1.ナノ・ピコ植物プランクトンの群集動態

基礎生産の連鎖系の研究は「生食連鎖」と「微生物ループ」の類型を軸に展開されているが、知見は珪藻や渦鞭毛藻などの比較的大型の植物プランクトンに集中している。個体サイズの小さいナノ・ピコ植物プランクトンでは季節や海域による生物量の変動が珪藻などに比べてはるかに小さいことが知られているが、生物量がどのような仕組みで決められているのか、さらにどのような分類群の藻類がナノ・ピコプランクトンとして出現するのかについて不明の点が多い。本研究はそれらを解明を通して小型の植物プランクトンが海洋の低次生物生産に果たす役割の理解を目指している。

ナノ・ピコ植物プランクトンは一般に形態的特徴に乏しいが、クロロフィルおよびカロチノイド組成は綱レベルで分類群ごとに異なっている。これを利用するとHPLCによる色素分析から各分類群のクロロフィルa(Chl)量を見積もることが可能である。この図は東シナ海の春季と夏季における各藻類グループのChlを全Chlに対してプロットしたものである。珪藻類では群集全体のchl量が高いとそれに応じて高いchl量を示すが珪藻以外ではいずれの分類群でもchl量に上限がある。上限値は小型の藻類ほど低い傾向があり、栄養塩が十分量存在しても珪藻類以外の藻類のchlは低いレベルに維持されている。

2.フィコエリスリンの吸光特性

藻類細胞はクロロフィル(Chl)、カロチノイド、フィコビリン蛋白(PBPs)などの色素を持ち、水中で減衰しやすい光エネルギーを効率よく吸収している。ChlやカロチノイドはHPLCによる定量法が確立されているがPBPsについては実用的な方法が無く、海洋にどの程度の濃度で分布するのかについてすら不明である。海洋に出現するシアノバクテリア中でもっとも普遍的かつ多量に出現するSynechococcusに注目し、その主要なPBPsであるフィコエリスリンについて、定量法の開発、およびSynechococcusの弱光環境への適応に果たす役割を調べている。

 フィコエリスリンの吸光特性は多様で、Synechococcusの株間でも大きく異なる。図はDC2株とMAX42からのフィコエリスリン粗抽出液の吸光スペクトル。

 2000年12月〜2001年1月の西部太平洋赤道域におけるクロロフィルaおよびフィコエリスリンの鉛直分布。

3.Green Noctilucaの生理生態学

従属栄養者への基礎生産物の分配は食関係ばかりでなく、共生藻を細胞内に持つ従属栄養者や混合栄養者の存在など多様である。共生藻がホストの群集動態にどのような影響を及ぼすか、逆にホストが共生藻の消長をどのように制御しているかを、緑色鞭毛藻Pedinomonas noctilucaeを共生藻として持つヤコウチュウ(green Noctiluca)をモデル生物として解析している。

 温帯域のヤコウチュウは紅色の(左)、熱帯アジアのヤコウチュウは緑色の(右)プルームを形成する。green Noctilucaの細胞内には共生藻が多数存在する(右挿図)。

 green Noctilucaは活発に粒子食を行う。図は接合子、矢印は食胞様顆粒。

 

11 January, 2002