海洋生命系はエネルギー的には独立栄養生物(植物)が作り出した有機物を従属栄養生物(動物、細菌)が利用することにより成立している。海洋生命系のダイナミクスの解明は、食物連鎖系のダイナミクスの理解なしにはあり得ない。海洋の食物連鎖の中で動物プランクトンは植物プランクトンと魚類を繋ぐ橋渡し的存在であるが、そのサイズは数?mの原生動物から数10 cmにもなるクラゲ類にまで及び、それらの食性、生活史、生息空間、生理活性速度などは分類群により大きく異なる。食物連鎖系の中枢に位置する動物プランクトンの役割を理解するには、個々の生物学的特性の解明が必要であるが、生態系の鍵となる重要群に注目して解明するのが肝要な方法である。特に沿岸域は食物連鎖系のダイナミクスが最も活発に機能している海域の一つである。本研究は、沿岸表層の食物連鎖系における主として動物プランクトンのダイナミクスを解明することを目的とする。

 瀬戸内海における食物連鎖系解明を目的とした広島大学附属練習船「豊潮丸」の調査航海。2001年7月29日神戸入港時に撮影。

 カイアシ類Calanus sinicusの摂餌−生食食物連鎖と微生物食物連鎖の接点

 

 瀬戸内海において最も現存量が高いカイアシ類の1種Calanus sinicus。成体雌の体長は約3mm。これまで植物プランクトンが主要な餌であると考えられてきた。  全餌粒子に対する濾水速度と各分類群に対する濾水速度の比較。斜線上方にデータが遍在する微小動物プランクトンは選択的に摂餌されたことを示す。本種は植物プランクトンだけでなく、微小動物プランクトンも摂餌することにより、生食食物連鎖と微生物食物連鎖の両方を経由するエネルギーの接点となっている。

 
 摂餌実験に用いた天然海水中に含まれる餌粒子(微小プランクトン)の珪藻類、渦鞭毛藻類、微小動物プランクトン別現存量組成。珪藻類が優占ことが多かったが、微小動物プランクトンが優占する定点もあった。
クラゲ類の大量出現と摂餌生態−見過ごされていた生態的重要性
 本邦沿岸域に最も大量に出現するミズクラゲ(Aurelia aurita)。呉港における集群の状況。  2000年8月の宇和海におけるミズクラゲのパッチをセスナ機から撮影。海面の白い部分がクラゲのパッチ。
 
 2000年8月に宇和海の海岸線約100 kmに沿って、ミズクラゲ約10万トンが出現。

 赤い部分がクラゲのパッチ(1平方m当たりの平均密度:250個体または40 kg湿重量)。

 パッチ内では餌の動物プランクトンはほとんど食い尽くされていた。これでは魚類に餌が回らない。

11 October, 2001