化学合成細菌が作る有機物を使って生きている生物達の集まりを化学合成生物群集と言います。日本の周りの深海域には、海洋プレートの沈み込みに伴う冷湧水域や、海底拡大や海底火山活動により熱水が噴出している場所で、多くの化学合成生物群集が発見されています。私たちは、そうした生物群集に固有な動物達を対象に、その生態や進化を研究しています。その一環として今年度は、「しんかい6500」による西部南海トラフと千島海溝の冷湧水域の調査に参加しました。

熊野沖の水深2500mと3200mから、異なる種類のシロウリガイが採集され、貝殻の形態と遺伝子解析により系統分類の研究が進められています。また両方の場所からLamellibrachia属のハオリムシ(チューブワーム)も採集されました。このハオリムシは、東部南海トラフから採集されているものと同じ種であると思われますが、今回のサンプルにより、2つの集団間や水深の違いによる遺伝的な分化を定量的に解析する事が可能になりました。

千島海溝では、1987年の日仏KAIKO計画以来となる潜航調査をおこない、ナギナタシロウリガイコロニーの再発見と採集に成功しました。同じナギナタシロウリガイが住む日本海溝と千島海溝は、襟裳海山の沈み込みに分断されています。今回採集したサンプルを使って、2つの海溝の集団間に、遺伝的な差があるかどうかを調べています。

熊野沖の水深2500mで採集されたシロウリガイ

熊野沖の水深3200mのシロウリガイ

熊野沖で採集されたハオリムシ(チューブワーム)

コロニー

ハオリムシをチューブから出したところ

千島海溝で採集されたナギナタシロウリガイ

ナギナタシロウリガイを解剖しています

11 September, 2001