海洋生物資源量および再生産の経年変動を支配しているメカニズムを解明するためには環境変動(ボトムアップ制御)と捕食と漁業活動の影響(トップダウン制御)の研究が不可欠である。本研究では海洋における肉食性動物プランクトン群の役割に焦点を絞り、捕食ー被捕食の関係からトップダウン制御の問題に取り組む。

 イワシ、アジ、サンマ、サバなどの回遊性魚類は通常数万から数百万粒の卵を一匹の親魚が産卵する。しかしふ化した稚仔魚の大多数は生まれてから数カ月以内に死んでしまう。これを魚類の初期減耗と呼び、その生活史の中でも最も謎を秘めた部分である。初期減耗の原因としては物理環の悪化、餌不足、病気、肉食性プランクトンによる捕食(食害)などが挙げられる。欧米の研究では、ドイツの沿岸では異常発生したミズクラゲが活発にニシンの稚仔魚を補食し、資源の減少に強い影響を与え、米国のカリフォルニア海流に生息するイワシ類はヤムシ類、端脚類、クラゲ類などの肉食性プランクトンによって活発に捕食されていることが明らかにされている。国内でも肉食性プランクトンがイワシ類の初期減耗に強く関連しているとの指摘もある。しかし食害という観点からクラゲ類、端脚類、ヤムシ類などの分布、摂餌生態について言及した研究例はほとんどなのが現状である。

 今回は日本海の津軽半島沖定点における毛顎類および主要餌生物であるカイアシ類の年変動、キタヤムシの食性および相模湾の調査で解明されたエンガンヤムシによるカタクチイワシ仔魚の捕食について報告する。

本プロジェクトで解明を目指す主要な問題点を示す模式図

図1. 津軽半島沖の陸棚縁辺の定点(水深500m)における毛顎類とカイアシ類生物量の経年変動。主要な餌生物であるカイアシ類生物量は通常、毛顎類生物量より多いが、毎年、季節に関係なく生物量が大差ない月もみられ、現在、この原因を解析中である。

図2. 津軽半島沖の定点に出現する毛顎類を冷水種、混合水種、暖水種に区分したときの組成の経年変動。毎年、秋〜冬に対馬暖流の影響が強く黒潮系水を指標する暖水種の占める割合が高い。

図3. 日本海に生息するキタヤムシの大きさと餌サイズの関係。キタヤムシの主な餌生物はカイアシ類で、他にヤムシ類(共喰い)、端脚類、介形類などが捕食されていた。餌保有率は表層が10%以上で高く、200m以深の中層では8%以下であった。夜間の摂餌活動は昼間より活発で、0-1000mに生息するキタヤムシの平均餌保有率は冬季1.9%、夏〜秋季2.1%で季節による大きな差異は認められなっかた。大きな個体ほど大きな餌を保有するする傾向が季節に関係なくみられ、太平洋と比較すると日本海のキタヤムシは大きな餌を捕食していた。

図4. 相模湾大島付近で採集されたエンガンヤムシと捕獲されていたカタクチイワシ仔魚のサイズの関係。相模湾ではカタクチイワシの仔魚の多い水域で、エンガンヤムシによる捕食も活発で餌の密度と摂餌量の間にに正の相関が認められた。

 

図5.エンガンヤムシに捕食されているカタクチイワシ仔魚

4 June, 2002