「海洋生命系のダイナミクス」プロジェクトの機能系班・「爆発と崩壊の遺伝子探索」チームでは,生物の個体数変動機構を遺伝子レベルで解明することを研究テーマにしています.タビネズミ,トビバッタ,マイワシといった生物の個体群が,爆発と崩壊を繰り返すことはよく知られています.しかし,その機構は未だ明らかになってません.これらの生物を飼育することは可能ですが,個体群の爆発と崩壊という非常に大きな現象を実験室レベルで調べることは不可能です.そこで我々は,モデル生物としてシオミズツボワムシに着目しました.このワムシはサイズが0.3 mm程度と小さく,ケモスタット培養を用いると実験室のビーカーの中で爆発的な増殖と崩壊を繰り返すことができます.また,ワムシの繁殖は単性生殖によるものなので,遺伝的に均一なクローン個体群が得られます.そこで,我々はまずワムシの個体数変動機構を遺伝子レベルで明らかにし,それを他の生物の個体数変動機構を解明するための基礎知見とすることを目指しています.ここでは,現在進行中の研究と成果の一部をご紹介します.

 (1) シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis.海産魚類の種苗生産の初期餌料生物としてもよく知られています.

 (2) ワムシの個体数変動は,個体群を構成する各個体の繁殖や寿命といった生活史特性の変化によって引き起こされることが分かりました.したがって,生活史特性を制御する遺伝子を調べれば,個体数変動機構を解明できるはずです.

 (3) ケモスタット培養装置(写真はWalz博士のシステム).この装置でワムシを培養し,爆発と崩壊を起こすサンプルを作成します.

 (4) 得られたワムシサンプルを用いて遺伝子解析を行います.

この他に,我々は生物の繁殖や寿命を制御している様々な遺伝子群の探索も行っています.こうして得られた情報からワムシの生活史特性の制御機構を明らかにし,そこから生物個体群がなぜ,どのように爆発と崩壊を繰り返すのかという疑問を明らかにします.

 (5) 個体群変動の指標となりそうな遺伝子としてクラスリン重鎖遺伝子が得られました.このタンパク質は細胞内の物質輸送に重要な役割を果たし,アミノ酸配列はヒトと比べて約80%が同じでした.

11 October, 2001