変動系:海洋生命系の変動は人類に何をもたらすか? 

 変動系班は,どのような仕組みで海洋動物の個体数変動が起こるか,どのような変動の改変が人間活動によってもたらされるか,どうしたら変動する個体群を資源として合理的に利用できるか,を明らかにすることによって,海洋生命系の変動が人類にもたらすものを展望する.初年度前半,分担者・協力者はこれまでの研究蓄積に基づいて研究の焦点を絞り込み,新たな観点からデータの蓄積や解析を開始している.


 海の資源変動のしくみ

 渡邊良朗(東京大学海洋研究所)

−ニシン科魚類における資源変動様式の南北差の比較生態学−

 ニシン科魚類のうち,最も北に生息するニシンについて宮古湾で,最も南に生息するキビナゴについて串本周辺で,産卵期から初期生活期の野外調査と仔稚魚飼育を行った.ニシンは天然魚と放流魚の生態の比較をおこない,キビナゴはふ化後2ヶ月で40 mmに成長し,60 mmで成熟可能になることなどが新たにわかった.11月16,17日にニシン科魚類の繁殖生態と資源変動に関するシンポジウムを行う.

 変動のトップダウン制御

 寺崎 誠(東京大学海洋研究所)

−日本周辺海域における肉食プランクトンの分布生態・摂餌生態に関する研究−

 海洋に生息する主な肉食動物プランクトンとしてはクラゲ類,ヤムシ類,端脚類,オキアミ類,カイアシ類などが挙げられるが,端脚類,オキアミ類,カイアシ類などは初期には植物プランクトンを餌とし成長に伴い,肉食に変わる種類も多い.表層(0-200 m)生態系ではカイアシ類を主とする動物プランクトンや仔稚魚を捕食するクラゲ類やヤムシ類は生物量も多く食物連鎖における役割も大きい.特に各水域における生物量の把握,分布生態,生活史,摂餌生態の研究および捕食者の解明は最終目的に生態系モデルを構築のためのデータ提出する上で不可欠である.今年度は日本近海,アラスカ湾に生息するキタヤムシの分布・摂餌生態を明らかにし,エンガンヤムシによるカタクチイワシ仔稚魚の捕食も確認した.

 海流による生物輸送モデル

 木村伸吾(東京大学海洋研究所)

−亜熱帯循環系における卵・稚仔輸送機構−

 ニホンウナギを対象として,北赤道海流域における幼生の輸送拡散過程および,数年から十数年スケールの地球規模の海洋変動現象がシラスウナギ資源量に与える影響について,数値シミュレーションと統計資料解析から定量的な検討を行った.

 管理と保全の変動モデル

 松田裕之(東京大学海洋研究所)

−生物の繁栄と絶滅の数式モデル−

 マグロやクジラのように乱獲された長寿の資源を保護した場合,乱獲時には若齢魚が主体であり,回復時には徐々に高齢化が進む.いまの日本人が少子化にもかかわらず人口が増えつづけているのとは逆に,管理を始めてからしばらくは依然として成魚が減りつづけ,増え始めるまでには時間がかかる.さらに,いったん回復しても単調に増えつづける訳ではなく,再び減り始めることがある.これは管理の失敗を意味するものではなく,齢構成の歪みによる.団塊の世代が親になったとき,少子化にもかかわらず第2次ベビーブームが起きたのとは逆に,乱獲時代の親が産んだ子供は,保護していても減る.これらを人口学的慣性(demographic momentum)と名づけた.ミナミマグロとミンククジラについて,この人口学的慣性の効果を見積もった.

 ヒューマンインパクト

 宮崎信之(東京大学海洋研究所)

−人間活動が海洋環境に与える影響−

 有機塩素系化合物(PCBs,DDTs,BHCsなど),有機スズ化合物(TBT,DBT,MBTなど),重金属類(Hg,Cd,Pbなど),放射性核種(PuとCs)などの有害化学物質による海洋汚染と生物影響について,代表的な生物種(イルカ,アザラシ,ワレカラなど)を用いて研究を進めている.対象海域として,日本近海は勿論のこと,その他の海域をも視野に入れており,最終的には地球規模での海洋汚染状況を把握し,各海域で起きている生物影響を明らかにすると同時に,そのメカニズムを解明することを目指している.


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