水産資源は絶えず変動するので,MSY(最大持続生産量)の実現など資源の定常状態を前提とした管理は必ずしも現実的とはいえない.また,資源の管理に必要な情報は必ずしも正確に得られない.この不確実性は資源利用について対立関係にある関係者間の論争をしばしば引き起こす.対立は共通の資源を巡る競争的な利用,対象生物の価値観を相違などが見られる場合に起こる.後者の例として鯨類を挙げると,水産資源,人類が守るべき野生生物,見て楽しむ野生生物,ホエールウォッチングを通じた観光資源,有用魚介類を食べる有害動物など多様な見方が存在する.資源として野生生物を利用する立場には予防原理を適用し,漁獲という人為が資源に与える影響について十分に分かっていない時には漁業側に負荷をかけるという発想がなされようになった.

 このような状況で,資源の変動性と不確実性をキーワードとする資源管理を通じて,資源の持続的利用を図ることが求められるようになった.

 最近の研究の紹介

1)生態系の保全を考慮した資源管理に関する研究

<多種混獲資源のフィードバック管理>

 数多くの種が生息し,高い漁獲量を与えてくれた東シナ海に戻すためには生態系管理の視点を持つ資源管理が必要である.多種混獲漁業である底びき網漁業の漁獲努力量を特定の1資源の変動を基に変化させるフィードバック管理方式を提案した.多種混獲での資源管理の問題点を図1に示す.

<禁漁区による管理>

 ある面積の禁漁区を設けることにより,資源を回復させる管理方式を開発中である.この方式は生物多様性保全の面で有効であるとともに,資源情報の不確実性に対して頑健である.

2)資源特性値の推定

 <標識再捕データを用いた移動率の推定>

2回放流を行うことで,標識脱落・不完全報告に頑健な移動率推定法を開発中である.

図1 多種混獲の状況での単一種資源管理の問題点.

共通の努力量の変動に対して各資源は独立に変動しない.ある資源と対象とした努力量の制御は増加率の低い,あるいは漁獲能率の高い資源を乱獲状態にする恐れがある.

3)イルカ類スナメリの保全生態学的研究

 <航空機目視調査による個体数の推定>

スナメリは人間の生産活動の影響を受けやすい沿岸海域に生息し,個体数の減少が危惧される.西九州,瀬戸内海でセスナ機による目視調査を行い,分布と個体数について調べた(図2).

図2 スナメリ.背びれがなく,頭が丸い(くちばしがない)のが特徴.人間くらいの体長を持ち,日本近海では最も小型のイルカ類.

図3 スナメリの目視観察に利用したセスナ機.本種は,港の防波堤そばなど,浅くてごく岸寄りの海域にも出現するので,大型船舶では調査を行いにくい.

04 October, 2002