、アナゴ、ハモ、ウツボなどウナギの仲間が全て幼期(孵化から稚魚のシラスになるまで)にとる幼生の形態で、透明な柳の葉っぱ状の扁平な体をしている。体の比重は小さく、何か月もの間、海洋の表・中層に漂って長い距離を海流によって輸送されるのに適した浮遊適応の形であると解釈されている。

※2 生物に含まれるアミノ酸のグルタミン酸とフェニルアラニンにおける15Nの割合を比較し、食物連鎖の中で、どの位置を占めるかを定量的に示す手法。代謝を通して15Nがグルタミン酸に濃縮するのに対し,フェニルアラニンには濃縮しないことを利用した方法。2009年にLimnology and Oceanography, Method誌に掲載。

※3 「アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法」では、栄養段階は、植物プランクトンなどの光合成生物は1.0、これら植物プランクトンのみを食べる植食者(動物プランクトン)は2.0、さらに栄養段階が2.0の植食者だけを食べる魚は3.0というように、捕食関係で上位にある生物ほど数値が高くなる。

※4 ウナギレプトセファルスの食性に関する有力(有名)な4学説

体表栄養吸収説:ウナギレプトセファルスの消化管の組織学的研究から、消化管が機能的でないとして、ウナギレプトセファルスは一般の仔魚とは異なり経口的に餌を捕らず、その大きな体表から直接海の中の微量な栄養分を吸収するとしたユニークな学説。1986年にPfeilerが提唱。しかし現在では、ウナギレプトセファルスの消化管も一般の仔魚の消化管と同様の微細構造をもち、栄養を消化管壁から吸収することが組織学的に確かめられており、この説は否定された。

マリンスノー説:海洋表層で増殖した植物プランクトンや動物プランクトンは死後、細菌による分解を受けながら、小さな粒子となって凝集・拡散をくり返しつつ海底に向かって沈降していく。これら死骸の沈降がちょうど「海の雪」のように見えることからこの名がついた。Otakeらは1993年に走査型電子顕微鏡による観察から、沿岸で採れたマアナゴのレプトセファルスの消化管の中からマリンスノーを発見し、この説を提唱。2011年にウナギレプトセファルスの個体全体の安定同位体分析によって栄養段階がかなり低いことがMiyazakiらにより報告されたが、マリンスノー説を決定づけるまでには至っていなかった。

オタマボヤのハウス説:オタマボヤは尾索動物(ホヤの仲間)に属する動物プランクトンで、世界中の海に分布する。体全体をすっぽり覆うように、ハウス(包巣)と呼ばれるゼラチン質の袋状構造物を作り、これを使って海洋中の微小な有機物を濾し採って食べる。このハウスはすぐに詰まってしまうので、一日に10回も古くなったハウスを脱ぎ捨て、新しいハウスを分泌する。したがって、海洋中にはオタマボヤのハウスが多数浮遊していると言われている。Mochioka & Iwamizuは1996年に走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡による観察からマアナゴなど様々な種類のレプトセファルスの腸の中にオタマボヤのハウスを発見し、この説を提唱。同時に動物プランクトンの糞粒も発見しており、これらもまたウナギレプトセファルスの餌ではないかと示唆した。また2009年には産卵場において得られた摂餌開始期のニホンウナギのレプトセファルスから、オタマボヤのハウスを多数発見している。

ゼラチン質動物プランクトン説:Riemannらは2007年にヨーロッパウナギの小型レプトセファルスの消化管の内容物について遺伝子解析を行い、ウナギレプトセファルスの餌として、微小なクラゲなどの、ゼラチン質の動物プランクトンが有力であるとの説を提唱した。国内でも同様な手法でニホンウナギの消化管内容物が調べられたことがあるが、特定の餌となる生物は出てこなかった。

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