DOBIS monthly report
No. 4 (September, 2001)


変動系班

「管理と保全の変動モデル」

(東京大学海洋研究所・松田研究室)

海の魚には限りがある。そして、多くの魚は乱獲によって数がどんどん減っている。私たちがいまいちばん大切な言葉は持続可能性である。つまり、次の世代に私たちと同じ自然の恵みを伝えることである。?そのためには、(1)子供の魚を獲らないこと、(2)減った魚を獲らないこと、(3)卵を産む前の親を獲らないことがたいせつである。逆に、たくさんある魚をたくさん獲ることがたいせつだ。実は、乱獲されている魚は種数こそ多いが、漁獲量はそれほどでもない。世界の総漁獲量は1988年に1億トンを超えた。それ以降はいったん減少し、乱獲によって漁獲量は飽和したとも言われた。しかし、この一時的減少の原因は日本のマイワシの資源崩 壊であり、乱獲ではない。1994年現在、世界の浮魚類の総漁獲量は約4500万トンである。図1からわかるように、浮魚類の漁獲量は変動しつつも増え続けている。浮魚類の資源変動機構を数理生態学的に明らかにすることによって、変動する浮魚資源を有効に利用する漁獲方策を解明することが、本研究の目的である。

図1 世界の漁獲量(FAOのデータベースより作図)。下の黄色い部分は海産底魚、中段の濃い色の部分は海産浮魚類の漁獲量を表す。

図2 おもな浮魚類の全国漁獲量の経年変化(農林水産省全国漁獲統計、Matsuda et al. 1992より

3すくみ仮説:マイワシ、カタクチイワシ、サバの間にグーチョキパーの3すくみ関係があれば、資源はこの順番に永久に振動しつづけることができる。これは、数理生態学ではMay-Leonard軌道と呼ばれ、以下の微分方程式で表される。
??????????dN1(t)/dt = c1 + [r1 - a11N1 - a12N2 - a13N3]N1,
??????????dN2(t)/dt = c2 + [r2 - a21N1 - a22N2 - a23N3]N2,
??????????dN3(t)/dt = c3 + [r3 - a31N1 - a32N2 - a33N3]N3,
ただしciは微少な正の定数(各種固有の生育域から沖合資源への補給を表す),riは内的自然増加率,aijは種jが種iに与える負の影響の強さを表す.ajjrk>akjrjajjri<akiriなどの条件を満たすとき(i,j,k)=(1,2,3),(2,3,1)または (3,1,2)、図3のような周期軌道が現われる。

図3 数理モデルによる3種の魚種交替の再現(松田2000。左は定常環境。右は変動環境のモデル。灰色線、太線、細線がそれぞれ「マサバ」、「マイワシ」、「カタクチイワシ」の資源量(個体数)を表す。

サバの過去を読む

マサバ太平洋系群は、1980年代から減少し始めたが、その間の漁獲率はかなり堅かった。自然変動に乱獲が追い討ちをかけるか達で、1990年代には資源の低迷期を迎えた。
 その後、1992年、1996年と2度の卓越年級群が発生した。親魚量が少なかったので、1親当たりの子供の数(RPS=Recruitment per Spawning biomass)は1970年以来ないほど高かった。おそらく、1960年前後のマサバ回復期に匹敵すると思われる(図4)。ところが、せっかく生まれた大量のマサバが、成熟齢(約3歳)になる前にほとんど獲り尽くされてしまった。
 もしもこれらの年級群を保護していたら、今ごろはどれくらいマサバがいただろうか?加入後の生残率などが推定できれば、コホート解析と呼ばれる手法により資源量とRPSの値とそれらの年変動が推定できる。この推定値を用いて、未成魚を保護した場合の資源回復の様子を試算することができる。1992年級群が多量に親になり、再び親1尾あたりの子供の数(RPSに対応)の高い1996年に再び多量に子供を残すことができるため、20世紀末にはかなりマサバが回復していたと予想される(図5)。今後も1990年代と同じように未成魚を獲り続ける場合、卓越年級群が何回発生するかにもよるが、資源が回復する可能性は大変低い(図6)ことが懸念される。

4 マサバ太平洋系群の漁獲量と、谷津明彦らのコホート解析による資源量の推定値と、それから得られるRPSの年変動


図5 マサバ太平洋系群の1990年代の資源量と漁獲量の変動。現状と未成魚を保護管理した場合の数値計算。1992年級群を保護した場合、1993年の漁獲量は現状より低くなるが、その後は資源量の回復により、漁獲量も増えていくことがわかる。

6 今後のマサバの資源変動の数値実験。90年代の漁獲率を続けた場合。画面をクリックするとMicrosoft Excelが起動し、”F9”キーを押すと異なる乱数で計算される(お使いの機種及びバージョンにより、起動しないことがあります)。


Matsuda, H., Wada, T., Takeuchi, Y. & Matsumiya, Y. (1992) Model analysis of the effect of environmental fluctuation on the species replacement pattern of pelagic fishes under interspecific competition, Researches on Population Ecology 34:309-319.
松田裕之(2000)『環境生態学序説』共立出版