東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第6章 大型研究計画の推進

6-3 GOOSおよびNEAR-GOOS

1990年代に入り,気候変動を含む地球規模の環境変動における海洋の役割が重要であるとの認識が国際的に浸透し,ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)において,気候変動をはじめとする研究等に必要な地球規模の海洋観測システムを構築する「世界海洋観測システム(Global Ocean Observing System GOOS)」の計画が進められた.1992年6月にブラジルで行われた「国連環境と開発会議」(いわゆる地球環境サミット)で採択されたアジェンダ21にGOOSの構築が盛り込まれ,IOCを中心に関係機関と共同してGOOSを推進することになった.

こうしたことを背景に,国内でも計画づくりが進められ,1992年度には科研費により「世界海洋観測システム(GOOS)設計のための基礎研究計画の立案」が実施され,その結果を受け,文部省特別事業費「海洋観測国際協同研究計画(GOOS)」が海洋研究所の平啓介教授を代表者として1993~1997年度の5年計画で実施された.この研究には多くの大学関係機関が参画し,以下の5つの研究課題で構成された.

  • (1) 北太平洋の循環系の流量と熱輸送の評価のための基礎研究
  • (2) 海洋の基礎物理過程の評価法の確立のための基礎研究
  • (3) 高解像度海洋循環モデルによる海洋観測システム設計の研究
  • (4) 海洋環境の時系列データ取得手法の確立のための基礎研究
  • (5) 新しい観測技術を用いた流速と生物分布のモニタリングの研究

この研究計画の成果は,1998年2月に沖縄県で行われたIOC西太平洋海域委員会(WESTPAC)の科学シンポジウム等で,太平洋域におけるGOOSへの貢献として高い評価を得た.国際的なGOOS構築においては,全球規模の観測システムの構築と同時に,特に海洋生態系への影響等の課題については地域レベルの観測システムの構築が重要であるとされ,わが国周辺地域では日本海や東シナ海を含む海域を対象に「北東アジア地域GOOS(North-East Asia Regional GOOS: NEAR-GOOS)」が開始された.

これらを背景に,1998年度からは上述の研究計画の後継として「縁辺海観測国際協同研究計画(NEAR-GOOS)」が開始された.これは1999年度から科研費の特定領域研究B「縁辺海の海況予報のための海洋環境モニタリングの研究」に変更となり,2002年度まで合わせて5年にわたって実施された.1997年度までの研究が主として国際GOOSの気候モジュールに対応するものとなっていたのに対し,1998年度からの本研究は,より広い範囲の課題に対応する観測システムを視野に入れた計画となり,以下の8つの課題で構成された.1998年度の研究開始から2002年度半ばまでは平啓介教授が代表者を務め,2002年9月から計画終了までは川辺正樹助教授が務めた.

  • (1) 東シナ海・日本海の海流モニタリングの研究
  • (2) 潮位変動等による海流モニタリングの研究
  • (3) 東シナ海の海況モニタリングの研究
  • (4) 海洋生物資源と環境のモニタリングの研究
  • (5) 縁辺海の海況予報モデルの開発の基礎研究
  • (6) 縁辺海の環境変化に関わる科学物質のモニタリングの基礎研究
  • (7) 縁辺海の海洋基礎生産のモニタリングの基礎研究
  • (8) 人工衛星による縁辺海と黒潮変動のモニタリングの研究

2002年半ばまで,大半の計画期間の代表者を務めた平教授は,ちょうどこの時期にIOC西太平洋委員会(WESTPAC)の議長を務めており,WESTPACにおける重要事業のひとつであったNEAR-GOOSに対するわが国の貢献が国際的な場で示しやすい環境にあったと言える.大学関係機関の参画による科研費の研究に加え,海洋観測データの交換などには対しては,気象庁および海上保安庁がNEAR-GOOSのデータベース構築・運用を通じて大きく貢献した.海洋研究所の関係研究者は,担当機関への助言等を通じてこうしたGOOSに関連する海洋サービスの充実の面でも重要な寄与をした.