海洋生物は細胞内外に硬組織を形成し、その大部分が石灰化しています。海洋生物は石灰化産物として主に炭酸カルシウム結晶を形成します。この炭酸カルシウム結晶中には微量の有機物が含まれることから、これらの有機物が結晶形成を制御すると考えられてきました。我々はこの有機物の実体を明らかにするために魚類(シロサケ、ニジマス)、甲殻類(ザリガニ、フジツボ)、藻類(円石藻)をモデル生物として選択し、それらが形成する「石」に含まれる有機基質の化学構造を生化学的、分子生物学的手法を駆使して明らかにしました。それらはタンパク質、糖タンパク質、酸性多糖と生物によって固有の化学構造を有していました。今後はこれらの有機基質が石灰化反応に実際にどのように関与するかといった、機能を明らかにすることを目標としています。海洋生物によって行われる石灰化は地球の炭素循環に大きく寄与する化学反応であり、石灰化制御機構を解明することは、地球環境問題を考える上で大きく貢献できるだろうと考えています。

ニジマスの耳石の光学顕微鏡写真(左図)および耳石形成機構の模式図(右図)。内耳小嚢に特異的な基質タンパク質が分泌され、炭酸カルシウム結晶が構築されると考えられている。我々は耳石に含まれる主要な有機成分である糖タンパク質(OMP-1、Otolin-1)の化学構造を明らかにした。

ザリガニ(左図)の殻に含まれる新規ペプチドCAP-1(右図)。このペプチドはC末端側にホスホセリンやアスパラギン酸等の酸性アミノ酸に富む領域を持ち、in vitroにおいて炭酸カルシウムの結晶成長を強く阻害する。またクチクラタンパク質に共通のRebers-Riddiford配列を有し、キチンとの結合性を示す。

円石藻Pleurochrysis carteraeの走査型電子顕微鏡写真(左図)。細胞表面に炭酸カルシウム結晶を主成分とする円石(コッコリス)を沈着する。円石藻は世界中の海洋に広く分布し、大規模なブルームを形成することから地球の炭素循環に大きく寄与していると考えられている。我々はコッコリス中からin vitroで炭酸カルシウム形成を強く阻害する新規の酸性多糖を単離した(右図)。

上記の研究成果は本年9月に新潟で開催された第8回バイオミネラリゼーション国際シンポジウムにて発表した。

31 October, 2001