日本周辺には、北に亜寒帯、南に亜熱帯海域が広がり、両者の間に移行域が存在する。亜寒帯海域は深層からの栄養塩供給によっておこる大規模な新生産を生物生産の基本とし、季節的・経年的な環境変動が大きいことを特徴とする。これに対して亜熱帯は有光層内での有機物分解で生ずる栄養塩の再利用による再生生産を基本とする安定した海域である。このように異なる環境を生息場所とする魚類の新規加入量変動をニシン科で比較すると、亜寒帯のニシンでは年変動の幅が3桁に達するのに対して、亜熱帯のウルメイワシやキビナゴの変動幅は0.5〜1桁と小さい。ニシン科魚類において加入量変動様式の違いを基礎づける繁殖生態と初期生態の特性を亜寒帯、温帯、亜熱帯海域間で比較することによって、個体数の変動(安定)という現象を生態学的に明らかにすることが本研究の目的である。

 宮古湾は三陸中部に位置し、湾口部の幅5 km水深40 m、奥行き10 kmの内湾である。2〜3月にニシン親魚が来遊して湾奥のアマモ場(▲点周辺)で産卵する。湾内の■点に水温塩分計を設置して連続観測を行うとともに、St. 1〜3で毎月水温、塩分、クロロフィル、餌生物密度を観測している。▲点周辺では2001年5月に定置網で体長約20 mmの仔魚が、6月には小型のまき網で変態期前後の仔稚魚が採集された。

 相模川河口におけるコノシロ仔魚採集。相模湾では沿岸域でコノシロの卵や孵化後間もない仔魚が採集されるが、体長10 mm以上の仔魚はほとんど採集されない。2001年6月下旬に相模川河口で採集を行ったところ、これまで沿岸域では採集されなかった体長20mm前後の仔魚がまとまって採集された。コノシロは河口域で仔稚魚期を過ごしている可能性がある。

 土佐湾で船曳網によって採集された全長21〜45mmのウルメイワシ仔稚魚。土佐湾では、秋から翌年春にかけてウルメイワシ仔魚が沿岸で採集される。従来ウルメイワシ漁獲物の年齢組成は0歳〜4,5歳と考えられていたが、最近の耳石日輪解析によって、漁獲物の主体が1歳未満であることが明らかにされた。ウルメイワシの耳石にはきわめて明瞭な日輪構造が見られ、初期生態の解明に重要な方法を提供する。

 

 鹿児島港の淡青丸。亜熱帯水域に分布するニシン科魚類仔稚魚を採集することを目的として、2001年5月17〜26日に土佐湾、トカラ列島、東シナ海域の調査を行い、ウルメイワシ仔魚などを採集した。KT-01-06次航海は鹿児島港で終了した。

 2000年から宮古湾のニシンClupea pallasiと串本沿岸のキビナゴSpratelloides gracilisの、2001年から相模湾のコノシロKonosirus punctatusと土佐湾のウルメイワシEtrumeus teresの生態調査を開始した。これら4種に加えて2002年からはサッパSardinella zunasiも対象種に加える。これらの種の繁殖生態や初期生態については知見の蓄積が少なく、産卵期や初回成熟年齢、仔稚魚期の分布水域や寿命について不明の点が多い。
IKMT採集標本の収容
10 July,2001